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8.ドラゴンはユニコーンについて語る

読んでいただきありがとうございます。

ようやく乙女ゲーム転生ものっぽさが出せたかとおもいます

 待て待て待て待て、落ち着け。

 ゲームの世界にいる?

 そんな面白おかしいこと、あるわけないじゃないか。

 なんだかワクワクしてきた。

 ニヤついてしまいそうな頬を引き締めるのが大変だ。

 喜んでいる場合じゃない。そう、強敵を前にした戦闘民族野菜星人みたいな事を言っている場合じゃないのだ。

 だいたい、それらしい要素は、パッケージイラストと同じ絵柄の絵画と、目の前のフィアツハイブルグぐらいだ。

 当たり前だけれどゲームの世界は二次元の「イラスト」が表示される。私の腕を取っている皮一枚美形、正体はハニー・ジャンキー・ドラゴン。彼は三次元の存在だ。とはいえ、良くできた2.5次元のキャラクターの如く素晴らしい再現率なのだ。本当にイラストによく似ている。

 よく似ていてワクワクしてしまう心を落ち着け、私は懸命にゲームの内容を思い出した。

 ハマったゲームであることは間違いないのだけれど、何しろ記憶が曖昧だ。

 それにゲームによく似た絵が出てきたり、皮一枚美形ドラゴンが出てきたりはするが、全て同じとは言えない。

 例えば、イデオン・シーデーン男爵も、グレータ・シーデーン嬢も出てきた覚えがない。

 攻略対処として、ライオネル殿下は出てきた気がするぞ。

 イデオン君だって攻略対象『年下の可愛い美少年』枠でいてもおかしくないのだが、覚えがない。

 シェリー・チアーズ嬢は……。

 うんうん唸りながら思い出す。

 いた気がする。

 シェリーは。ビームサーベルを振り回す美少女は……。

 主人公だ!

 ゲーム画面の端っこやら中央やらによく出てきたし、ムービーでも登場していた。

 喉の小骨が解決した時並に、すっきりした。

 そうそう、主人公だ。元気で明るくて素直で、きらきら美形攻略対象達に遠慮なくガンガン近づいていく、そういうタイプの主人公だ。

 恋愛シュミレーションRPGを名乗っているにふさわしく、武闘派主人公だ。

 「急にどうした?腹でも痛いのか?トイレはこっちだぞ」

 場所を教えてくれようとする、デリカシーを見失ったドラゴンの足を、無言のまま踏んづける。

 「何をするのだ。痛いではないか」

 遠慮のない呵責に、ファンタジー最強生物は目に涙を浮かべた。

 恐竜は痛覚が鈍かった説を見たことがあるけれど、巨大ドラゴンは見た目通りらしい。

 「失礼いたしました」

 「少しも悪いと思ったおらぬではないか。凶暴な悪霊め」

 フィーちゃんはぐすぐすと鼻を鳴らす。

 本気で泣くほど痛かったのか。ちょっと悪い事をしたかな。

 でも相手も私の悪口言ったからな。これはお相子だ。

 「ドラゴンのくせに、足を踏まれたぐらいで泣かない」

 「そういうセリフは、せめて踏んだ者以外が言うべきであろう!余のゲルダはこんな下品な女ではなかった」

 まだ泣き言を言っている。

 見た目は二十歳を過ぎた大人に見えるけれど、行動がいちいち子供っぽい。

 ドラゴンは幼稚な種族なのだろか。

 それよりも、ゲームとの類似点を探してみよう。

 少し似たところがあるから、強引に同じだと考えてしまうのは危険だ。

 反面、突然ファンタジーな世界にやってきたからと言って、ドラゴンだの王子様だの、ビームサーベル少女だのと言った類似点がぞろぞろ出てくるのもおかしいだろう。

 行動が子供っぽいドラゴンでも知ってそうなキャラクターというと……。

 「フィーちゃんは、女の子に理想が高すぎるユニコーン知らない?」

 攻略対象にはなぜかドラゴンとユニコーンがいたのだ。

 同じ人外枠で知り合っていないだろうか。

 「余の話を聞け!」

 足踏み事件を綺麗に忘れ去った私に対して、ドラゴンはしつこく拘っていた。小さいドラゴンだな。

 「知ってるの?知らないの?頭に角が生えた、びっくり生物だよ」

 「……少なくともユニコーンは知っている」

 「詳しく教えて」

 エスコートしてくれている腕を、ぐいぐいと捕まえ、二階への階段を引きずるように登り始める。

 私の勢いにフィーちゃんは目を見開いていたけれど、文句を言わせる時間はないのだ。

 仮説「ここはゲームの世界。ないしゲームによく似た世界」であったとしたら、迫りくるゲルダ様の危機を回避できるかもしれないし、そもそも私が呼ばれた理由が分かっちゃうかもしれないではないか。

 わざわざ王都まで行ったり、お試し王都虐殺をしたりしなくても、スマートに解決できる。

 素晴らしい。

 それから、ドラゴンがいるなら、ユニコーンだっているだろう。せっかくだから、ペガサスとか、雪男とか、座敷童とかもいると良いな。ゲームにはUMAも妖怪は出てこなかったけど。

 スフィンクスとなぞなぞ勝負も楽しそうだな。

 ゲームの世界は中世ヨーロッパ風ファンタジーだけど。

 エジプト辺りはかすりもしなかったけれど。

 私が好きなのよ。

 ロマンなんだよ、モンスターは。

 半ば引きずるようにフィーちゃんと連れ立って二階へ上がった。ゲルダ様の寝室に戻ろうとしたら、扉が多すぎて迷う。

 すべてが豪華絢爛で、ベルサイユへいらっしゃい的な屋敷なのだ。

 同じようなデザインの扉ではなく、それぞれに意匠が凝らしてあるし、廊下の要所要所には、消化器設置場所のように彫像が置かれている。

 この世界の消防署は、一定間隔で消化器ではなく彫像を置くように指示しているのかと言わんばかりだ。

 始めて訪れたマンモス校で迷う転校生のような気分だろうか。

 お屋敷の規模は、本当に学校並の広さなのだ。豪華さは比べるべくもない。

 きょろきょろしている私の腕を、フィーちゃんは溜息と共に引っ張って歩き出した。

 もはやエスコートではない。お手手つないで歩いているだけだ。

 「詳しくも何も、余とあ奴らは棲む場所が違う。

 そこまで詳しくはない」

 ぼそぼそとした返事は歯切れが悪い。

 「どこまで詳しいの?」

 「頭に角が生えている馬だ」

 「見た目だけじゃない」

 「だから詳しくないと言っているだろうが。

 人間の言葉で言えば『闇のドラゴン』『光のユニコーン』というからな。他にも『大地のベヒモス』『大海のレヴィヤタン』とか。

 つまり余とユニコーンどもは、棲む場所が違う」

 「仲が悪いの?」

 光と闇で対立しているのかな。

 「そういうものではない。闇と光と言っても、対立してはいない」

 「長生きドラゴンのわりに。物知らずなのね」

 長い時を生きるドラゴンっていうのは、物知りで冒険者に知恵を授けてくれたりする存在じゃないのか。

 「余はまだ生まれて三百年しか経っておらぬ。長生きというほどではない」

 「……」

 三百年生きる人間はいないので、コメントが返しづらい。

 この世界の人間は生きるかもしれないけど。

 そもそも魔法を使うんだから、私が考えているホモサピエンスと同じ生物とは限らないしなぁ。

 「物識り自慢はマンティコアやスフィンクスに任せておけばいいのだ。

 ドラゴンは財宝を守ればいいのだ」

 フィーちゃんなりに傷ついているらしい。

 今度キラキラ光るガラス玉を上げよう。きっとドラゴンはファンタジー的カラスとして、きらきら財宝が好きだろう。そして私は仮ゲルトルーデ嬢なので、ガラス玉の一つや二つ用意できるだろう。

 「それで、知っているユニコーンは?女の子に理想が高いタイプ?」

 「あやつの理想は知らんが、少なくとも処女が好きだな」

 デリカシーを見失ったドラゴンは、身も蓋もない事を言う。

 「純潔を求めるのか」

 「人間の雄とて処女が好きだろう。処女が好きなのはユニコーンに限ったことではあるまい」

 「人間の雄の好みは、人間の雌として良く分からないけど。

 男系社会において、配偶者の処女性が重要視されることはありますね」

 女系社会においては父親の特定は、どうでもいい事らしいけれど。

 「だから余が知っているのは、ユニコーンどもが交尾したことのない雌が好きな事ぐらいだ。他は知らん」

 何も知らないのと一緒だよ。

 私が知っている「聖王国リヒトと剣の乙女」は、恋愛シュミレーションRPGなので、恋愛対象美形男子が何人か出てくる。

 その中に正体はユニコーンというヤンデレ枠がいたのだ。

 強烈なキャラクターなので覚えている。

 主人公が、たとえ一回でも他の男性キャラクターと喋っただけで「お前からはほかの雄の匂いがする」とか言い出して、攻略不可になるという恐ろしいキャラであった。

 そんなのが攻略キャラクターとして成立しているのか。

 主人公から話しかけに行った場合だけではなく、相手との遭遇イベントで、強制的に会話がスタートした場合でもアウトなのだ。

 「自分以外の男と喋ったら不機嫌になるようなタイプ?」

 「……」

 フィーちゃんが遠い目をする。

 「余はあいつらに求愛されたことはないから、良く知らん。

 男と喋れんのであれば、父親がいる娘は全て嫌いになるであろうよ」

 そりゃそうだ。

 人間というものは有性生殖をするのだから、雄と関わらずに生まれる娘は、あんまりいないだろう。


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