ひとつむこうのこちらがわ
この話でラストになります。読んでいただけたら嬉しいです。
テレサがトオルの傷口に手をかざすと優しい光が発せられ痛みが引いていく。
「私は、本当はこういう事の方が得意なの。・・・君の相手するの怖かったんだよ?」
「ごめん、それから有り難う。すごいな、傷がどんどん治っていく」
「ユニコーンの力・・・、癒しの力」
「テレサはユニコーンの獣人なのか」
テレサは少し考えた後首を横に振った。
「私は・・・君と同じ世界の人間、だから今回の君の説得に志願した」
テレサは自分の境遇を語りだした。
生まれつき体が弱く、長くは生きられないと診断された。
そしてテレサの父親は当時万能の薬だと信じられていたユニコーンの角を探した。
ユニコーンの角はとても高く取引されており、買い取るのに全ての財産をなげうった。
しかしユニコーンの角を煎じて飲ませてみてもテレサは一向に治らない。
それもそうだろう。当時ユニコーンの角として売られていたのはイッカクという海獣の牙だったのだから、つまり偽物だったのだ。
財産も無くし、テレサの病も治らない。
悲観した父親はテレサと共に深い森の中へと入っていく。死ぬつもりだった。
そこで一匹の美しい獣と出会う。角の生えた白馬、本物のユニコーンだ。
ユニコーンは汚れ無き乙女に懐く。すぐにテレサに懐いた。
そこから先は言い難いのかテレサは俯いてしまった。
「殺したのか?」
テレサの肩が小さく跳ねる。
「・・・父様が、油断したユニコーンを殺し、・・・その角を私に。ユニコーンの角を飲んだ私の体はあっという間に回復したけど、・・・私の額から角が生えてきたの」
「獣人化、俺と同じような境遇の先輩ってことか」
「うん、そう。見せ物小屋に売られそうになったところでアニマキヤの人に助けられたの。・・・それ以降ここに住んで、アニマキヤの守護者を勤めてる」
「元人間なのにそんな重要な役目に?」
「・・・ここで一番の武闘派はビャッコだけど、・・・どうだった?」
「強いな、強いけど。一対一なら勝てた自信がある」
「そういう事だよ、・・・アニマキヤは弱い。数は多いけど、絶対的な力を持つ者に対抗できない。・・・私たちみたいに力ある者達で守りを固めるだけでいっぱいいっぱいなんだ。・・・元人間であっても、頼れる者に縋りたいってことなの」
テレサの目がトオルを見つめる。仲間になって欲しいと目で訴えている。
「ううむ、・・・元の世界に戻っても肩身が狭そうだしな。仲間に入れてくれ」
テレサが嬉しそうに微笑んだ。
「・・・ありがとう」
「礼を言うのはこっちの方だよ、迷惑をかけた。で、俺はどうしたら良いんだ?狼族頭領?守護者?希望としては同じ境遇のテレサが居る守護者を希望したいんだが」
「うん、うんうん。そうして欲しい。・・・嬉しい」
「あ、でも守護者になるともう帰れないのか。最後に家族に挨拶しておきたいんだが」
「大丈夫、君が居れば戦力に余剰ができる。たまになら・・・元の世界に行って良い。でも、そうだね、・・・挨拶、行っておいで」
「おう、ありがとな」
トオルは自分の家の玄関にいた。
扉を開けるとそこには家族が居て、笑顔で出迎えてくれる。
しかしイーヌイもシマもいない、騒ぎが収まると同時に出て行ったらしい。
それでもたまに様子を見に来るようだった。
「じゃあ俺もう行くわ。あまり長居すると決心が鈍りそうだし」
トオルは自分の慣れ親しんだ家を後にする。
アニマキヤへと付いたトオルは少し懐かしい匂いに気付いた。
「結局、俺は何者なんだろうな?」
その匂いの主に問う。
「私の彼氏だよ」
そこに居たのは薄茶色でふわふわな毛並みをした小柄で犬みたいな女の子。
「彼氏・・・か。散々正妻だの子供欲しいだの言ってた奴がねぇ」
「恋愛がしたいって言ってたじゃん」
イーヌイは少しからかう様な笑顔でそう答えた。
「ぷっ、はははははは、あー・・・、ふふ、イーヌイの彼氏ねぇ」
「どうよ?」
「・・・悪くねぇな、とは思ってる」
犬の様に跳ね回るイーヌイを見ながらトオルは自分の生まれた世界の事を考える。
もう気軽に行く事は出来ないだろう、自分が居なくても大丈夫だろうか。
「トオルの考えてる事分かるよ。私トオルの彼女だから!」
「まだ彼女にした覚えは無いが?」
「往生際が悪いよ!もー!・・・トオルの家は大丈夫だよ。あの土地は強い獣人が配置されたから、まぁ、シマちゃんが立候補しただけなんだけどね」
「そうか、それなら安心だな」
「それに、もし何かあったらトオルも行って良いらしいよ」
「じゃあ、見守るとするかね、一つ向こうの世界になった古里を、こちら側の世界から」
「じゃあ私の心配事も言っていい?」
「・・・聞くだけなら」
「トオルはこれからめちゃくちゃモテるよ。アニマキヤ最強の守護者が若い男なんだから、女の子達がほっとくはずがないんだ。・・・浮気しないでよ?」
「だから、まだイーヌイを彼女にした覚えは無いんだが?」
「もー!私の何が不満なのさー!」
「はっはっは、不満なんてねぇよ」
トオルはイーヌイに額に自分の額を軽く当てる。
それはトオルらしい控えめな愛情表現だった。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。
短めですが区切りとしたいと思います。
次も異世界物書くと思いますがご容赦くださいw




