74.仲直り
『やはり恐ろしいな、コルリは。ゴンベエを簡単に操るとは』
「違うよ、権兵衛が単純なだけ!」
『コルリ……、我はどんなコルリでも大好きだぞ』
「ありがとう、ミヤコちゃん。でも今のは違うからね?」
権兵衛のせいで余計な勘違いされてるよ。
ああ、ノスリやお兄ちゃんも雰囲気だけで決めないで。
だって権兵衛がいたら話がややこしくなりそうなんだもん。
『やはり聖なる乙女は素晴らしいな。気まぐれな風の王をあのように操れるのだから』
「いや、だから違うの」
ヒッキーまでそんなことを言わないでほしい。
でも権兵衛は頼られるのが好きなのはわかったから、また何かあったらお願いしよう。
「とにかく、私はヒッキーと水の王様に仲良くしてほしい。それが無理でもケンカはやめてほしいの」
『聖なる乙女よ、私は水の王とこれ以上関わるつもりはない。よって問題ない』
ああ、言っちゃったよ。
ヒッキーの性格からして人間関係……じゃなかった、精霊関係は希薄でいたいんだろうけど、水の王様は仲良くしたい。
しかも水の王様は素直じゃなくてかまってほしいから、ケンカになるというか、ヒッキーにちょっかいをかけるんだな。
子供っぽすぎるよ、水の王様。
今の言葉に傷ついてまた泣いたりしないか心配したけど、水の王様はなぜか私を睨んでた。
ちょっと意味がわからないんですけど。
ひょっとして、聞きたくなかったことをヒッキーに言わせちゃったから?
「マジで超あり得ないんですけどー!」
『コルリ、どうしたのだ?』
「聞いて、ミヤコちゃん。水の王様ってば、ヒッキーと仲良くしたいのに素直にできないからって意地悪してるみたい」
『なっ! 馬鹿なことを申すな、小娘!』
『小娘とは失礼であろう、水の王よ。コルリはコルリである。我の大切な友達を愚弄するのは許さぬと申しておるであろう!』
『し、失礼しました……』
『我ではない。コルリに謝罪するのだ!』
『……すみませんでした』
「まあ……私はいいけど……」
なんて言うか、人に――ミヤコちゃんに言われてしぶしぶ謝られても受け入れがたいっていうか。
腹は立つけど、気にしていても無駄だと思うんだよね。
水の王様は無意識か意識的にかはわからないけど、私たち人間を見下してる。
それは種族的に絶対的な力の差があるから仕方ないのかもしれない。
それを変えようとするのはとても難しいし、ある意味傲慢でもあると思うからするつもりはない。
ただヒッキーとの仲についてはどうにかしてくれないと、人間だけじゃなく魔獣にでさえ迷惑だからね。
「……ヒッキー、とりあえず修正を続けてくれるかな?」
『承知した』
難しいことは一人で考えても仕方ない。
だからひとまず問題は置いておいて、気脈修正を続けよう。
その考えはアウルもちゃんとわかってくれたみたいで、水の王様に説明を再開した。
水の王様は喜んで! って感じではないけど、ひゅるひゅる~って筋斗雲に乗って飛んでいった。
「……さてと。アウル、ミヤコちゃんも相談があるんだけど――ノスリ、お兄ちゃん、ツグミさん、相談がアルんだ」
『うむ。何かはわかっておる』
『我のことは気にせず話し合ってくれていい。みんなが決めたことに間違いはないからな』
「ありがとう、ミヤコちゃん!」
『これ、苦しいぞ、コルリ』
言葉が通じないからって、こうして気を遣ってくれるミヤコちゃんには申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
でもミヤコちゃんが気にしてないのもわかるから、とにかくありがとうと大好きの気持ちを込めて抱きしめた。
ああ、水の王様がいたら自慢したのに。
だってミヤコちゃんは苦しいって言いながらも抱きしめ返してくれてるんだもん。
「お疲れ様でした。皆さんは何を飲まれますか?」
「ありがとう、ツグミさん。俺もミヤコちゃんと同じものでお願いします」
「僕も同じでお願い、ツグミさん。ありがとう」
「余はお茶がいいのだ」
「わかりました」
私とミヤコちゃんがいちゃいちゃしてる間に、ツグミさんがみんなを労ってくれてた。
しまった。これが女子力の差か。いや、性別関係ないな。
何だかんだしてて、視察から帰ってきたノスリたちが立ったままだったことも忘れてたよ。失敗。
ノスリたちはテーブルを囲んで座ると、ツグミさんが飲み物を出してくれる。
しかも私とミヤコちゃんにはお代わりまで!
「ありがトう、ツグミさん」
「どういたしまして。コルリさんも王様たちのお相手お疲れ様でした」
うう。優しさが沁みる。
そうだよ。大変だったんだよ!
でも今までが幸運だったんだなって、つくづく思った。
私には前世の記憶が何となくあって、日本語がベースになってるお陰でミヤコちゃんと仲良くなれて。
それもミヤコちゃんが最強のドラゴンなのに優しくて可愛くて心が広くて愛らしくて素直でキュートで……同じことの繰り返しだけど、とにかくミヤコちゃんは最高ってことで。
そんなミヤコちゃんと仲良くなれたお陰で、アウルや権兵衛やヒッキーとも親しくなれたんだから。
ミヤコちゃんがいなかったら私はただの人間で、水の王様のような態度が普通なんだと思う。
そもそも出会うこともなかったよね。
だとしたらこの国を助けることもできなくて……って、暗くなっちゃダメだ!
よし。今は目の前の問題を解決するために頑張ろう。
「あのネ、色々と問題はまだあるケド、とりあえずヒッキーと水の王様の関係改善しナイと、また同じようなコトが起こると思うんだ。どうしタラいいか、みんなト話し合いタイ」




