皮肉な恩恵
女の子二人に取り合いされる、普通なら感動ものだろう。そう、普通なら。
女の子が二人とも獣人でさえ無ければ。トオルは普通の女の子と恋がしたいのだ。
「子供子供って、おまえらの貞操観念どうなってんだ」
「え?子孫をどれだけ残せるかってすごく重要なアピールポイントだよ?」
「俺らは二人か三人くらい作るのが一般的だし、その前に、その、恋愛とか、したいし」
「・・・恋愛?なんだっけそれ」
「あー、無いのか、そういうの」
トオルは玄関の扉を開けて家に入る。
「あら、トオル。おかえり・・・、トオル?二股は関心しないわよ」
「お、トオル!今朝の子だな!可愛いじゃないか!でかいけどな!はははは」
「兄ちゃんが・・・、けものハーレム作ろうとしてる・・・、うわぁ・・・」
「ちげぇし!」
家に入るとシマはうちの家族に挨拶をする。
「あー、今日からぁホームステイさせてもらうシマ・ヒグマール言いますう。トオルに助けてもらった恩を返したくて来ましたぁ。よろすくぅ」
「よろしくね、シマちゃん」
やはりうちの親は歓迎する姿勢のようだ。
「あ、そういえばシマは持ち場離れて大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫う。そもそも私らボランティアよ、善意よ、無償よぉ、あんな仕打ちされてまで助ける義理ないのよお、ふふふふ」
「まぁ、正論だな。でも、この家そんなに広く無いぞ、部屋がねえ」
「あ!シマちゃん!トオルのベッドは私のだからね!」
「そっかぁ、じゃあ私がトオルのベッドになるね、私大きいからぁ」
「両方却下!」
その後、しばらく経ったがこの町に異世界絡みの大きな事件は起きなかった。
実際には何度かドラゴムートの大型の動物がやってきたのだがシマの独壇場だった。
ハンマーの様に重たい腕、ナイフの様に鋭利な爪、鎧の様に頑丈な肉体。
シマが腕を振るだけで必殺の一撃となり、無尽蔵な体力で常にフルパワー。
トオルは基本援護のみ、しかしその必要性も感じなかった。
イーヌイはトオルの護衛に徹していた。
シマは圧倒的な力で危険な生き物を元の世界に追い返していく。
そしてまた少し時が流れる。
とうとう世界中でも異世界の生き物を認めざるを得ない状況となる。
日本では自衛隊が各地を廻るが数が足りない。
自衛隊員募集の張り紙はもはや日本中のどこでも見かけるものとなった。
それでも訓練の厳しい自衛隊員を目指す者は少なく、職に就いていない者や荒くれ者達が勝手に自警団を各地で組織し始めていた。
町中での発砲も珍しいことでは無くなっており、自警団に怯えて暮らす人も多い。
粗暴な行動も多く問題視されていた。
最初は活躍していたアニマキヤの獣人達も猟銃等を装備した人間達に追いやられていった。
人間にはどの世界の人が味方なのか敵なのか分からない。
自分たちよりも強く、知性も持った人型のアニマキヤ人はむしろ怖れられた。
しかし、トオル達の住む町には自警団は無い。
ドラゴンを直に目にしたこの町の住人は、いざという時にアレと戦う事になるのが怖いのだ。
結果論として、この町は平和だった。
トオルが自警団として扱われ、イーヌイもシマも認められていた。
特に、怖さを全く感じないイーヌイは人気者だ。
子供達や老人からマスコットの様に慕われた。
シマには一部熱狂的なファンがいるようだ。
町を歩くと食べ物等を差し入れてくれる人たちもいる。
トオル達はちょっとした英雄の様な扱いを受けていた。
皮肉にもドラゴンによってこの町は平和を手にし、異世界とも正しい交流が出来ていた。
人類がみんなケモナーなら良かったのにね。




