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95.自己紹介

 

「さて、それでは話し合いの前にせっかくだからお茶でもいかがですか? もちろん毒などは入っておりませんから」


 なんだかとっても中華で豪華なお部屋に通されて、円卓を囲んでみんなで座る。

 それから綺麗なお姉さんが淹れてくれたお茶を、皇帝さんが勧めてくれた。

 いやだなあ、誰も毒だなんて思って……ないよね?

 それともこの国ってそういう世界なの?


 まるで毒見をするように皇帝さんが一番にぐっとお茶を飲み干した。

 うん、湯飲みがちっさいからね。

 するとお姉さんがまたお代わりを淹れて、頭を下げて部屋から出ていった。

 というわけで部屋には私たち六人と皇帝さんと麒麟さんの合計八人。

 皇帝さんの家来みたいな人たちは最初反対してたんだけど、皇帝さんがにこやかにみんなを追い出してたから。

 やっぱり皇帝さんはやり手だと思う。

 むむ。どう切り出すべきか……ひとまずお茶をいただこう。


「いただきます」


 小さく呟いてお茶をいただくとすっごく美味しかった。

 これ、緑茶だ!

 色とかにおいとかで予想はしてたけど、口に入れた瞬間懐かしさでいっぱいになったよ。

 ちょっと泣けそう。


 実は前世のときはあんまり緑茶って好きじゃなくて、せいぜい麦茶かウーロン茶くらいしか飲まなかったんだよね。

 それなのにこんなに懐かしいなんて、DNAに刻まれた日本人の心かもしれないね。

 うん、DNAからして全く違うだろうけど。

 何しろ魔力があって魔法が使えるからね。DNAどうなってんだ?


 なんてしみじみしてたら、ノスリたちからじっと注目を浴びてた。

 何? 何か変なことした?


「マジで度胸あるよな、コルリは」

「何が? お茶に毒は入ってナイよ?」

「それはわかってるよ。ただこのにおいが……」


 におい?

 お茶のいい香りだけどな。

 ミヤコちゃんはくんくんとにおいを嗅いで顔をしかめた。

 そんなミヤコちゃんも可愛いな。


 って、そこで気付いた。

 そうか。私たちの大陸ではないお茶だもんね。

 どちらかというと紅茶っぽいお茶ばかり飲んでたから、このにおいには慣れないかも。

 でも、葉っぱは一緒なんだよ。……って、この世界では違うかもしれないな。


「でもホら、アウルも飲んデるヨ?」

「余は慣れておるからな。この国ではこのお茶が一般的ではあるが、この茶葉も茶器も最高級のものであるゆえ、特に美味しいのだ」

「なるほど。では、飲んでみよう」


 アウルの言葉に呑気に答えて一口飲んだのはお兄ちゃん。

 あ、ちょっと顔をしかめちゃったら後に続くノスリたちが怯むよ。

 そんな様子を皇帝さんはにこにこしながら見てる。

 麒麟さんは何て言うか、無の境地っぽい。


 って、これは最高級の茶葉に茶器なの?

 そういえば聞いたことがあるけど、中国では超最高級の茶葉にグラムで一千万円くらいするやつもあったとか……。

 茶器なんかもそれくらいするよね。


 やだ怖い。

 気軽に持ってたよ。

 皇帝さんが飲むお茶なんだから一千万円はしなくても百万はするかも。

 もちろんこの国のお金の価値でだけど。


「それでは、少し落ち着いたところで自己紹介をしませんか?」

「ひゃい!」

「コルリ……」

「ご、ゴメン」


 いったいこのお茶一杯でいくらするんだろうってまじまじとお茶碗を見てたから、皇帝さんの声でびっくりしてしまった。

 うう。恥ずかしい。

 ノスリに呆れたように視線を向けられたから、つい謝っちゃったよ。

 皇帝さんは笑いを堪えているみたいだけど、麒麟さんは無のまま。

 お兄ちゃんたちは苦戦していたお茶からほっとしたように顔を上げたけど、ミヤコちゃんはまだちびちび飲んでる。


「まずは私から。私はこの碧国第三十四代皇帝・瑞翔と申します。白澤老師をはじめ、皆様方のご来宮を心より歓迎申し上げます」

「うむ、余は白澤のアウルと申す。このお茶といい、この房室といい、そなたの心よりのもてなしに感謝する。礼として、余を名で呼ぶことを許そう」

「なんという僥倖! そのようなお言葉をいただけるなど、感謝の念に堪えません」


 なんだか大層な会話になってる気がする。

 このあとに自己紹介しろってちょっとした拷問だよ。

 そもそも麒麟さんっていう神獣が傍にいながら、皇帝さんの喜びようはちょっとどうかと思う。

 ほら、麒麟さんの視線が怖い。

 って、なんで私が睨まれてるの!?


「雷獅子、どうした? そのように熱い視線を送るなど、あの女人が気に入ったのか? なら早くそなたもきちんと名乗らぬか」

「畏れながら誤解です、主上」


 うん、知ってる。

 皇帝さん、こそこそ話してるつもりかもしれないけど、この円卓だと丸聞こえだから。

 麒麟さんは主上さんから渋々私たちのほうに向き直った。


「朕は瑞翔を守護する麒麟であるが、そなたらに名を呼ばれるつもりはない」

「雷獅子、彼らは私の客人である。失礼な態度は許さないよ」

「……主上のご命令でも朕の名は呼ばせませぬ。よって、ここの者たちと同じように雷公と呼ぶがよい」


 うわー。微笑みながら穏やかに言ってるけど、やっぱり皇帝さんは怖い。

 麒麟さんも偉そうだけど虚勢を張ってるように見えるよ。

 えっと、次はこっちの番だね。

 アウルはもう終わったから、次はお兄ちゃんかノスリかな?

 ミヤコちゃんはアウルが代わりに紹介してくれたらいいよね。


 そう思ってみんなを見ると、なぜか注目されてた。

 え? 私?




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