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ひとつむこうのこちらがわ  作者: 枝節 白草
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黒い猿

鳥居に張られた異世界のゲートをくぐり、山に入ったが抜けた先も山だった。


「山だな、知らなかったら違和感無く奥まで進んでしまいそうだ」

「このやらしいやり口はヘルレートかもしれない、トオル、どうする?」

「行こう、いざとなったらまたここを通れば逃げきれるんだろ?」

「うん、ゲートは簡単には作れないし消すのにも時間がかかる。ちゃんとここは繋がったままでいてくれるはずだよ」


二人は山道を歩いて奥へと進んで行く。

ここが地獄の世界ヘルレートだと言われてもピンと来ないくらい爽やかな山道だった。

道中変な生き物もいない、いや、それどころか静か過ぎた。

生き物を全く見かけない。


それでもしばらく歩くと、正面の木の上に一匹の生き物を見つけた。

それは、良く知ってる生き物ではあるがこの辺では見かける事の無い生き物。

1メートルくらいの大きさの黒っぽい猿。

その顔には生気と呼べる物が無く、表情筋は全て緩みきっている。

確かに猿なのだが猿と呼んでも良いものか分からない。

猿の偽物、それがトオルの感じた印象だった。


「イーヌイ、あれ、猿っぽいけどおまえんとこの世界の奴じゃあ無いよな」

「違うよ、あれは全うな生き物じゃ無い。やはりヘルレートの奴だ」


その時だった、猿が声を発っした。

「ぅもぉーーーーーすぅ」

それは猿の声では無く人の声に近かった。

「もぉぉぉおおおおず!・・・あっあっあっあっ」


「これ、どうなんだ?あいつやばい奴なのか?」

「分からないけど、私狼だからね!猿には負けないよ!」


次の瞬間、猿が木から落ちる。そのあまりに無機質な動きに一瞬判断が遅れた。

猿は地面に着いたその刹那、地面を蹴り一瞬で間合いを詰めてくる。


「ぁあっあっあっあ!・・・ぁぐぅっ」

奇っ怪な声を上げて接近してくる猿にイーヌイの強烈な張り手が入り猿が宙を舞った。


「イーヌイすげぇな。ありがとうっ」

「・・・殴った感触が無かった」

「え?」


宙に舞った猿を良く見ると、いや、そもそも猿は未だに宙を舞っていた。

それはもはや猿とは言えず、ぺらっぺらっな猿の毛皮でしか無かった。


猿の毛皮がトオルに降ってくる。

その毛皮を左手で振り払おうとしたが、毛皮はそのままトオルの腕に巻き付いてしまった。


「うあっ!なんだこれ!痛っ・・・いてぇぇぇ!」

猿の毛皮がトオルの腕に食い込んでくる。

まるで肉を食いながら内側に侵入しようとしている様に感じた。

「あぐっ、があああ」

「トオル!走るよ!ゲート出よう!」


二人はゲートの外を目指して走った。

その間にも猿の毛皮はトオルの腕を侵食して同化していく。

「トオル!あとちょっとだから頑張って、ほら、見えたよ。・・・トオル!?」

ゲートまであと少しというところでトオルは痛みに耐えかねて動きが止まってしまう。

「うああああああああ!いてぇ!いてぇぇぇぇぇ」

「トオル!ごめんよ、我慢して・・・ネッ!」

イーヌイがトオルをゲートの外に蹴り飛ばした。



元の世界に戻れたトオルを追いかけてイーヌイも追い付いてきた。

「トオル!どう?大丈夫?ねぇ。ねぇねぇ、大丈夫?」

「きゃんきゃん五月蠅いよ、ああもう、大丈夫だよ。・・・ん?んんんんん?」

「トオル、その腕」


少しごわごわした毛皮の感触、トオルの左腕が黒い毛皮の猿の手になっていた。

何度か動かしてみたがその手はトオルの意志で自由に動く。


腕に同化した猿がゲートをくぐった事で、悪意を持った猿の意思だけが結界で消し飛んだ。

それは猿と同化したトオルが一番良く理解出来ていた事だった。

自分の中に入り込んだ猿の意思が消えていたのだ。

そして、一瞬でも猿の意思を感じたトオルは、その猿が何なのかも理解した。


「・・・猿に非ず。非ぬ猿の鬼。・・・非猿鬼」

「何それ?」

「・・・どうしたもんかな」


トオルはその腕が持つ禍々しい能力に気付き、自分の腕が恐ろしくなった。




動物園に猿が居るのが嫌だったりします。

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