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異世界に転生した平凡な私の非凡な日々~ドラゴンさんに懐かれました。  作者: もり


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65/110

65.想像以上だよ

 

「ツグミさん、ミヤコちゃんも、火加減を見ながらでいいから聞いてくれるかな」

「ええ、もちろん」

「ミヤコちゃんにハ、わからナイと思うヨ」

「ああ、そうか。じゃあ、コルリがあとで伝えてくれるか?」

「……わかっタ」


 ミヤコちゃんはノスリの言葉はわからないけど、雰囲気を察したみたいでテテテと歩いて私の隣にやってきた。

 可愛いなあ、もう。

 それなのに今の私はミヤコちゃんにもノスリにも意地悪だったね。

 勝手に拗ねるのはやめて、ちゃんとノスリの話を聞こう。


 みんなでかまどを囲んで座って、ノスリが話し始めるのを待った。

 あたりにはパンが焼けるとってもいい匂いがしていて、ツグミさんよりミヤコちゃんのほうがかまどを見つめたまま。

 ちょっと緊張感はないけど、そのほうがノスリも話しやすいよね。


「……実は昨日、フォーシン殿に一度家に帰るように勧められたんだ」

「帰るノ?」

「いや、こんな中途半端なままで帰れないよ。コルリやミヤコちゃん、みんながこの国のために動いてくれて、土の王は山まで造成してくれてるんだ。そのことを伝えたら、フォーシン殿も納得してくれた」

「そっカ……」


 ほっと私は息を吐いたけど、ノスリはまだ何か言いにくそうにしてる。

 お家のことで言いたくないなら、言わなくてもいいのに。気になるけど。

 そう伝えようとして、ツグミさんが先に口を開いた。


「ひょっとして、逆にお家の方がいらっしゃるの? ご家族じゃなくても、代理の方とか?」

「え……?」


 ツグミさんの発言にはびっくりだけど、考えてみればそうか。

 もしお兄ちゃんが同じ状態だったら、私もすぐに駆け付けるよ。


「ノスリ?」

「え? ああ、うん。たぶん、フォーシン殿からの連絡を受けたらすぐにやってくると思う。軍部の特別な通信網を使うだろうから今頃は伝わってるんじゃないかな」


 軍部の通信網を使えるってことは、特権階級にあるってことで。

 ノスリはここまで言っておいて、まだ気まずそうに口ごもってる。


「ノスリ、気にしなくテいいヨ。ノスリはノスリなんだカラ、すごく立派なお家の出身デモ驚かナイよ? まあ、口の悪さニは驚くケド」

「うるせえよ」


 ノスリは私の言葉に答えて笑った。

 よかった。笑えるなら大丈夫だよ。

 ツグミさんもうんうんと頷いてて、話がわからないミヤコちゃんまで頷いてる。

 ノスリは照れくさそうに笑ってから、また真顔に戻った。


「その……家族は来ないだろうが、近衛騎士たちが来ると思う」

「近衛騎士? っテ、王様の傍ニいる騎士のコト?」

「ということは、ノスリさんはこの国の王族の方なの?」

「王族? ノスリが?」


 いやいやいや。それはさすがに予想外っていうか、想像以上なんですけど。

 否定するかと思ったけど、ノスリは小さく頷いた。

 マジで!? 嘘でしょー!?


「俺の本当の名前はノースラリー・チャムラカ。正式名はもっと長いけど、今は省略する。チャムラカ王国現国王のベルトザム三世の子だ」

「それっテ……王子様っテこと!?」

「まあ、言い方を変えれば」

「変えなくテも王子様だヨ! ええ!? 何で一人で留学しテたノ!?」

「家出してきたからな」

「王子様が家出トカ!」


 待って待って。ついていけない。

 ツグミさんも家出したようなものだけど、レベルが違うよね?

 たったの十二歳でどうやって!?


「協力者がいらっしゃったの?」

「いや、俺が王城を出るってだけで大騒ぎになったと思うから誰にも知られないようにした。魔力には自信があったし、一年かけて念入りに準備したんだ。教師や出入りの商人たちに他国のこともしっかり聞いて、魔法学校に入学できるよう偽の紹介状も用意した」

「えエ!? 用意周到すぎテこわっ! でも確かに最初カラただ者じゃナイ空気が漂ってたヨ。愛想も悪かっタし」

「それでもコルリは遠慮なくずかずか入り込んできたよな」

「あれはパートナーとしテの責務ダヨ」

「だからっていきなりチョップしてくるか?」

「無視はいけナイって教訓デス」


 いつものやり取りをしていると、ツグミさんがくすくす笑う声が聞こえて私は現状を思い出した。

 そうだよ。今はくだらないケンカをしている場合じゃなかった。


「とニかく! ノスリが王子様ナノはわかった。でも私と……私たちト友達だヨネ?」

「――ああ。友達だよ」

「じ、ジゃあ、問題ナイね。他にナニか伝えるコトは?」

「……今のところはないな」

「ヨシ! では、話し合いハ以上というコトで!」


 私は勢いよく立ち上がると、どこともなしに歩き始めた。

 わかったふりしてても本当はまだ受け入れられない。

 パン屋の娘と王子様なんて、身分違いにもほどがあるよ。

 友達でもあり得ないのに――。


「コルリ! どこに行くんだ!?」

「ヒッキーの様子を見てクる!」

『コルリ、もうすぐパンが焼き上がるらしいぞ?』

「すぐ戻るから!」


 ノスリに呼び止められても足を止めることができない。

 ミヤコちゃんの優しい言葉にもちゃんと答えることができない。

 たぶんツグミさんにはばれてる。


 どうしよう。どうしたらいい?

 気付きたくないことに気付いてしまった。

 私はノスリが好きなんだ。

 今になって気付くなんて。

 たぶんもうすぐお別れ。もちろん友達としては付き合える。

 文通くらいは許されるかな。

 でもそれだけ。

 ううん。それだけで十分だよ。うん。ノスリは大切な友達なんだもん。


 歩みを走りに変えて青春したら、頭が少し冷えた。

 お陰で冷静になれたよ。

 うん。自分で自分が笑えるんだから大丈夫。

 大きな音のするほうにちょうど視界が開けたので目をこらす。

 嫌だな。ちょっと泣いてたよ。

 涙を袖で拭いて、もう一度ちゃんと目を開けた私は、木々の間から見えた景色に顎が外れた。

 何だ、こりゃ。




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