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90.麒麟

 

「コルリさん。この人、何て言ったの?」

「え? あ……」

『ふむ。そなたが主か?』

「は……?」


 あまりのイケメンぶりに圧倒されてたけど、この人はどうやら魔獣だか聖獣らしい。

 ツグミさんに質問されるまで言葉が違うって気付かなかった。

 そうか、絵にも描けない美しさだもんね。

 人間離れした美形だけど、ちょっと意味がわかんない。


「主とかってどういう意味ですか?」

『このおなごはそなたを身を挺して守ろうとしておる。そなたの従者なのであろう?』

「違います! ツグミさんは友達です! ただわたしが弱いから、魔力の強いツグミさんが守ってくれようとしてるだけで……」


 言ってて悲しくなってきたけど、それが事実だ。

 魔力的にツグミさんの魔法は強大で、私では足手まといになるだけ。

 でもこの言葉を使って、私はツグミさんを守ることができる。

 やってみせる。


『なんと愚かな。それっぽっちの力で朕からそなたを守ろうとな? これは滑稽な』


 おほほと笑うイケメンがきもい。

 何、この人?

 いや、人じゃないかもだけど、失礼がすぎる。

 初対面であんまり判断しちゃダメってわかってるけど、好きじゃないな。

 って、あれ? 好きじゃない?

 このゴテゴテした服装もいかにも東方って感じ。

 前世を思い出すなあ。


「ツグミさん、この人たぶん麒麟ダヨ」

「麒麟!?」

『なんと無礼な。小娘ごときが朕のことを呼び捨てにするなど。麒麟様、であろう?』

「え? あれ? 今の言葉がわかった……?」


 私は今、ツグミさんと話してたよね?

 まるで内容がわかったような言葉に、私は驚いて麒麟を見た。


『朕が人語を理解せぬと思うたか? 愚か者め』

「あ、理解はできても喋れないとか?」

「話せるに決まっておろう! この痴れ者が!」

「まあ! 私にも理解できます」

「よかったネ、ツグミさん。アウルは博識の白澤だカラわかるけど、麒麟さんモ話せるなんテ便利だネ」

「白澤だと……!?」


 言葉が通じるってすごくありがたいって思う今日この頃。

 だけど麒麟さんは白澤の名前を聞いて驚いたみたいだった。

 そのとき、麒麟さんははっと北の空を見上げ――。


「ミヤコちゃん!?」

『コルリ、無事なのか?』

「う、うん。大丈夫。ありがとう」


 久しぶりに見たフェニックスなミヤコちゃんが私たちと麒麟さんの前に立ちはだかった。

 ほんと一瞬でよくわからないけど、すごい風圧だから急いで飛んできてくれたんだと思う。

 がらがらと聞こえた音は、さっき頑張って組み上げたバーベキュー用の石組み。

 いや、残念がってる場合じゃないんだけど。


『おやおや、誰かと思うたら黒龍ではないか。まさかこの小娘どもと知り合いなのか?』

『コルリもツグミも小娘などではない。我の友人ぞ。二人を愚弄するなど許さぬ』

『おお、怖い。黒龍よ、そうムキになるな』


 口調は穏やかだけど内容は緊張感たっぷりで、私は黙っていることしかできなかった。

 ツグミさんも邪魔にならないように一歩下がって私の隣に並ぶ。

 ミヤコちゃんはフェニックスから幼女な姿に変身してて、イケメンと口論してる姿はシュールだ。

 そもそもミヤコちゃんがこんなに冷ややかな態度なのも初めてだよ。


『そうか、ではお主が守護しておるちんけな男……確か瑞翔というたか。あやつは元気か?』

『…瑞翔のことを悪く申すな!』


 ミヤコちゃんがさらに嫌味っぽく続けると、麒麟さんはいきなり怒って何かした。

 うん。何をしたのかはわからないけど。

 ミヤコちゃんが咄嗟に防壁魔法で守ってくれなかったら、私たちは怪我してたと思う。

 麒麟さんって、こんな激情型なの?

 前世ではもっと知的でクールなイメージだったのに。


『コルリ、ツグミ、怪我はないか?』

「うん。ミヤコちゃんが守ってくれたから。ありがとう」

「ミヤコさん、ありがとうございます」


 ツグミさんも雰囲気でミヤコちゃんの質問がわかったみたい。

 それよりも問題は、ミヤコちゃんと麒麟さんのにらみ合いが続いているってこと。

 みんな仲良くなんてことは思わないけど、ドラゴンと麒麟が争ったらやっぱり世界が滅びると思う。

 どうしたらいいんだろうって迷ってると、ミヤコちゃんも麒麟さんもふと視線を逸らして北の空を見た。


「あ、アウルだ」


 思わず声が漏れたのは安堵から。

 アウルはノスリとお兄ちゃんを乗せてるから遅くなったのかな。

 麒麟さんとは知り合いっぽいし、上手く仲を取り持ってくれるかも。


「コルリ、ツグミさん、大丈夫か?」

「うン、大丈夫」

「ご心配をおかけしましたが、何もありませんでしたから」

「コルリ! やっぱり置いていくんじゃなかったよ」

「お兄ちゃん、大丈夫だカラ…苦し……」


 アウルから飛び降りたノスリとお兄ちゃんが駆け寄って心配してくれる。

 それはありがたいけど、そんなに強く抱きしめられたら苦しいよ。


「ツグミさんも何事もなくてよかったよ。ミヤコちゃんがいきなり飛び立ったときには驚いたし、アウル君から説明を受けてから気が気じゃなかったけどね。本当に無事でよかった」

「ありがとう、みんな。心配かけテごめんネ。でもたぶん麒麟さんは殺生を嫌うハズだし、ここには何か言いに来たんじゃナイかな」

『小娘が知ったような口をきくな』


 はい、すみませんでした。

 勝手に前世の麒麟と同列に考えてました。

 まあ、前世の麒麟は想像上の生き物だったけど。


『たかが麒麟ごときがドラゴンに盾突くとは愚かにもほどがある。そなたが愚かだと主の品位まで落としかねないぞ?』

『たかが白澤が朕に盾突くとは愚かなり。黒龍を味方につけ、己まで強くなったつもりか』


 あれ? 白澤と麒麟って知り合いでも仲が悪いほうの知り合いだった?

 アウルが戻ってきたら問題解決と思ったけど悪化した気がする。

 二人のやり取りにノスリたちは黙ったまま身構えてる。

 そしてミヤコちゃんは……あ、やばい。

 温めようと用意してたお父さん特製ベーコンエピが地面に落ちてしまったのを見つけちゃったみたい。

 うーん。どうやって慰めようか。




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