潜入調査
トオルが根城としている大型スーパー、その入り口に一人の狼族の女の子が居た。
薄茶色でふわふわな毛皮に覆われた小柄な体は狼と言うよりは犬に近い。
「すみませーん、トオル・・・様の配下に加わりたくて来ましたー」
すぐに入り口から灰色の毛並みをした狼族の男が現れる。
「・・・ちいせぇな、名前は?」
「イーヌイです!」
やってきたのはイーヌイ一人、狼族である事を利用しての潜入作戦だった。
シマは家に残ってトオルの家族を守っている。
「ちいせぇ、よわそう、おまえ犬派のスパイじゃねぇだろうな?族名も言えよ」
イーヌイの族名はマメシーバ。
温厚で人懐っこい事で有名な犬派の中でも更に小型種だった。
正直に言えば追い返される。
「イーヌイ・・・。イーヌイ・ツンドーラです!」
「嘘つくな!ツンドーラは大型種だぞ!怪しいな・・・」
「違う!ごめん、見栄張っただけ!えーと、シーベリ・・・違う!」
言い掛けてまた睨まれた。
「イーヌイ・・・ニホホ・・・」
「ぷっ、はははは、ニホホ族か!狼種の中でも弱い種だな!隠したい気持ちは分かるが狼族なら自分の種族名に誇りを持てよ!まぁ、ニホホ族でも構わんさ、入れ」
「簡単に入れたなー。・・・アニマキヤ人てこんなに単純だったとは、自分の世界の事なのにビックリだよほんと」
種族名を偽っただけで入れてしまった事にイーヌイは驚いていた。
アニマキヤ人は基本的に正直で裏表が無い、種族名を名乗り、納得できれば信じてしまう。
「もしかしてアニマキヤってリアレタス以上に危ういんじゃ・・・」
人間の生活に慣れたイーヌイはほんの少しだけ賢くなっていた。
イーヌイは一階の食品売場から二階へと上がる。
食品はそのほとんどが荒らされていて酷い有様だ。
二階へはエスカレーターで上がるのだが止まっているため普通の階段と変わらない。
そして不思議な事に見張り以外の狼族が見あたらない。
イーヌイは更に三階へと進むと声が聞こえた。
どうやら狼族達が集まっているようだ。
声のする方へ進むとそこはフードコートになっており、たくさんの狼族が居た。
もちろんフードコートなんてもう機能していないが机をどかせば十分なスペースも有り見晴らしも良い、集まるには絶好の場所だろう。
そこで一際目立つのは机の上で偉そうにしている若者だった。
イーヌイはトオルの姿を探すがどうやらここには居ないらしい。
何やら話し合いをしているようなのでこっそり混ざると聞き耳をたてる事にした。
「いいかおまえら!トオル様の側近であり右腕とも言えるこのヒイラギ・シーベリアがトオル様の言葉を伝えてやる!有り難く聞け!」
「うるせー!ひっこめー!側近なんて認めてねぇぞ!」
「帰れ若造!十年はえぇ!」
「なんでてめぇが出しゃばってんだこらぁ!」
「あんだとぉ!俺よりつえぇ奴が居たら変わってやらぁ!かかってこいや!」
お互い喧嘩腰で話が進まない、狼族は上下関係が厳しいがその場にボスがいないと代行の座をかけて争いが始まってしまうのだ。
代行だと認められるにはボスの任命、あるいは力を示す事になる。
喧嘩が始まりそうになった時、それを止めた者が居た。
長身で細身な狼族の女性。暴れ出した者達を瞬く間に制圧する。
「ふぅ、話進まないだろがー。おいヒイラギ、はよトオル様の言葉言えやー」
「お、おお。・・・あんた名前は?」
「ツバキ・ツンドーラ」
「ツバキ・・・強いな、気に入った!結婚してくれ」
「ふざけんなや、トオル様のハーレム志願や」
「そうか!ならばしょうがないな!!」
強ければモテる、そして強い異性をかけて争いも起きる。だがボスは絶対だった。
「で、トオル様の言葉はよ聞かせぇよ」
「みんな良く聞け!トオル様は陣地拡大に乗り気だ。しかも世界まるごと一つ落とすつもりでいる。ドラゴムートの頂点に君臨するドラゴンを狩るとおっしゃった!」
場が静まりかえった後、少しして歓声が上がった。
アニマキヤ人は基本アホです。素直なアホです(褒め言葉)




