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6.侍女は常識を説明する

読んでいただきありがとうございます。

ぼちぼちストックが尽きるので、更新速度が落ちると思います。

男爵に会ってみよう、と決まったものの、ゲルダ様は公爵令嬢だ。

ベッドから這い出てすぐとはいかない。

着替えて髪を整え薄化粧をして、初めて部屋から出られる。

体感時間にしておよそ三十分。時計が見当たらないので実際の時間は分からない

早いのか遅いのか知らないけど、「行くぞ!」となってから待たされるには長い。

秘密厳守の為に、身支度は全てグレータさんが行ってくれる。この人も男爵令嬢だろうに、と思っていたら「わたくしはもともとお嬢様の侍女でございます」と告げられた。元からこういう職業だそうな。

高位貴族に配下に当たる下位貴族の令嬢が仕えているわけだ。

身支度は、化粧室という寝室とはまた別の部屋に移動し、鏡台の前で化粧やら髪型やらを整えてもらえる。

当然見るモノ全てが珍しくおもしろかったので、ここぞとばかりにグレータさんに質問し続けてみた。

化粧室は二間続きで、着替えと化粧と髪結いをされる場所は、壁一面鏡。日頃使い慣れた鏡とはなんだか違う気がするけれど、姿が映るという意味では同じだ。さらに化粧台としての鏡台もあり。夜中に来ると合わせ鏡で恐怖体験が出来そうな部屋だった。

もう一部屋は、衣裳部屋であった。「衣装」だけの部屋であった。宝飾品、靴やら扇、帽子などなどおしゃれアイテムはまた別に管理されているらしい。もちろん帽子はおしゃれアイテムであって、暑いから被るわけではない。日射病予防ではないのだ。

お金が有り余っているところは凄いなぁ。詳細は思い出せないけど、少なくとも日本の小市民だった私なら、この二間で生活できそうだ。

何でも質問してくる私に、グレータさんは楽しそうに親切に答えてくれる。私が彼女の大切なお嬢様とはあまりにも違うことに気付かされながら、その事実に気を紛らわせているようだった。

おしゃべりに付き合ってくれながらも、手際よく膝まで届きそうな長い黒髪を結いながら、グレータさんはあちこちにオパール風真珠みたいな飾りを刺して行く。

召喚された時にも見たなと思い出し尋ねてみた。

バチバチ派手な音を立てながら転がり落ちて、その後炭みたいに真っ黒くなっていたな。

「魔力制御用の飾り玉ですわ。魔石でできております。お嬢様は特に魔力量に優れていらっしゃるので、暴発しないように抑えております。

髪飾りの形をしているのは、女性には使いやすく、魔力が蓄積するのは髪が一番多いと言われているからです」

異世界人の私に配慮した優しい説明であった。

なるほど。

弱虫で愛の詩を書いてしまうお姫様は、地力だけはすごく高かったんだなぁ。

「私が召喚された時、弾け飛んで、黒くなってたんですよ」

凶霊召喚には邪魔だったのかな、と思っていると、髪を結っていたグレータさんが目を剥いた。

「……流石お嬢様。

強制的に魔力を押さえる飾り玉を、力づくで弾き飛ばすとは。飾り玉が力を失うと黒くくすむのですよ」

「はははは」

笑うしかない。

大リーガー養成ギプスとか、亀仙流の修業用甲羅を付けていたはずなのに、いざとなったら引きちぎってしまったという事か。

「わたくしは専門家ではありませんが、貴族の末席でございます。故に、わたくしでも一応魔法使い、と呼ばれる程度の魔力は有しております。

お客様は、異なる世界からいらしたとの事。

お嬢様のお体に飾らせていただいた、この制御玉がわたくしにつけられたとしたら、魔法は行使できず、意識を保つのも難しいほど。とご説明すれば、いかほどの事か感じていただけるでしょうか」

凄いということは良く分かった。

 ゲルダ様は、本気を出すとき重りを外す某野菜星人のような人なのだな。

 「魔法とは何か。これは専門の教授が定義なさるでしょうけれど、魔法は感情の乱れで大きく左右されることは確か。

 制御玉が無効化されるほどの、苦しみがお嬢様を苛んだのだと思うと。お気の毒で。お気の毒で」

 呑気な事を考えていた私の背後で、グレータさんの目が、今にも涙を零しそうなほど潤む。

 「グレータさん」

 「……今は泣きません。ええ。お嬢様はこの苦しみにお一人で耐えたのです。

 わたくしが泣くことはできません」

 「……」

 命を懸けるほど、ゲルトルーデ嬢は何を嘆いたのだろう。

 何度も瞬きして涙を乾かしたグレータさんは、目元を赤くしたまま微笑んだ。

 「制御玉としても、魔力を補う強化飾りとしても使われる魔石は、グリーム公爵領の特産ですのよ」

 「鉱山から採掘されるんですか?」

 「ええ。あの邪龍が住んでいるファイヤーリヒブルグには良質な魔石を算出する鉱山がいくつもあります。

 他にも、ミスリル、アダマンタイト、オリハルコンなど希少金属の宝庫ですわ」

 「それはまた。グリーム公爵はお金持ちなんですね」

 オリハルコンだよ。ファンタジーだよ!王者の剣とかできるのかしらと、わくわくしてする響きだ。

 オタク冥利に尽きるソワソワ感を噛みしめながら尋ねると、グレータさんはえへんと胸を張る。

 「もちろんです!西にシュームヌイ侯爵領、南にパタローグ侯爵領といずれも豊かですが、グリーム公爵領は別格ですわ。

 なぜなら、闇の勇者が闇龍より授かった土地なのですから」

 グレータさんは本当に主家が好きなんだなぁ。

 「そんな貴重な財産を独占しているなら、グリーム公爵家には敵も多いのでは?」

 「そう尋ねてくださるのがお嬢様だったら、どんなにか……」

 ううう。と涙を堪えるグレータさん。興奮しすぎると髪を引っ張るのでやめていただきたい。痛いです。

 ゲルダ様はそう言う事には無関心派だったのですね。

 「お嬢様は、人は悪意を持つ生き物であると、気付いておられなかったにすぎません」

 私の目つきから内心を察したらしいグレータさんは、慌てて庇う。

 それはそれで、間抜けでしょう。大貴族のお姫様なんだから。フォローに無理があるよ。

 「もちろんリヒトシャッテン王国筆頭公爵家ですから、政敵もいることと存じます。しかし、財産に関しては始祖王が安堵なさったものです。おいそれと手を出す輩はおりませんわ」

 「建国時からの有力貴族なんですね」

 「……」

 一瞬グレータさんの顔が呆けて、慌てて引き締める。

 「時間のある時にまたお話しますが。

 この国は闇の勇者と光の乙女が、七日七晩の苦難の旅路を越えて、魔峰ファイヤーリヒブルグの主を打倒し起こしたのです。

 光の乙女は始祖王として聖樹リレムツリーに王都を起こし、闇の勇者はこの地に残り力ある獣たちから王国を守っているのです。

 つまりグリーム公爵家が、対の王家、闇の王家とも呼ばれるのは闇の勇者の末裔だからですわ」

 なるほど、そう言う建国神話があるわけだ。

 どこかで聞いたような話だなぁ。

 もどかしい既視感だ。

 喉に引っかかった小骨のような。思い出せなくても困らないが、気になるというか。

 「西と南の侯爵領は、何か建国時の役割があったんですか?勇者に従った戦士だとか賢者だとか」

 ゲームみたいな設定だなぁ、と思いながら尋ねると、グレータさんは首を横に振る。

 ちなみに固有名詞は覚えらなかった。

 「いいえ。パタローグ、シュームヌイはラスカースに連なる血筋ですので。建国時よりも遥か以前からこの地に住んでいたといいます」

 「ラスカースの血筋?」

 「王家は光に祝福されし、テイルの一族。グリームは闇の加護厚きエアツェールングの血筋。そして始まりの人ラスカース。彼らはとても忍耐強い」

 歌うようにグレータさんが告げる。

 つまりこの国は多民族国家なんだろう。少なくとも主要民族は三つあるわけだ。

 ゲルダ様と王子様の結婚は、支配層の血縁を結ぶ意味もあるんだろうなぁ。

 「いかがでしょうか、お客様」

 満足気に微笑んだグレータさんがそう言うと、いくつもの真珠で髪を飾ったご令嬢が鏡の中で場違いそうな顔をしてた。

 「ちなみに、テイルとエアツェールングは半分以上魔法使いですが、ラスカースはほとんどおりませんね」

 血筋で魔力が左右される世界なのか。

 なるほどなぁと頷きながら、私はグレータさんに案内されて、一階へと向かったのだ。

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