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78.お願い

 

「実は、今回の視察でどうしても気になる場所があるんだ。アウルも原因がわからないらしい。それで、改めて調査に行きたいと思っている。だから、もう少しだけ俺に付き合ってくれないか?」

「……それダケ?」

「それだけって、大切なことだろう? みんなの時間をまたもらうことになるんだから」

「そんなのオカシイ! 私たちノ時間とか、そんなのナイ! ノスリの――この国の人たちが少しデモ安心して暮らせるナラ、何年かかっテモ私はかまわナイんだカラ」

「いや、だがな……」

「ほら、ノスリ君。言っただろう? コルリは気にしないって」

「もちろん私もかまいません。いいえ、絶対に手伝わせてください」

『ノスリは水臭いのだ』

「ほらア、ツグミさんもミヤコちゃんもかまわナイって言ってる。ノスリは気にスル必要ナイの!」

「……ありがとう」


 いったいどんな頼み事かと思ったら、全然頼む必要もない内容でびっくりだよ。

 ツグミさんもミヤコちゃんも同じ考え。

 もちろんお兄ちゃんもアウルも。

 だけどノスリだけ気にしてて、視察のときにお兄ちゃんに励まされてたみたい。


 ノスリは私たちの言葉に申し訳なさそうな、でも嬉しそうな顔で笑った。

 ほんと、いつもは意地悪なくらいなのに、自分のことに関しては遠慮するんだから。

 でもまた調査に向かうってことは、もう少しノスリと一緒に過ごせるってことだよね。


「っテ、それはダメだヨ!」

「コルリ?」

「ノスリは王子様なんだヨ? みんなが心配してテ、さっきの騎士さんたちだっテ駐屯地で待ちわびてるヨ」


 ノスリと一緒に過ごせるって喜んでる場合じゃないよ。

 その調査が必要な場所では苦しんでる人がいるのに。

 ううん。その場所だけじゃないんだよ。この国のたくさんの人たちが苦しんでる。

 だから……。


「その場所には私たちダケで行くヨ。ノスリは騎士さんたちトお城に帰るべきじゃナイかな」

「馬鹿なこと言うなよ、コルリ。俺の国のことなんだから、俺が行かないでどうするんだよ。無事な姿は見せたんだから、皆ももう心配することはないだろ。そもそも王子なんて関係ない」

「違うヨ、ノスリ。王子様だカラこそだよ。さっきの騎士さんたちだっテ、どうしテモ一目ノスリの無事な姿を見たいっテ願ったのは心配だったカラだけじゃナイよ。ノスリは希望なんだヨ」


 そうなんだよ。私の気持ちを優先させている場合じゃないんだ。

 この国は魔獣にいっぱい襲われて、聖獣まで暴れたりして、みんな苦しんで疲れてるんだよ。

 ミヤコちゃんやアウルの助けがあって、精霊の王様たちが協力してくれて、もうすぐ気脈も修正できる。

 その原因不明の謎な場所の心配もあるけれど、それは私たちだけでもどうにかできるんじゃないかと思う。

 だけど、ノスリにしかできないこと、ノスリだからこそできることがこの国の人たちの希望になることなんだよ。


「希望って、何を言ってんだよ。みんなきっと俺のことなんか忘れているよ。それとも逃げ出したって思われているかもしれない。そんな俺がやるべきなのは、魔獣退治や魔獣の出没頻度を減らすことだろ?」

「そんなことナイ。この国の王子様が逃げ出したっテ聞いたことナイ。誰もそんな噂しテなかったヨ」

「じゃあ、やっぱり俺のことなんて忘れてるんだよ」

「だったラ、あんなに騎士さんたちは泣いたりしナイ! あレはノスリが帰ってきテくれテ本当に嬉しいカラ! ノスリはこの国にとっテ、すごく大切ってコト!」


 上手く言えない自分がもどかしい。

 つらいとき、苦しいときに必要なのは直接的な助けだけじゃないんだよ。


「ノスリはアイドルになるんダヨ!」

「悪い、ちょっと何言ってるかわからねえ」

「ンなー!」


 もどかしい!

 こんなに自分の語彙力のなさに絶望したことはないよ。

 助けを求めてお兄ちゃんを見たけど、残念な子を見る目で見られてた。

 ツグミさんは困ってて、ミヤコちゃんはテーブルの上にいる小さな虫をじっと見てる。

 うん。虫って意外と動きがおもしろいよね。

 だけど私が変な声を出したからか、ミヤコちゃんは顔を上げて心配そうに私を見た。


『コルリ、我はいつでもコルリの力になるぞ』

「うん。ありがとう、ミヤコちゃん」


 どうやら私のもどかしい気持ちが伝わったみたい。

 ミヤコちゃんはとても敏感だからね。

 優しい言葉に元気が出てきたよ。

 よし、きちんとノスリに伝わるように説明しよう。


「あのネ、ノスリ――」

「ふむ、思い出したぞ。アイドルとは偶像崇拝のことだな」

「チーガーウー」


 いや、違わないけど。そうじゃなくて。

 今までアウルが黙ってたのは思い出してたからか。


「おかしいな。余の記憶では偶像崇拝とあるぞ? 要するにノスリを希望の象徴として崇めさせるのだろう?」

「ちょっとチガウの。崇めさせるトカ崇拝するトカじゃなくて、ノスリの存在そのものが希望にナルんだヨ」

「コルリ、無茶を言うなよ。俺にそんな力はないし、そんな資格もねえよ」

「あるヨ。ノスリは騎士さんたちと一緒に帰っテ、みんなにコノ土地はも大丈夫っテ伝えるんだヨ。精霊の王様たちにお願いしテもう魔獣を寄せ付けナイようにしたっテ、今までずっとこの土地ヲ――国ヲ救うために修行に出てたっテ伝えるんだヨ」


 そうすればノスリは英雄になれる。

 王子様が国を救うためにたった十二歳で修行に出たって聞いて喜ばないわけがないよ。

 そんな王子様が帰ってきてくれたんだもん。

 きっとみんな希望を持って、勇気も湧いてきて、頑張ろうって思える。

 この国を元気にしようって。


「ふむ。コルリの考えがわかったぞ。ノスリはこの国の復興のために最高のプロパガンダになるのだな」

「アウル、難しい言い方はヨクわからナイ」

「この国の民を元気づけるために、ノスリは英雄になるのだ」

「そう、ソレ! そういうコトだヨ!」


 要約するとそういうことだよね。

 お兄ちゃんやツグミさんもやっと理解してくれたのか、なるほどって顔になった。

 だけどノスリだけ納得いかない感じ。


「ノスリ、何が不満ナノ? 気にナル場所は私たちが調査するんだヨ?」

「今回のことは俺の力じゃない。俺は英雄にはなれない。英雄に相応しいのはミヤコちゃんやアウル、そしてコルリだよ」

「だーかーらー。王子様なノスリが英雄にナッテこそなんだヨ。そりゃ、ミヤコちゃんやアウルも……っテ、私はいらナイでしょ!」


 ミヤコちゃんやアウルをアピールするのはすごくいいと思う。

 でも私はダメ。絶対。

 混ぜるな危険、だよ!




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