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ひとつむこうのこちらがわ  作者: 枝節 白草
13/18

偽者だが最強の狼

フェンリルが消えて五日後、トオルはまだ帰ってこない。

テレビでは突然消えた狼の話題と銀色の獣人の話題で持ちきりだった。


「・・・イーヌイちゃん?あれ?ここトオルのベッドぉ?私が使ってて大丈夫ぅ?」

「シマちゃん!もう起きて大丈夫なの?」

「私を誰だと思ってるのさぁ、ヒグマール族の中でも白い毛並みを持つエリートだよぉ。むしろ寝過ぎて恥ずかしいくらいだよぉ」

シマの傷跡はもう塞がっており血色も良くなっていた。


「トオルが、フェンリルのとこに行ったきり帰ってこないんだ」

「えぇ!?大変じゃない!すぐ向かおうよぉ!」

「ううん、トオルはたった一人でフェンリルを倒したんだよ」

「え!トオルそんなに強いのかぁ。やはり私の旦那にふさわしいなぁ。ふふふふ」

「・・・」

「イーヌイちゃん?」

「帰って・・・来ないんだよ・・・」

「英雄だろうしねぇー、なかなか戻れないよねぇ」

「ううん、違うの、フェンリルの代わりにトオルが暴れてるの。フェンリルに比べたら見境はあるんだけど、誰にも止められなくて」


テレビで報道される銀色の獣人とはもちろんトオルの事だった。

フェンリルを食ったトオルは力に呑まれ正気を失った。

危険だと判断されアニマキヤの腕利きの獣人達が集まるが、トオルは人間サイズになったフェンリルそのもの、獣人達は手も足も出ない。


アニマキヤ人を蹴散らし、ドラゴムートの巨大生物を狩って暮らしていた。

近づく人間達にも危害を加えるが積極的に人間を殺そうとはしない。

それだけがトオルが人間であった名残なのかもしれない。


「うわぁ、すっかり野生児だねぇ」

テレビで状況を確認したシマが呟いた。

「それがね、ただの野生児では無くなってきてるんだよ」

「どういうこと?」

「フェンリルはさ、狼族の信仰対象だって知ってるよね?今のトオルは狼族だと言っても違和感ないよね」

「・・・まさか、アニマキヤの狼族がトオルに寝返った?」

「そうなんだよ、今のトオルは他種族を寄せ付けないほど最強な狼族でしょ?私達みたいな温厚な狼族以外はみんなトオルの手下になってしまったんだよ」

「じゃあ犬派の狼族はまだ味方って事で良いんだねぇ?」

「その犬派って言い方やめてよ!もー!シマちゃんでも怒るよ!」

「ごめんごめん、でも私はその呼び方のが可愛くて好きだなぁー」

「嫌なの!他の狼族にバカにされるの!」




傷も癒え、聴覚も回復したトオルは大型スーパーを占拠し根城としていた。

占拠とは言っても既に混乱に乗じて荒らされた跡であり、中に居た荒くれ者達を追い出しただけという形になる。


根城にはたくさんの狼族が居る。

トオルが呼んだ訳では無い、勝手に集まってくるのだ。

最初は休む場所が欲しいだけで手に入れた場所だったが今では狼の城である。


狼族は強いボスに尽くす性質で、トオルよりも強い狼は存在しない。

もちろんトオルは生粋の獣人では無い、それはみんな知っている。

しかし、それでも最強の狼のフェンリルを下し、その力を得たトオルを崇拝していた。


そして、強ければ当然のようにモテる。

トオルが望んだ訳でも無いのに狼族の女の子達はハーレムを形成する。


「トオル様ー、抱いてー!」

「トオルさまぁ~ん、私じゃ不満なの?」

「トオル様ぁ!私たくさん子供産むよ!」

「トオルさまー」

「トオルさまー」

「ねぇー、トオルさまー」


しかしトオルは誰にも手を出さない。

そこは以前のトオルと同じままだった。


「・・・おまえら、静かにしろ」


「きゃー!返事してくれたー!」

「今のは私への返事ですよね!?」

「静かにします!はーい!私静かにします!」

「私の方が静かにできます!」

「トオルさまー」

「ねぇねぇ、トオルさまってばぁ」


トオルはイライラしながらも女達へは危害を加えない。

(申す、主殿は女に甘いねぇ)

「・・・」

(あっあっあっ、無視か。愉快、愉快よなぁ)


そこへ一人の狼族の男が現れる、歳は若く、非常に緊張した面もちだった。

「ト、トオル様!以前相談した陣地拡大の件なのですが!何卒前向きな検討をお願いしたく」

「ヒイラギか。落ち着けないのか?」

「名前を呼んでいただけるなんて!このヒイラギ・シーベリア!至上の喜びでございます!」

「・・・なぁ、疲れないか?その喋り方」

「めっそうもございません!」


後ろの方で若い狼族の男達が悔しそうにヒイラギを見つめていた。

その誰もがボコボコのキズだらけだ。

実は誰が報告しにいくのかでいつも揉めてしまい喧嘩が起こる。

ボスの側近になりたくて力のある若者が争うのだが毎回ヒイラギが勝利している。


「陣地拡大か・・・、なぁ、ドラゴムートへの侵攻は可能か?」

「は!トオル様のご要望とあら・・・ええええええ!?」


トオルは土地などには興味は無い、もっと、もっと大きな力が欲しかった。

あの日見た圧倒的な力・・・。

「ドラゴン、狩りてぇんだが」

「な、なんてスケールの大きい御方なんだ。一生付いていきます!」




トオルは相変わらずモテます。ただし人外に限る。

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