イーヌイの暗躍
トオルは大型スーパーの映画館のチケット売場に居た。
広いスペースが有り近くにはゲームセンターもある。
当然もう動いてはいないし人間も居ない。
「トオル様、お呼びでしょうか!」
そこへ現れたのはトオルの側近を自負する若い男の狼族、ヒイラギ。
トオルから人を呼ぶのは珍しい事だった。
「ああ、異世界、ドラゴムートへの渡り方を教えろ」
「ゲートを開く必要がございます!ですが残念ながらこのリアレタスという世界は異世界に対して無知でして、ゲートを開く技術がございません!一度アニマキヤに移動してからドラゴムートへのゲートを申請するのも骨が折れるかと思われます!」
「・・・ドラゴムートへの侵攻は不可能だと?」
「いえいえ!向こうからゲートを開いてくれれば可能です!幸いにもドラゴムートは考え無しにゲートを開いてはここへやってきていますのですぐに見つかるかと!」
「・・・そうか、では探せ。見つけたら教えろ」
「は!まかせてください!・・・して、ドラゴムートへは何人ほどで向かいますか?」
「弱い奴は邪魔だ。俺一人で行く」
「そんな!狼族の歴史的瞬間に立ち会わせてください!」
「おまえは強い方だったな・・・、盾くらいにはなるか」
「盾!光栄です!それはこのヒイラギ・シーベリアを側近として認めてくれたという事でよろしいでしょうか!?」
「ああ、まぁどうでも良いさ、好きに名乗れよ、興味ねぇ」
「ありがたき幸せ!ではこのヒイラギ・シーベリア、皆にゲート探しを指示して参ります!」
ヒイラギが立ち去った後、交代でトオルの元へやってきた者が居た。
スラリとした長身の女性の狼族、名をツバキ。
「トオル様、ウチはツバキ言いますぅ。ツバキ・ツンドーラ。トオル様のハーレムに加えて欲しい、っというか正妻希望や。ははは、その辺の女よりは強いき、子供産ませてーな」
「・・・いらん、・・・欲しいのは俺より強い血肉だ」
「強さを認めてもらえたらOKってことやね?」
ツバキは床が削れる程に鍵爪を立てると体全体で加速をつけてトオルに接近する。
その勢いを殺さずに体を半回転させ、鞭の様にしならせた蹴りがトオルの胴に命中する。
そう、命中したのだ。なんて事は無い、トオルは避ける気すらなかっただけだ。
ツバキはすぐに当たった足を庇う様にして地面を転がった。
トオルはビクともしていないのに蹴った方がダメージを負っていた。
「いったぁー!えぇぇぇぇ!?トオル様頑丈過ぎひん!?」
「ほう、フェンリルの皮を蹴ってその程度で済むのか。ツバキか、強いな。覚えておこう」
「そりゃどーもー・・・いてて。じゃあ正妻は無理でもハーレムに加えてーや」
「ドラゴムートへの遠征に付いて来い。役に立ちそうだ」
「遠征!?いや、ウチは兵や無くハーレ・・・いや待てよぉ、その方が他の女出し抜けるな。よっしゃ分かった!付いて行く!」
「命の保証はしない。自分の身は自分で守れよ」
「もちろんや!ついでにトオル様も守ったる!」
後日、ドラゴムートへのゲートが見つかったという一報が入った。
配下の狼族が見つけ、ヒイラギに報せたのだ。
「トオル様の側近であるこの俺に報せた事を評価してやる。おまえの名前を教えろ」
「イーヌイです!」
「うむ、トオル様に報せに行ってくる。おまえも来るか?」
「いえいえ!私は行きません!私の名前も出さないで良いです!ヒイラギさんの手柄にしてください。はい、これ地図です。この小さな森の中です。消える前に早く行ってくださいね」
「なんと、無欲な奴だ。さては俺に惚れたな?」
「それは無い」
ツバキは別に関西弁という訳ではありません。それっぽい訛りです。




