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82/110

82.紹介

 

 前回飛び立った場所、駐屯地の訓練場みたいな場所にミヤコちゃんがふわりと降り立つ。

 周囲には大勢の兵士さんたちがいて、大歓声の中で迎えてくれた。

 ちょっと恥ずかしいね。

 だけどペガサスなミヤコちゃんを初めて見る騎士さんたちはぽかんとしてる。

 どうやら駐屯地内には一般の人たちはいないみたいで、外からも歓声というかどよめきが聞こえてきていた。


「ノスリ殿、よくぞご無事にお戻りくださいました」

「もういいよ、フォーシン。コルリやツグミさんたちにも僕の本当の名は話したから」

「さようでございましたか」


 進み出てきた隊長さんはノスリの言葉を聞いて、片膝をついて頭を下げた。

 途端に騎士さんたちだけでなく、兵士のみなさんも膝をついて頭を下げる。

 えっと、私も立ったままなのは申し訳ないんですけど。


「ノースラリー殿下、ご無事でのご帰還、心よりお喜び申し上げます!」


 今度は騎士さんの中で一番身分の高そうな人が声を上げた。

 するとみんな同調して声を上げるから耳が痛いくらい。


『コルリ、何をしておるのだ?』

「いや、何となく……」

「コルリ、腹でも痛いのか?」

「うウン。大丈夫」

「なら立てるか?」

「うン……」


 ノスリの隣で立っているのが居たたまれなくて、しゃがんでお山座りしてました。

 ツグミさんは普通に立ってるけど一歩下がってて、私は立ち上がってからミヤコちゃんの足の陰に隠れる。

 うん、これなら目立たないよね。

 って、何で子猫になるの~?

 可愛いからいいけど。


 よいしょとミヤコちゃんを抱き上げると、どよめきがさらに広がった。

 うん。ペガサス……というか大きな空飛ぶ馬が子猫に変わったら驚くよね。


「やはり使い魔であるミヤコ殿には驚かされますね」

「ああ。そうだな」

「ところで、私を先日送ってくださったアウル殿とヒガラ殿はどうされたのです?」

「……別の場所に視察に行ってくれている。ここへは気脈の修正が終わった報告に寄っただけで、僕たちもすぐに合流する予定なんだ」

「すぐにですか……? とにかくここでは何ですから、部屋で少しでもおくつろぎください」


 隊長さんと話してるノスリを見てると、やっぱり王子様なんだなって思う。

 とはいえ、王子様にも休息は必要で、一晩くらいはベッドでゆっくり休んだほうがいいよね。

 もし泊まっていくように勧められたら、強引にでもノスリを休ませよう。

 お兄ちゃんもたぶん休憩はちゃんとしてるはずだから。

 そう思ったのに、ノスリは動こうとしない。


「ノスリ?」

「心遣いいただき、感謝します。ですがその前に僕をずっと助けてくれた友達を皆に紹介させてください」


 ん? ミヤコちゃんの紹介?

 子猫のままでいいのかな?


「ミヤコちゃん――」

「コルリ」

「うン?」

「彼女はコルリ。魔法学校でのパートナーでずっと僕を励まし、支えてくれていました」


 ノスリの声は大きくはなかったけれど、訓練場にはよく響いた。

 てっきりミヤコちゃんを紹介するものだと思ってたから、びっくりしたけど慌ててぺこりと頭を下げる。

 兵士さんたちからは歓声やら感謝の言葉やらが聞こえてきて恥ずかしいよ。


「コルリが抱えている子猫は彼女の…使い魔です。本来の姿は別ですが、魔獣を簡単に倒せるほどの力を持った聖獣です。ここまで無事に旅をして帰れたのも、この子のお陰です」


 さっきよりも大きな歓声が上がったので、みんなに見えやすいようにミヤコちゃんを高い位置で抱き直す。

 ミヤコちゃんって超可愛いでしょ? 見て見て!

 ただノスリはミヤコちゃんの本来の姿をペガサスって言わないんだなって思ってから、なるほどって気付いた。

 前回と違って今は王子様として発言してるから、嘘は言わないようにしてるんだね。

 たぶんだけど。


「こちらはツグミさん。コルリの友人でかなり魔力が高く、彼女もまたこの国の危機を知って力になってくれるため、旅に同行してくれました」


 ノスリが紹介すると、兵士さんたちの歓声はミヤコちゃんの時くらい大きくなった。

 うん。ツグミさんは美人だもんね。

 しかも紹介されたツグミさんは軽く膝を折ってから微笑んだ。

 優雅! 高貴! パーフェクト!


 庶民丸出しな私の挨拶がいかに残念だったかわかるよ。

 ツグミさんみたいになれたらいいなあ。

 なんて私が思ってたら、ツグミさんは私を見てまた微笑んだ。

 いや、微笑んだっていうより、にやにや笑ってるって言うほうが正しいかも。


「それでは殿下、こちらへ」

「ああ」


 歓声はまだやまなかったけど、隊長さんがノスリを促して歩き始める。

 だから私もミヤコちゃんを抱いてツグミさんとついていく。

 すると兵士さんたちが私たちの通る場所をささっとよけて開けてくれた。


「コルリさん」

「ナニ、ツグミさん?」


 一度入ったことある建物だから、特に緊張することなくノスリの後ろを少し遅れてついていってたら、ツグミさんがこそこそと話しかけてきた。

 ミヤコちゃんは飽きてしまったのか、鞄の中にもぐりこんで寝ちゃってる。


「先ほどのノスリさんの紹介、素敵だったわね?」

「……素敵? ノスリが?」

「違うわ、ノスリさんの紹介の言葉よ」


 ついにツグミさんがノスリのことを好きになったのかと心臓が跳ねた。

 だけどツグミさんは小さく笑いながら訂正する。

 どういうこと?


「コルリさんのことを『僕のパートナー』って言ってたわね?」

「エエ? それは、学校のダヨ。そう言っテたヨ」

「パートナーの部分を強調してね」

「そ、そんナ……」

「それに私のことは『コルリさんの友達』ってね」

「そうだッタ?」

「そうよ」


 ツグミさんはまたにやにや笑いをして私を見てる。

 美人さんはどんな顔でも美人だけど、それはツグミさんの考えすぎじゃないかな。

 いや、でも。うん。

 やっぱりノスリは友達だよ。




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