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Falsch Welt  作者: 雪美姫
序章
7/12

白ウサギの戯言

何故かノアに見つめられ、気まずくなったアリシアは目をそらすが数秒後に彼に目を向けた。

やはりノアは微動だにせずアリシアを見つめていた。


「アリシア」


「はい」


名前を呼ばれたので何か用があるのかと思い返事を返すが、ノアは黙り込んでしまう。

そして数秒後に彼は口を開いた。


「アリシア」


「…はい?」


また名前を呼ばれ何事かと訝しげにノアを見てしまう。

けれどノアはそんなことを気にしている様子もなくアリシアを見つめ続けて、再びアリシアの名を呼んだ。


「アリシア」


「…………何でしょうか」


いい加減不信感を超えて苛立ちまで覚えてきたアリシアだったが、口調は冷静さを保ったまま言葉を返す。


「“時計の針”は君にしか進められない」


「……時計の、針?」


いきなりの抽象的な言葉に意味がわからずただノアの言葉を繰り返す。


「けど“時計を進める”のは君じゃない」


なぞかけのようなノアの言葉に頭の処理能力がついていかない。


「だから君に時計は進められない。

…………でも君にしか時計を完成させることは出来ない」


時計は進められないのに時計を完成させられるのはアリシア。

時計の針を進めることと、時計を進めることは何が違うのだろうか。

時計は進められないのに時計を完成させることが出来る、というのは矛盾した言葉であるように思う。

なぜ突然そんなことを言われるのか、初対面の彼がそんなことを言うのか、様々な疑問が頭に浮かんでくる。


「白ウサギからの伝言、確かに伝えた」


ノアはそう言って席を立つ。


「待って下さい」


咄嗟にアリシアが呼び止めるとノアは動きを止めた。


「あなた白ウサギの居場所を知っているんですか」


アリシアがそう問いかけるとノアは何を考えているのか分からない表情でアリシアを見つめる。


「…………」


「答えてください。

白ウサギは逃亡者、居場所を知っているのなら今すぐおしえなさい。

これは国家としての命令です」


「知らない。

おれはあんたに伝えてくれと白ウサギに言われただけだ」


ノアの目は嘘を付いているようには見えなかったが、本当のことを言っているようにも見えなかった。

何か隠している。

否隠そうとなどしてないのかもしれない。

この国では証拠がないと身柄を拘束することが出来ない“ルール”があるのだ。

証拠がなければどれだけ黒に近いグレーだったとしても黒にはならない。


「……では白ウサギの身体的特徴を教えていただけませんか。

情報提供をお願いします」


「覚えていない」


「…………」


「おれは何も覚えていない」


ノアはそう言ってアリシアから目をそらすと背を向けて歩き出した。


「でも……あいつは白いうさぎ。

どこにいても、何をしていても、あいつは異質」


ノアは白ウサギについて何か知っている。

そうわかるのに何も出来ないのがもどかしい。


「あんたと同じだよ」


「…………何、言って…」


アリシアの中で何かがざわつく。

自分が異質だと人と違うと言われることはなれていたはずなのに、胸が苦しい。


「…………」


少し目を離した隙に彼は跡形もなく姿を消した。

テーブルの上にあるからの皿だけがノアのいたことを証明しているようにアリシアには思えた。


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