狼族頭領
トオルとヒイラギとツバキは小さな森を歩いていた。
イーヌイによって書かれた地図を頼りにやってきたのだがこの場にイーヌイは居ない。
トオルに気付かれてしまっては面倒になるからだ。
そして、ゲートはすぐに見つかった。
これ見よがしに鎮座したゲートが堂々と口を開けている。
「このゲートでございますトオル様!」
「・・・間違いないな?」
「はい!このヒイラギ・シーベリアが見つけたものです!」
ヒイラギはちゃっかりと自分の手柄にしていた。
三人はためらい無くゲートを潜る。
その先に何が居ようと勝てる自信があった、仮にドラゴンに遭遇しても勝てる気でいた。
しかし、ゲートの先の光景は予想外のものだった。
広い草原、遠くには森、森、森。
辺りを見渡してみるがドラゴムート特有の巨大生物が見当たらない。
「おい、ヒイラギ、ここはドラゴムートなのか?」
「いえ・・・、ここは・・・、そんなばかな」
「ここはアニマキヤやね」
ヒイラギの代わりにツバキが答え、ヒイラギの顔が青ざめてゆく。
「ヒイラギ、このゲートはおまえが見つけたんだよな?」
「ひっ、申し訳ありません!実はイーヌイと言う奴が見つけたゲートです」
イーヌイの名前を聞いてトオルの顔色が苦々しく変化する。
「ヒイラギ、おまえの処罰は後だ。このゲートは罠だ、引き返すぞ」
ゲートに戻ろうとするトオルを遮る様に一人の初老の獣人が現れた。
近くに隠れていたのか、トオルが来る事を知っていたような素振りだ。
逆立った茶色く長い剛毛を纏った風格のある男。
その男に対し真っ先に反応したのはヒイラギだった。
「なんであんたがこんな所に居るんだ!俺らはもうあんたには従わないぞ!犬派が頭領だなんて元々気にくわなかったんだ!」
「やれやれ・・・、一応実力で勝ち取った地位なんだがな」
トオルはその男が狼族と関わりのある者だと理解し、自分への客だと判断した。
「あんたは誰だ?邪魔するなら殺すぞ」
「私の名前はベタン・マスティー。狼族の頭領だ。犬派の一族であるがゆえに反感も多くてな、今回の反乱の要因の一つだろう」
「で、俺に何の様だ?イーヌイに頼まれて俺を粛正しにでも来たのか?」
「逆だ、イーヌイに頼んで君をこちらへ誘導してもらった」
「目的は?俺と戦うつもりか?」
「私はそんな愚かでは無いさ。君との実力差くらい分かる。・・・率直に言おう、狼族の頭領としてアニマキヤに移り住んで欲しい。それで満足できないか?」
「できないな、話はそれだけか?」
「そうか・・・、ならば実力行使しかあるまい」
そう言うとベタンは軽く手を挙げた。
それを合図に遠くから獣人が二人ほど現れる。
一人は白い毛皮を纏った筋肉質な大男、虎を思わせる風貌だ。
もう一人はこれまた白い毛皮を纏った女性、額に大きな一本角、足には蹄がある。
その二人を見たヒイラギとツバキの様子が明らかにおかしい。ガタガタと震え出す。
「・・・ヒイラギ、あの二人は何だ?」
「は、はい。この世界の守護者です。二人も現れるなんて・・・」
筋肉質な方が声をかけてくる。
「あんたがトオルか、なるほどなぁ、俺らが呼ばれる訳だ。一人じゃきついわ。俺の名前はビャッコだ。で、こっちの角生やした女はテレサ。二人であんたをボコしにきた」
「・・・ちっ」
二人を見たトオルは舌打ちをした、相手が一人なら勝てる自信があるが二人も居ては分が悪い。
「おいヒイラギ、ツバキ、退くぞ。ゲートの前で邪魔してる犬を潰せ。俺はこの二人の相手をする必要がありそうだ。めんどくせぇ」
「狼族現頭領を・・・俺が・・・、ふっ、良い見せ場を作っていただき感謝します!」
「元々おまえの失態だ、負けたら殺す」
「ひぃっ、頑張らせていただきます!」
「ウチとばっちりやーん。ベタンのおっちゃん強さは本物やでー」
トオルはビャッコとテレサを交互に見つめる。
「・・・食っても不味そうだ」
「おー、おー、二人相手に勝てる気でいるのか。テレサは分からんが俺は甘くねぇぞ」
「・・・じゃあ・・・ビャッコ一人でやる?」
「ごめん、手伝ってくれ」
「・・・うん」
「うぉぉぉぉおおおオオオオオ!!」
ビャッコの雄叫びが開戦の合図を告げた。
実は戦闘能力だけなら狼より強い犬種と言うのもありまして、ベタンはチベタン・マスティフがモチーフです。
そして物語は割と後半戦だったりもします。




