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68/110

68.影響

 

『聖なる乙女よ、私は寝る』

「え? もうごちそうさま? ってか、もう寝るの? まだ朝だよ?」


 私が席に戻った途端、ヒッキーがのそりと立ち上がった。

 ご飯はまだ残ってて、お残しは許しませんって言いたいけど、精霊の適量がわからないから無理強いはできない。

 それよりもまだ学校も始まらないような時間なのに、寝ちゃうの?


『太陽が……』

「太陽が?」

『眩しすぎてつらい』


 モグラ? 土の竜と書いて、モグラなの?

 するすると土の中に消えていくヒッキーを見つめながら、そんなことしか頭に浮かばなかった私はたぶん疲れてる。

 朝から本当に色々あったから。

 もう疲れたよ、フランダース。……って、何か違う。


『土の王が残したパンを食べてもよいか?』

「う、うん。いいと思うよ、ミヤコちゃん」

「では、スープは余が頂くのだ」


 ミヤコちゃんもアウルもヒッキーの言動は気にならなかったみたいだけど、残したご飯は気になったみたい。

 ふたりの体は小さいのにたくさん食べるよね。

 たくさん食べて、たくさん寝るから、ふたりとも大きくなるよ。

 私より年上だけど。


「コルリ、土の王様はまさか引きこもってしまったのか?」

「う、ウウん。寝るんだっテ。太陽が眩しいカラ」

「土の王様は夜型か……」


 なるほど。物は言いようだね。

 お兄ちゃんの言葉に納得しつつも、ふと思った。

 あれ? それでお山づくりは?


「アウル、ヒッキーはどれくらいお山造ってくれてた? 地脈は修正できそう?」

『そうだな。まず一山造成できたから、この調子でいけば三日ほどで完成するはずだ』

「三日? やっぱりヒッキーの言うとおりだね。すごい……」


 あんなに地味に見えてもやっぱり精霊の王様はすごいんだなあって感心。

 だけどアウルは呆れたようにため息を吐いた。


『土の王がそもそもきちんと働けば、一日で完成するはずなのだ。それを今のように引きこもるから日程が遅れるのだぞ?』

「だけどヒッキーは今までずっと引きこもってたのに私たち人間のために働いてくれてるんだもん。十分だよ」

『コルリは甘いのだ。そもそもは土の王と水の王が引き起こしたことではないか』


 あれ? 何だかアウルってばこんなに厳しかったかな?

 ちょっと効率主義過ぎない?

 できる人はできない人の気持ちがわかりにくいからかな。

 人間じゃなくて聖獣だけど。


『そもそもコルリは他人事だと思っておるから、呑気にしておるのだ。この地の気脈が乱れて苦しんでいるのはノスリであって、コルリには関係ないからな』

「そ、そんなこと……」


 アウルにそこまで言われてもはっきり否定できないのは、ひょっとして心の奥でそう考えてたのかもって思ったから。

 スクバの街の惨状を見ても、人に被害がなくてよかったねって安心してた。

 でもすでに被害は出てるんだよ。

 みんなの生活が脅かされてるんだから。


 ちらりとノスリを見ると、心配そうにこちらを見ていた。

 ノスリだけじゃなくて、お兄ちゃんもツグミさんもこっちを心配して見てる。

 まるでケンカしてるみたいだったかな。

 どうしたらいいんだろう。


『ふむ。アウルはいますぐここから出ていくのだ』

「ミヤコちゃん!?」

『ミヤコ、なぜそんな意地悪を申すのだ!? 余がコルリに告げたのは事実なのだ!』


 今まで美味しそうにパンを食べてたミヤコちゃんの突然の発言にびっくり。

 ううん、びっくりってものじゃないよ。

 だけどミヤコちゃんは首を傾げてアウルを見つめた。


『本来なら、コルリへの無礼な物言いの数々は許さぬが、本音ではないゆえ許してやるぞ』

『よ、余は何も嘘は言ってないのだ!』

『アウルにとって嘘ではなくても、真実でもない。そもそも今さら二日三日気脈の修正が遅くなろうとも、この国は何も変わらぬ』

『それはそうかもしれないが、ノスリだって早くしたいに決まっているのだ!』

『先ほどからアウルが申しておるのは、勝手な推測であるな。コルリの心もノスリの心も、見知らぬ者が知ったふうに話しているのと同じだ。二人のことを知っていれば、そのような言葉は出てこぬ』

「ミヤコちゃん……」


 自分の心に自信をなくしてたから、ミヤコちゃんにそんなふうに言ってもらえるとすごく嬉しい。

 だけど、ミヤコちゃんたちにケンカはしてほしくないよ。


「あのね、アウルもこの国のことを思ってくれて――」

『そうではない』

「ミヤコちゃん?」

『思っているのだ!』

『確かにいつものアウルならな。だが今のアウルは心を乱され、本当のアウルではない。よってしばらくこの地を離れておるのがよい』

「あ……」

『そんな……ことは、ある気がするのだ』


 そうだった。

 この地は気脈が乱れていて、白虎や玄武が争うくらいなんだ。

 特に弱い魔獣は引きつけられてしまうって、アウルもできれば近づきたくないって言ってた。

 アウルも心当たりがあるのか認めてしまった。

 でもミヤコちゃんの傍にいれば大丈夫って……。


『アウルには悪いことをしたのだ。我が守ってやると言いながら、心を乱させてしまった』

『ミヤコが悪いわけではないのだ。余は昨日からミヤコの傍をたびたび離れたからな。その影響なのだ。コルリ、冷たく言って悪かった』

「ううん! 大丈夫! だって、アウルがいてくれたから解決策が見つかったわけで、ヒッキーも地脈を修正してくれてるんだもん! アウルのお陰だよ。だからミヤコちゃんの言うとおり、少し離れてお休みしたほうがいいのかもね?」

『……そうだな。反省の意味も込めて、二、三日旅に出るのがよいのかもしれん』


 しょんぼりするアウルはいつものアウルで、可愛いやら気の毒やら複雑なので私は何も言わなかった。

 アウルは隊長さんを送ってくれたり、気脈を調べてくれたり、さっきはヒッキーに指示を出したりとミヤコちゃんと離れる機会が多かったからだよね。


「そういえば、人間は心を乱されたりしないの?」

『するぞ。魔力が強い者ほどな』

「じゃあ、私たちは……ミヤコちゃんの傍にいるから大丈夫なの?」

『うむ。ここは気脈の乱れの中心地であるからして、本来なら大きく影響を受けたであろう。だが、フォーシンという者はこの地からすぐに離れたからな。ノスリもすぐにミヤコの傍に戻ったので問題はなかったのだ』


 ってことは、アウルがさっきまで乱れていたのって、気脈を調べてくれたのと、夜明け前からミヤコちゃんと離れていたせい?


「だとしたら、お兄ちゃんは!? アウルとさっきまで一緒に行動してたんだよね!?」


 慌ててお兄ちゃんを見たら、どうした? って感じでにっこり笑ってくれた。

 あ、いつものお兄ちゃんだ。


『うむ。ヒガラについては心配いらぬようだ』

「そっか。よかった……」

『そうだな。余と違ってヒガラは能天気であるからな。気脈の乱れの影響を受けにくいのだ』

「え……」

『もちろん心配せずともコルリも大丈夫だぞ。コルリはもっと影響を受けにくいだろうからな』

『さすがコルリなのだ。我は誇らしいぞ』


 いや、これは誇っていいことじゃない気がする。

 お兄ちゃんが能天気なのは認めるけど、私もってこと?

 こんなにいっつも悩んでいるのに?

 だけどまあ、気脈の乱れの影響を受けにくいならいいかな。

 うん、ラッキーだね。




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