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66.土いじり

 

 うん。顎が外れたとかっていうのは大げさでした。

 すみません。

 だけどぱかーんと開いた私の口に土埃が入ってきたのはつらい。

 じゃりじゃりするよ。


「コルリ、あまり遠くに行くなよ。……コルリ?」


 私を捜しに来てくれたノスリは、私の視線を訝しげに追った。

 それからぱかーんって口が開いた。

 うん。ノスリの間抜けな顔は珍しいね。

 でも仕方ない。これはどう考えても不可抗力だよ。


「ノスリ、あんまり口ヲ開けテると、砂が入るヨ」

「……何だ、あれは?」

「ヒッキーの土いじりダネ」

「いや、だって、それは比喩だと思うだろ?」

「私ニもそう思っテた時期がありまシタ」


 私もノスリも視線はヒッキーに釘付けのまま。

 だってヒッキーが巨人になってるんだもん。これは何のおとぎ話?

 そういえば一つ目巨人が一晩で山を造る昔話があった気がする。

 あれはヒッキーのことだったのかも。いや、あれは前世の話だっけ?


 大きなヒッキーが座り込んでお山をぱんぱんと固めてる姿に、砂場で遊ぶ幼児の姿が被る。

 何だろう、目にも砂が入ったかな?

 何度か瞬きしていると、ミヤコちゃんがやって来た。


『コルリ、パンが焼けたぞ。朝ごはんにしよう』

「あ、うん。えっと、ごめん、ミヤコちゃん。ノスリの話をまだ説明してなかったよね」

『うむ。だがかまわぬぞ。それよりもパンを食べよう』

「それじゃあ、みんなにも声をかけないと」


 ノスリが王子様だとかヒッキーが巨人だとか、もう何が何だかわからないよ。

 とりあえずこういう時はご飯を食べて落ち着こう。

 腹が減っては戦もできないし。

 戦わないけど。


「ヒッキー! ご飯だよー!」


 大声で呼んだあとで、ヒッキーは朝ごはん食べるのかなって思ったけど、まあいいや。

 周囲を見回して空にぷかぷか浮いてる影を発見!


「お兄ちゃーン! アウルー! 朝ごはんデきたヨー!」

「……聞こえるか?」

「たぶんダイじょうブ」

「何でだよ?」

「だっテ、風が吹いテるカラ」

「風?」

「風の妖精さんガ声を届けテくれるカナっテ」

「ああ、なるほど」


 私の予想は当たったみたい。

 アウルとお兄ちゃんはこちらに向かってきたし、ヒッキーはゆっくりこっちに振り向いた。

 危険はないとわかってるのに、逃げたくなるのは仕方ないよね。

 うん、ヒッキー怖い。


『これ、土の王! さっさと元の姿に戻らぬか! コルリが怯えておるであろう!』

「ありがとう、ミヤコちゃん。声に出していないのに、よくわかったね?」

『我はコルリのことなら何でもお見通しなのだ。だからコルリにとって、残念なお知らせもせねばならぬ』

「え? な、何かな……?」


 ミヤコちゃんからの残念なお知らせなんて怖すぎるんですけど!

 びくびくしながら訊くと、ミヤコちゃんはらしくない深ーいため息を吐いた。

 うう。気になる。


『今のコルリの声は、風の王にも届いたようだ。よって、こちらに向かってきている』

「それは残念! ほんとに残念だよ!」


 まさかの権兵衛登場なの?

 色々とややこしくなりそうだよ。

 私の大声作戦大失敗。


「どうした、コルリ?」

「それが、権兵衛モこっちに来テるっテ」

「それは……頑張れ」

「そんナぁ……」


 ノスリとの友情もこんなものだよ。

 ミヤコちゃんが残念って言うからにはたぶん水の王様も捕獲できてないよね。

 まあ、今はヒッキーに集中したいからいいけど。


「って、いないし!」

『ふむ。誰がいないのだ?』

「って、いたし!」


 あんなに大きかったヒッキーが消えたと思ったら目の前にいるとか。

 しかも普通サイズに戻ってるよ。


「コルリ、お前はもう少し落ち着けよ」

「どうしてノスリはそんナニ落ち着いテいられるノ?」

「そりゃ、コルリと長い付き合いだからな。慣れだよ、慣れ」

「ちょっと待っテ! 私基準ナノおかしい!」

『コルリ、早くしないとパンが焼き立てではなくなるぞ?』

「……そうだね、ミヤコちゃん。じゃあ、戻ろうか」


 仕方ないな。ここはミヤコちゃんに免じて許してやるか。

 ノスリが王子様だなんてちっとも信じられない。

 好きかもって思ったのも勘違いだよ。……きっと。たぶん。だといいな。


 早く戻りたいのかミヤコちゃんは人間の女の子の姿から、子猫の姿に変わって走り出した。

 惜しい! ミヤコちゃん、惜しいよ。

 それだとスピードは変わらない。

 さっきの姿で走ったほうが速かったよ。


 ミヤコちゃんの可愛さに悶えていると、のそのそと歩きながらもヒッキーが私に追いついてきた。

 くう。これが足の長さの違いか。


「ヒッキーは大きくなれるんだね?」

『そのようだ』

「え? 知らなかったの?」

『早く山を造るためにはどうしたらよいか考えた結果である。聖なる乙女とドラゴンが傍で見ていてくれたからな。昨夜申したとおり、百倍の力が出せたのだ』

「それは……すごいね」

『うむ』


 ごめんなさい。

 傍では見てなかったです。

 しかも百倍大きくなるとは思ってもなかったです。

 比喩じゃなかったんですね。


 心の中で謝っていると、ノスリが隣に並んだ。

 むむ。ここで競歩でもするつもり?

 ヒッキーに抜かれないように自然に早歩きになってたから、息が切れてしんどい。

 でもノスリには負けないぞ。


「コルリ、何をそんなに急いでるんだ?」

「競争じゃナイの?」

「違うよ」

「じゃア、競争!」

「あ、おい!」


 先手必勝!

 私は一気に走り出して、途中でミヤコちゃんを抱え上げ、一番でかまどに到着!

 ミヤコちゃんは楽しかったのか、早く着いて嬉しかったのか、楽しそうに笑ってる。

 ふっふーん! やったね!

 って、何で競争してたんだっけ?




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