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85.一休み

 

 まさか私にもコールがかかるとは思わなかったよ。

 でもノスリに言った手前、応えたほうがいいよね。

 そう思って恐る恐る手を振ってみた。

 途端にわっと歓声が上がる。

 今日は歓声日和だよ。


「ノスリ、楽しんデるでショ?」

「何がだよ。お前の言うとおり、みんな喜んでるじゃないか」

「そうだケド……私はただの一般人なノに……」

「そうか? もうお前の言う〝アイドル〟ってやつじゃないか?」

「ひょっとしテ、わざと私を巻き込んだノ!?」

「そうだな」


 歓声に混じってノスリの笑い声が聞こえる。

 あっさり認めるなんてどういうこと?

 逆に怒れないよ。


「……ノスリって、やっぱり意地悪ダネ」

「いや、俺は卑怯なんだよ」

「それはナイよ。ノスリはかっこいいヨ」

「コルリ、お前な……」

「なに?」

「もう顔見せは十分だろうから、ミヤコちゃんに下りてくれるよう伝えてくれ」

「わかっタ」


 あれ? ノスリってば、照れてる?

 振り向いて顔を見たいけど、注目されてる今はやめとこう。


「ミヤコちゃん、ありがとう。もう大丈夫だから、下りてくれる?」

『了解なのだ』


 お願いするとミヤコちゃんはまた訓練場までひゅるひゅると降りてくれる。

 歓声はさらに大きくなったけど、手を振ってお別れの合図。

 隊長さんがまた何か言ってて、たぶん解散するのかな?

 私はといえば、笑顔を作りすぎて頬が痛いよ。

 あと何だかどっと疲れが出てきた気がする。


「ミヤコちゃんは大丈夫? 疲れてない?」

『まったくもって大丈夫なのだ。今のところ〝疲れた〟経験はしたことがないな』

「そっか、それならよかった」


 疲れた経験がないのはさすがだね。

 とにかくずっと私たちのために動いてくれてるミヤコちゃんが疲れてなくてよかった。


「お疲れ様、コルリさん、ミヤコちゃん、ノスリさん」

「ツグミさん、ほんトに隅っこで見てなくテモよかったノに」

「十分にコルリさんたちの姿は見えたから大丈夫よ。他の方たちも誰一人見逃していないみたい。皆さん嬉しそうだったわ。感動して泣いている人もたくさんいたわね」

「うン、それは私モ見えた。ノスリは大人気だったヨ」


 ツグミさんがすぐに駆け寄ってきてくれて、労うように微笑んでくれた。

 その言葉にノスリは何も言わず、ちょっと遠くを見る。

 うん、やっぱり照れてるんだね。


 みんなの涙はきっと自分の故郷に帰れる嬉しさ。

 それを幼かった王子様が苦労して叶えてくれたこと。

 その王子様が目の前に現れたこと。

 他にも色々、全てが涙になって流れてるんだと思う。


「ノスリ――」

「殿下! ノースラリー殿下!」


 ノスリが見てる方向から隊長さんたちが駆けてきた。

 その瞬間、ノスリの顔つきが変わって、王子様になったみたい。

 急にノスリが遠くなった感じ。

 さっきまでみんなに手を振っていたときでさえこんなふうには感じなかったのにな。


『コルリは休んだほうがよい』

「ミヤコちゃん?」


 子猫に戻ったミヤコちゃんは腕の中に飛び込んできて、じっと私を見上げて言う。

 そんなに疲れて見えるのかな?

 ちょうど隊長さんが滞在してくれるようにってノスリに言ってる。


「コルリ、ツグミさん、ミヤコちゃんも、今日はここに泊まっても大丈夫かな?」

「うン、もちろん。ミヤコちゃんモ大丈夫っテ」

「ええ、みなさんがよろしければ」


 ノスリは早くアウルたちを追いたいはずなのに、私たちにちゃんと訊いてくれた。

 自分の気持ちを優先させないところがノスリらしい。

 でもノスリもちゃんと休んだほうがいいからね。

 それにミヤコちゃんだって今日はペガサスな姿で飛んでくれてばかりだもんね。


「……わかりました。それでは一晩、お世話になります」


 ノスリの返事に隊長さんたちはすごく喜んでる。

 よかった、ノスリが休んでくれる気になって。


「ノスリ、大丈夫?」

「ああ、俺は大丈夫だよ。でもコルリは疲れてるだろ? ミヤコちゃんも今日はずいぶん飛んでもらったし、ずっと野宿だったからな」

「私は……うン、ちょっと疲れたカナ。そんナニわかりやすい? ミヤコちゃんにも心配されちゃっタヨ」

「いくらマットレスがあったとはいえ、野宿が続いたら女性には大変だろ? ツグミさんも今日はゆっくり休んでください」

「ありがとう、ノスリさん。ですが、ノスリさんもちゃんと休んでくださいね」

「ええ」


 ノスリは自分のためじゃなくて、私たちのために休んでくれることにしたんだね。

 ほんといつも人のことばかりなんだから。

 呆れるような嬉しいような不思議な気分でノスリを見る。


『ふむ。やはりノスリはコルリのことがよくわかっておるな』

「私のことが?」

『だからこそ、今日はここに泊まるのだろう? ノスリはアウルからの伝達魔法で〝気になること〟の原因がわかったのにのお』

「わかったの!? いつの間に!?」

「どうした、コルリ?」

「ううン、何でもナイ」


 部屋へと隊長さんが案内してくれてるときに大きな声を出しちゃったから、ノスリも隊長さんもツグミさんも心配させてしまった。

 失敗したよ。

 だけど水臭いよ、ノスリ。


『先ほど、ノスリにだけ届いたのだ。我は当然読み取ることはできたが、ノスリは皆に心配をかけたくなかったのだろう』

「……急いだほうがいいの?」

『いや、今日が明日になっても変わらぬだろう。今はあの地にアウルがおるのだから。ただノスリは気が急いているのではないかと思ったのだが、コルリやツグミの疲労を回復させることを優先したようだ』


 ミヤコちゃんの答えを聞いてちょっとだけ安心。

 アウルがいるなら大丈夫ってことは、新しい被害はないってことだよね。

 それなら確かに、今日一晩はゆっくりしたほうがいいかもしれない。

 ノスリ自身のためにも。


「アウルとお兄ちゃんはどこに行ったの? 明日、出発するとして、ミヤコちゃんは大丈夫?」

『もちろんである。何も心配はいらぬ。アウルからの伝言も「東の地の異変の原因がわかったので、気脈の修正が終わったら来てほしい」とのことだ。アウルは我に伝わるのも承知しておるのだろう。居場所を伝えるためにもな』

「原因が大変なことじゃないといいけど……」


 また精霊の王様とかが関わってたら面倒だよね。

 他にどんな王様がいるのかはわからないけど。

 そう心配する私に、ミヤコちゃんは何でもないとでもいうように私の頬をぺろりと舐めた。

 子猫姿のミヤコちゃんに舐められるなんて、嬉しいけどくすぐったいよ。


『心配は無用だ、コルリ。その東の地とやらの異変は、たかが麒麟のせいなのだから』

「あ、そうなんだ。……って麒麟!?」


 キリンじゃなくて、麒麟?

 白澤なアウルのライバル的な存在じゃないの?

 ものすご~く面倒な予感しかしないんですけど。




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