パトロール
トオルはインターネットで見つけた事をイーヌイに聞いてみる。
「なぁ、イーヌイ。これなんだが、電車が知らない土地に着いて人が行方不明になるっていう、異世界絡みの事件だと思うか?」
イーヌイはトオルの背中にくっつきパソコンの画面を覗き込む。
トオルはイーヌイのふわっとした毛皮の感触を心地よく思い始めていた。
「うーん、リアレタス文字は読めないな。電車って何かな?」
トオルは電車を画像検索するとイーヌイに見せた。
「こういう乗り物だ、決まった線路を決まった時間に移動してくれる」
「決まったとこを・・・勝手に通過・・・」
イーヌイの顔が青ざめていく。
「おい?どうした?」
「ヘルレートの仕業かもしれない」
地獄の世界、ヘルレート。
しかしおかしい、ヘルレートは悪意の塊だ。この世界への進入はできないはずだった。
「おいおい、ヘルレートは結界で阻まれるはずだろ?」
「うん、ヘルレートの人は悪意しか無いからリアレタスには来れない。でも、リアレタス人はヘルレートへのゲートを通過できる。この電車の通り道にゲートを作られたら電車ごとヘルレートを通過してしまうかも」
「結界ガバガバじゃねぇーか!」
「でもでも、まだこれがヘルレートの仕業か分かんないし」
「それでも、可能なんだな?」
「うん、この辺にも電車はあるの?」
「どこにでもあるよ。ここのはドラゴン騒ぎの後使える路線がだいぶ規制されたけどな」
「調べた方が良さそうだね、電車以外にも見て回ろう、ね、一緒に、ね、ね?」
イーヌイの尻尾がパタパタと揺れている、散歩待ちの犬の様だった。
「・・・おまえ犬だろ」
「狼だよ!」
イーヌイと一緒に町を歩く。ドラゴン被害は局地的であったため綺麗なものだった。
被害のあった場所は当然立ち入り禁止区域となっている。
町とは言ってもお店は少なく、田圃や山で囲まれている。
それでも車で数分走れば町並みはガラリと代わり、デパートだってある。
しかし今は車が無い、それにイーヌイを連れて人の多いとこにも行きたくなかった。
「なぁイーヌイ、その耳とか、毛皮とか、尻尾とかって隠せないのか?」
「大きい服着たら隠れるかも、でも暑いから嫌」
毛皮の上からフード付きのコートを被せるようなものだ、確かに嫌だろう。
まぁ、見られてもコスプレで通せるはずだ。トオルだってそう思っていたんだから。
「そういえばイーヌイの手足って肉球あるのか?」
「足にはあるよ、手は少し肉球が退化してる」
「退化?見せてよ」
イーヌイは手を差し出してきた。
毛皮でふさふさとはしているものの指は人間の様に長く、掌も肌が露出していた。
「・・・触っていいか?」
「・・・少しなら」
トオルはイーヌイの掌を指でつつく。確かに肌なのだが分厚く、弾力があった。
「お・・・おお。少し固いけど、微妙に肉球感あるな。・・・ん?なんか良い匂い」
「もー!終わり!」
「・・・もう少しだけ嗅いで良い?」
「ダメ!」
トオルはその匂いに覚えがあった。
「なんか、知ってる匂いなんだよな。・・・あ!ポップコーン!」
「何それ?」
「トウモロコシを煎ったお菓子だよ」
「美味しいの?今度食べさせてよ」
「ああ、どこにでも売ってるからそのうちな」
話しながら歩いていると、イーヌイがふと足を止めた。
それは山の麓、入り口には鳥居が有り、この奥には確か小さな神社があったはずだった。
「どうした?何か見つけたか?」
「うん、この山の入り口の門みたいなやつ、ゲート張られてる」
「鳥居に?どこの世界が張ったものか分かるか?」
「分からない、入って調べてみようか」
「え?それって異世界に行くって事か?」
「そうなるね、どうする?」
「・・・行くよ、守ってくれるんだろ?」
「うん、守るよ」
二人が鳥居をくぐると、そこは普通の山だった。
猫とか犬とか飼ってる人、肉球の匂い嗅いでみてください。