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72.友達の基準

 

『猊下ともあろうお方が、なぜこのような脆弱な者たちに好き勝手させるのです!』


 権兵衛の誘いを断って椅子に座り直したら、水の王様は耐えきれないように叫んだ。

 だけどミヤコちゃんはあっさり答える。


『友達だからだ』

『ですから、なぜ――』


 水の王様は真面目が過ぎるタイプだな。

 あんまり思い詰めないほうがいいのにね。

 水の王様はまだ何か言いかけてたけど、そこにお兄ちゃんの声が聞こえて中断。


「おーい! みんな無事か~?」


 アウルの背中に乗ったまま手を振るお兄ちゃんは我が兄ながら呑気だよね。

 声に気付いたときにはまだ遠くだったけど、あっという間に目の前に到着。


「おかエり、お兄ちゃん、ノスリ。アウルもおかエり。お疲れサマでしタ」

「ただいま、コルリ。ミヤコちゃん、ツグミさんも元気そうでよかったよ。コルリが迷惑かけなかったかな?」

「お兄ちゃん、ヒドイ! 大丈夫だし! デモ今、取り込み中」


 地上に降りたお兄ちゃんたちに駆け寄って無事を喜んだのに、その言い方は酷いよ。

 ノスリも「ただいま」って言ってから、ちょっと警戒して水の王様を見る。

 だけどお兄ちゃんはかまわずミヤコちゃんに抱きついて頭撫でてるから、水の王様の血圧急上昇。

 いや、血圧とかあるのかな? 水圧?


『そなたが水の王か』

『は、白澤老師、あなたまで……お初にお目にかかります』

『ああ、よいよい。そのような堅苦しい挨拶はいらぬ』


 そう言ってアウルは膝をつく水の王様に手を振った。

 もちろん水の王様は筋斗雲の上だけど。

 それよりも老師って!

 でも確かにしゃべり方がいつもより偉そうでそれっぽい。

 男の子の姿に戻るとギャップがすごいよ。


 水の王様はどうやらアウルに私とミヤコちゃんの友情とか、権兵衛のこととか納得いかないと訴え始めた。

 アウルもどちらかというと真面目だから話をちゃんと聞いてあげてる。

 ミヤコちゃんはツグミさんが出してくれたクッキーを美味しそうに食べてて、水の王様のことは気にしていない。

 ツグミさんってば、本当にすっかり馴染んだよね。

 なので私はこそこそとノスリに話しかけた。


「ノスリ、大丈夫ダった?」

「ああ、まあ予想はしていたからな。それよりも、本当に水の王様を呼び出せたんだな。どうやったんだ?」

「……それは簡単ダったよ。単純すぎテあり得ナイかもっテ思ったカラ言わなかったダケ。ヒッキーと水の王様は仲が悪いみたいだカラ、ヒッキーが湖ヲ埋め立てたラ、怒ってやってくると思ったんだヨネ」


 予想していたってことは、あまりよくなかったのかな?

 本当はもっと詳しく聞きたかったけど、ノスリが話を変えたので仕方ない。

 ちょっとばかり胸を張って答えるよ。えっへん。


「確かに単純だよなあ。単純すぎて思いつかなかったよ」

「お兄ちゃん、それっテ私が単純ってコト?」

「そうは言ってないよ」


 むむ。兄弟って遠慮なくてほんと失礼だよね。

 まあ、お兄ちゃんのこと大好きだから許すけど。

 それよりも、水の王様にはまだお兄ちゃんたちを紹介するどころか、自分の紹介もできてないんだよね。

 でも必要ないのかなあ。

 水の王様の訴えは、ヒッキーが不当に湖を埋めたって話に移ってる。

 あ、そろそろアウルが焦れてきたみたい。


『水の王よ、そなたの言い分はわからぬでもない』

『では――』

『だが、そなたは少々身勝手であることを自覚するがよい』

『なぜですか!?』

『なぜ、なぜ、なぜと、そなたは先ほどから自分の質問と要求ばかりじゃ。ではこちらから質問しよう。なぜコルリたちのことを認めぬ?』


 まさかのミヤコちゃんがキレた。

 それにはアウルもびっくりしてる。

 言い方は優しいからみんなは気付いてないけど、水の王様は顔色を青くしてる。

 もともと青白かったけど。

 しかも上空をくるくる飛び回ってた権兵衛までひゅるひゅると降りてきた。

 たまには空気読めるんだ。


『コルリもツグミも我の友達だと申しておる。今戻ってきたノスリとヒガラもそうだ。当然アウルも……白澤も友達なのだ』

『俺様は?』

『権兵衛もじゃ!』

『ふっふはははは!』


 ミヤコちゃんの友達宣言はすごく嬉しい。

 そこに権兵衛が割り込んで、ミヤコちゃんにキレぎみの答えをもらって嬉しそうに飛んでった。

 やっぱり空気が読めないな。

 もうそのまま戻ってこなくていいよ。


『で、ですが、白澤老師以外の者たちは取るに足りぬ脆弱な人間ではないですか!』


 あ、水の王様の中で権兵衛のことはなかったことになってる?

 それともただの深読みかな。

 さすがにミヤコちゃんの異変に気付いたのか、ツグミさんが心配そうにしてる。

 だから私はお兄ちゃんとノスリを引っ張って、ツグミさんの傍に行った。


「ミヤコちゃんハ、私たちが友達だっテ水の王様に言ってくれたんダヨ。水の王様にとっテ、私たちは……取るに足りないみたいだカラ」

「ああ、そうか」

「ありがとう、ミヤコちゃん」


 ツグミさんたちは理解して、みんな口々にお礼を言った。

 ミヤコちゃんは言葉は違っても意味は理解したみたい。

 私たちのほうにちょっと顔を向けて、にこって笑ったから。


 かーわーいーいー!

 ミヤコちゃんの笑顔に胸キュンして打ちのめされたよ。

 ああ、アウルまで顔を赤くしてる。

 だけどミヤコちゃんはすぐに水の王様へ冷めた目を向けた。


『我にとっては、そなたも脆弱な存在である』


 うお! ミヤコちゃんの冷たい宣告。

 いつもミヤコちゃんは私たちのために怒ってくれる。

 それでもここまで怒ったミヤコちゃんは本当に初めてかもしれない。

 こんなに冷たいミヤコちゃんの態度は、私だったら胸が痛くて打ちのめされるよ。

 そう思って水の王様を見ると、力を失くしたように筋斗雲の上でうつぶせになった。

 だ、大丈夫かな?

 その体は小刻みに震えてて、心配になってくる。


『う、うう……』

「水の王様? 大丈夫ですか?」

『放っておけ、コルリ。そなたが相手にする価値もない』

「で、でもミヤコちゃん――」

『うわーん! 猊下に嫌われたよおおおーん!』

「……え?」


 どうやら私を止めるミヤコちゃんの言葉がダメ押しになったみたいで、水の王様は声を出して泣き始めた。

 それにはみんな――ミヤコちゃんとアウルも呆気に取られてる。

 そしてあっという間に筋斗雲の周りには水たまりができていってて、このまま泣き続けたら池ができるんじゃないかな。

 さすが水の王様。

 うん、洪水になる前に何とかしないとね。




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