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67.バリアー

 

 せっかく私が一番になったと思ったのに、ノスリはヒッキーとのんびり歩いて戻ってきた。

 その間にお兄ちゃんとアウルが先に戻ってきたから、ノスリはビリね。


「ノスリ、勝負ヲ投げ出すなんテずるいヨ」

「いや、そもそも勝負なんてしてねえだろ」


 うむむむ。まさかの正論。

 悔しいので黙って水魔法で手を洗う。

 そこでふと気付いた。

 昨日ヒッキーはご飯の準備ができる前に寝ちゃったので食べなかったけど、今日は食べる気満々だよね。


「ヒッキー、水魔法は使える?」

『聖なる乙女よ、それは愚問である』

「使えるんだ?」

『使えるわけなかろう』

「ですよね」


 やっぱりダメなのか。

 意外なようで、予想通りだよ。


「水に濡れると力が出なくなったりとかしない?」

『私は水には負けぬ!』

「そ、そうだったね。じゃあ、手を洗ってもらっていいかな?」

『手を洗う?』

「うん。ご飯を食べる前には手を洗わないと。ヒッキーはさっきまで土いじ……山を造ってくれてたからね」


 危ない危ない。

 ヒッキーの地雷をうっかり踏んじゃうところだったよ。

 朝から色々あって忘れてたけど、水の王様とケンカ中だったね。

 本人は認めてないけど。


 手の洗い方はアウルと一緒にレクチャーすると、ヒッキーはわかってくれた。

 でも手を洗う土の精霊の王様っていうのもシュールだな。

 そしてみんなでテーブルを囲んで、ツグミさんが準備してくれた朝ご飯を食べる。

 ああ、失敗。全部ツグミさんに任せちゃってたよ。


「ありがトウ、ツグミさん。ご飯の用意ヲ全部任せちゃっテ」

「いいえ、大丈夫よ。少しでもお役に立てたなら嬉しいわ」


 にっこり笑うツグミさんはとても上品でさすがだなと思う。

 きっとお城にはツグミさんみたいな素敵な女性がいっぱいいるんだろうなあ。

 王様と長官に会いに王宮に行ったときだっていっぱいいたもんなあ。

 それでちょっと馬鹿にした笑いも聞こえてきてたし。

 あ、思い出したら何だか腹が立ってきた。


 とはいえ、ノスリもやっぱり高貴な女性がいいのかな。

 男の人ってお嬢様に弱いもんねえ。

 パンを持ったまま、はあっとため息を吐いたら、思った以上に大きかったみたい。

 ツグミさんが綺麗に広げてくれたテーブルクロスが揺れたから。

 って、これは風だ!


「ミヤコちゃん、大変!」

『うむ。土埃からご飯を守るぞ』


 それもそうだけど、そうじゃなくて。

 ミヤコちゃんはテーブルを中心に見えないドーム型の壁を張ったみたい。

 逆スノードームみたいで少し先は風が吹き荒れてる。

 ミヤコちゃんがガードしてくれなかったら、ご飯が台無しだったね。


「ありがとう、ミヤコちゃん」

『うむ。ご飯は無事である』

「コルリ、風の王を呼んだのか?」

「呼んではナイけど、勝手に来たみタい」

「どちらにしろ面倒だ」

「もう一人分あるかしら……?」

「コルリ、任せたぞ」


 みんな突然の暴風に驚いていないのは、その理由がわかっているからだよね。

 お兄ちゃんは空を見上げて、アウルは大きくため息を吐いて、ツグミさんはご飯の量を心配して、ノスリは丸投げ。

 ツグミさん、権兵衛にご飯を出す必要はないよ。

 あとヒッキーはこんな状況でも黙々と食べられるなんてすごいね。


『ふはははは! 俺様を――っ!?』


 見えないけど明らかに存在する壁に権兵衛は勢いよくぶつかった。

 さすがミヤコちゃん。

 精霊の王様も入れないバリアーを張れるなんて。

 マンガみたいにべたっと貼り付いてる。


『こら、コルリ! なぜ俺様を入れぬのだ!』

『コルリ、ご指名のようだぞ』

「え、やだ。アウルが相手をしてよ」

『余は食事中なのだ』

「それは私もだよ」

『では、我がゴンベエを追い払えばよいか?』

「あーっと……ミヤコちゃん、それはちょっと待って」


 さすがにそれは気の毒っていうか、呼んだつもりはないけど、声が届いちゃったわけで。

 面倒くさいけど、無視はできないよ。


「権兵衛、水の王様は見つかった?」

『ふむ。答えを知りたくば中に入れるのだ』

「それは無理」

『なぜだ』

「今はご飯中なので出直してください」


 何だか訪問販売をお断りしてる気分だよ。

 お母さんもお父さんも人がいいから、すぐああいうの話を聞いちゃうんだよね。

 それで一度、たっかいお布団買うことになって、お兄ちゃんが慌てて止めたんだった。

 やばい。心配になってきた。

 だけどまあ、おばあちゃんがいるから大丈夫かな。


『コルリ! 聞いているのか!?』

「あ、ごめん。聞いてなかった」

『もうよい! 俺様はもう――』

「権兵衛、お願いがあるんだけど」

『むむ? 何だ? 内容次第では聞いてやらぬこともないぞ?』

「そっかあ。権兵衛には無理かも……」

『俺様にできぬことなどない! 申してみよ、叶えてやる』

「ほんと? 実は私の家族の様子を見てきてほしいんだけど。ばれないように、騒ぎにならないように、そよ風のようにそおっと……できるかな?」

『むろん、できるに決まっている』

「すごい! さすが風の王様! それじゃあ、今から行ってみんなが困ったことになってないか、元気かどうか見てきてくれる? 場所は――」

『聞かぬとも風の噂でわかる』

「うわあ、本当にすごいんだね!」

『当然であろう。では、待っていろ』

「うん、ありがとー!」


 どうしよう。権兵衛がちょろすぎてかわいい。

 ちゃんとそよ風でって言ったから、突風を起こしたりしないよね?

 あっという間に去っていった権兵衛を見送って振り返ったら、みんながじっと見ていた。


「風の王をあのように操るとは、コルリは恐ろしい女なのだ」

「操ってナイよ! 権兵衛が単純なダケ」

「コルリ、お兄ちゃんはお前の将来が心配だよ」

「心配ナイって! まっすぐすくすく育っテるカラ!」

「まあ、まだやり直しはできる年だからな」

「ノスリは同じ年デショ!」


 権兵衛との会話をアウルが訳してたみたいだけど、その言い方はひどいと思う。

 だけどツグミさんはご飯を温め直してくれたし、ミヤコちゃんは私の分のパンを残していてくれたし、やっぱり持つべきは女友達だよ。

 ヒッキーは……うん。もくもくもぐもぐ。咀嚼は大切だよね。




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