92.東の大陸
「東の大陸に行っテ、麒麟さんがどこにいルカ知ってるノ?」
「皇帝を訪ねれば、麒麟にも会える」
「皇帝!?」
アウルの言葉にみんなの驚きの声が合わさった。
ミヤコちゃんは動じず、エピをもぐもぐ食べてる。
うん。いつものミヤコちゃんだ。
それにしても皇帝って、要するに王様ってことだよね?
東の大陸にどれだけの国があるのかわからないけど、皇帝ってすごく大きな国の王様っぽい。
「いきなり皇帝さんに会えタリするノ? 会うタメにすごく手続きが必要だったリ、紹介状がいるんじゃナイの?」
「コルリ、余を誰だと思っておる? 余は白澤ぞ。彼の国の神獣である。皆が我を敬い尊んでおるのだ。余が皇宮に現れたら喜ぶに決まっておる」
「皇帝さんモ?」
「当然である」
「麒麟さんモ?」
「間違いなく、嫌がるであろうな」
アウルってば嬉しそう。
嫌がらせのような気もするけど、そもそも嫌がらせレベルじゃないことをしたのは麒麟さんが先だからね。
「あの、もし……もしなんですけど、今回のことを皇帝陛下が望んでいらっしゃった場合、戦争になったりはしませんよね?」
確かに……。
東の国が何を考えてるかによって、戦争になったりするの?
ツグミさんの質問にびっくりしてノスリを見ると、否定するように首を振ってた。
よかった。
「そもそも東の大陸にある国がこの国を攻め入る利点が何もないんだ。昔から国家レベルの交易が行われていないのは、この大陸と東の大陸を隔てる海洋の中央に大きな海流があるからで、どうしても船は南へと流されてしまう。空でも飛べない限り攻め入ることは難しい上に、そこまでして支配したいと思うほどの特産品もない。もちろんこの国を足掛かりに西方へと侵略するつもりならわからないでもないが、ろくに交易もできないのに支配する意味があるかどうか……」
「そうなんですね。勉強不足でした」
「いや、普通に西方の人たちは知らないよ。交易が行われていないからどうしても情報はここで遮断されてしまうからね」
なるほど。
ツグミさんくらいの優等生でも知らなかったんだから、私が知らなくて当然だね。
でもそれじゃ、ますます意味がわからないよ。
「とにかく、わからないことを考えていても仕方ないから、アウル君の言うとおり、直接訊きに行こうか?」
「そうですね」
「では、善は急げである」
お兄ちゃんの言葉を合図にみんな片付けに取り掛かる。
ミヤコちゃんもちょうど食べ終わったところだからいいけど、東の大陸行きのことはまだ言ってないよね。
大丈夫かな?
「ミヤコちゃん、あのね、これからみんなで東の大陸に行こうってことになったんだけど、大丈夫?」
『まったく大丈夫なのだ。これから南の大陸までも飛べるぞ?』
「うん、それならよかった。……でもね、麒麟さんに会うつもりだけど、ミヤコちゃんはどうする?」
『そうだな。では、あやつにもお父さんのエピを食べさせてやろう』
「お父さんのエピを?」
『うむ。さすればもう馬鹿にしたりしないのだ』
「……なるほど」
さっきのことがあったから会いにくいかなと思ったけど、余計な心配だったみたい。
すごく前向きだよね。
あとはどうか麒麟さんが空気を読んで、お父さんのエピを馬鹿にしたりしませんように。
ミヤコちゃんと話しているうちに片づけは終わってて、あとは出発するだけ。
また何も手伝えなかったな。
「では、何があっても心配する必要はないのだ。ミヤコと余が必ず守ってみせるからな。矢が雨のように飛んでこようとも空の旅を楽しむのだ!」
「って、えええ!?」
矢の雨とかって、全然歓迎されてないじゃん!
喜ぶどころか警戒度マックスだよ!
白澤は尊敬されてるんじゃなかったの?
「お、お兄ちゃん……」
「アウル君が心配いらないって言ってるんだから大丈夫だよ。ミヤコちゃんもいるしね。ほら、コルリ。下を見ろよ。大海原っていうのはこういうことなんだなあ」
あ、ほんとだ。
前世で飛行機から見た景色とあまり変わらないなあ。
常に着陸態勢な近さだけど。
呑気なお兄ちゃんの言葉を聞いて慌てるのも馬鹿らしくなってきたよ。
うん。ノスリとツグミさんもそんな感じ。
「ノスリは大丈夫?」
「何がだよ?」
「麒麟さんと話をシテ、その内容が……」
「ああ、そういうことか。どうだろうなあ。理由がどうであれ、もう二度と同じことをしないなら、それで終わりだな」
「許すの?」
「いや、どんな理由でも許さないよ。ただもうどうしようもないことだろ? 怒りをぶつけたところで亡くなった人はかえってこない。失われたものも時間も全て」
「……そうだね」
ミヤコちゃんが怒りを持て余してたように、ノスリも苦しんでる。
私でさえもあの惨状を見てどうしようもない怒りが湧いてきて、どうしようもなく苦しい。
本当はヒッキーにもジャッキーにも怒鳴りつけてやりたい気持ちはあった。
それでも前向きに生きるしかないんだよね。
「あれが東の大陸なのだ」
もんもんと考えていると、アウルの誇らしげな声が聞こえてきた。
目の前にはおぼろげな黒い影が広がって……ってどんどん近づいてる。
さすがミヤコちゃんとアウル。
飛行機より速いかも。
「コルリ、心配するな」
「うン、ありがと」
ぎゅって握った私の手を、ノスリがぽんぽんって叩く。
私が心配かけてたらダメだよね。
よし、頑張ろう。
私が決意している間に大陸に到着して、気がつけば少し先に大きなお城が見えた。
『コルリ、あそこに麒麟はおるようだぞ』
「じゃあ、麒麟さんは無事にお家に帰れたんだね」
どう見てもあれ、皇帝さんが住んでそうだから。
東方ってほんとうにアジアンな感じなんだなあ。




