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63.野宿

 

『ううむ。山を二つ造って、一つ壊せばよいのですね。……やってみましょう』

「ヒッキー山を造れるの? すごい、さすがだね!」

『うむ。できるが、少々時間はいただくことになる』


 アウルの言葉を聞いて、ヒッキーは少し考えてから答えた。

 何だかすごいことだけど、やっぱりできるんだ……。

 ってか、言葉遣いがアウルに対してはちょっと違う。

 ミヤコちゃんほどじゃないけど、アウルもすごい力の持ち主だからかな。

 いや、今はそんなことはどうでもよくて……。


「少々って、どれくらいの時間? ひと月くらい?」

『いや……三日あれば……微調整が必要であれば四日だな』

「そんなに早く!?」


 え? ヒッキーってば神なの?

 って、神様じゃないけど精霊の王様だったね。つい忘れてたよ。


 私が驚いたからか、ヒッキーの頬がちょっとだけ赤くなった。

 これは照れてるのかな。

 ヒッキーの感情が顔に表れるなんて貴重な気がする。

 ひょっとして私たちに気を許してくれてるのかもしれない。


『コルリはなぜにやけておるのだ?』

「え? にやけてた?」

『うむ。コルリに楽しいことがあったのなら、我も嬉しい』

「ありがとう! そう言ってくれるミヤコちゃんが大好き!」


 嬉しくて顔がどうやら緩んでたみたい。

 ミヤコちゃんに指摘されて気付いたけど、笑顔になるのは当然だよね。

 ヒッキーと少し仲良くなれたようで、さらには地脈とやらを数日で修正してくれるんだもん。


『コルリ、ミヤコと遊ぶよりも、話を進めなければならぬだろう?』

「あ、そうだった。えっと、じゃあ修正はヒッキーにお願いするとして、私は何をすればいいかな?」

『特にないな。よって修正が終わるまでは先ほどの街で待っているのだ』

「そんな――」

『私を見捨てるのですか?』


 ヒッキーに頑張ってもらうのに、自分たちだけのんびりするなんてできないよ。

 だけど私がアウルに抗議するより先にヒッキーが悲壮な顔して嘆きはじめた。

 座り込んだまましくしくと泣く姿をノスリたちがぽかんとして見てる。

 うん。私もこんな立派な男性が泣く姿を見るのは色々な意味でつらい。


『土の王よ。そなたはもう少し根性を――』

「アウル、そういう根性論はダメだよ。ヒッキーにはお世話になるんだし、気持ちよく過ごしてもらわないと」


 今どき根性論なんて流行らないよ。

 やっぱり何千年も生きてると、古臭い考えになっちゃうのかな?


『それではどうするのだ?』

「私はヒッキーが山を造ってくれてる間、傍で見てるよ。ほら、ちゃんと野宿の準備もしてきてるし、大丈夫」

『コルリが野宿とやらをするのなら、我もするぞ。コルリとは友達だからな。離れぬのだ』

「ミヤコちゃん、ありがとう!」

『なんと優しき言葉! さすがは聖なる乙女。あなたとドラゴンが傍で見守っていてくれるのなら百倍もの力も出せよう』


 ヒッキーとはせっかく仲良くなれたんだから、一緒にいたらもっと仲良くなれるかも。

 だから野宿しようと思ったら、ミヤコちゃんも付き合ってくれるなんて心強いよね。

 ヒッキーもとりあえず喜んでいるみたいだし。


「俺も一緒に野宿するよ。コルリに任せると不安だしな」

「私もご一緒させてくださいね」

『余だって野宿するのだ!』


 どうやらアウルがみんなに通訳していてくれたみたい。

 結局、アウルも厳しいようで優しいんだよね。

 それにノスリとツグミさんも一緒に野宿してくれるなら安心。

 というか、ノスリの言葉には不満だけど反論はできないのが悔しい。


「では、みんなで野宿しよう。今までの旅が順調だったから準備品の中で補充するものもないしね。フォーシン隊長はやはり戻られますか?」


 そうか。隊長さんはこのまま滞在するとスクバの街で待機している隊員さんたちが心配するもんね。

 キャンプみたいだって、わくわくしている場合じゃないよ。

 お兄ちゃんの言葉で状況を思い出して反省。

 これは遊びじゃなくて、この国を救えるかどうかの大切なことなんだから。

 今までのやり取りで気を抜いてたけど気合を入れ直さないと!

 ちらりとノスリを見ると、じっとこっちを見てたみたいでばっちり目が合ってしまった。


「なニ?」

「いや、コルリ――」

「私もできれば立ち会いたいが、三日も隊を留守にすることはできませんから一度戻ります。ノスリ殿も私などが心配する必要はないようですからね。ですが、また訪ねてもよいでしょうか?」

「それハ、もちろんデス。ね、ノスリ?」

「ああ、もちろんです」

「ヒッキーもいいよね?」

『何かはわからぬがかまわぬ』

「ヒッキーもいいっテ、言ってマス」


 ノスリが何か言いかけたけど、隊長さんに遮られてよくわからなかった。

 まあ、大事なことならまた言ってくれるよね。


「では、余がこの者を送ってこよう」

「ありがトう、アウル。じゃあ、また戻っテくるマデにキャンプの準備しテるね!」

「キャンプ?」

「う、ウウン。野宿デス」


 ダメだ。気合を入れ直したのに、うっかりキャンプなんて言っちゃった。

 ノスリもお兄ちゃんも一瞬不思議そうな顔になったけど、すぐにいつも通り。

 なんて言うか、私の変な言葉は慣れてますって感じ。

 まあ、十六年近くお兄ちゃんとは一緒だからねえ。

 ノスリとも三年以上になるなあ。

 なんて感慨にふけっていたら、隊長さんが明るい声を上げた。


「でしたら、男手があったほうがいいでしょうから、私も野営の準備を手伝います。私は少々遅くなってもかまいませんから」


 どうやら自分でも少し役に立つことがあって嬉しいんだな。

 わかるよ、わかる。その気持ち。

 というわけで、みんなで準備。


 野宿といっても、魔獣や野盗から隠れる必要もないから堂々とテントみたいなのが張れるらしい。

 大きな布を木と木の間に張って、屋根と壁替わりにして、防水加工を魔法で施す。

 ミヤコちゃんの亜空間に荷物は入れ放題だったので、床も防水加工した布を敷いて、その上にマットレスを置いたら簡易ベッドの出来上がり。

 野営に慣れた隊長さんとヒッキーが手伝ってくれたから、あっという間に炊事場の準備もできたよ。


「ノスリも行くノ?」

「ああ、フォーシン殿と一緒に行けば、道中で色々と話もできるからな」

「そっか……」


 亜空間に保存していたお母さんが作ってくれた料理をあっためているとき、ノスリも隊舎までいったん戻るって聞いてちょっとだけ動揺してしまった。

 そうだよね。たったあれだけの時間でノスリが留守にしていた間のことが話せるわけもないし、私たちがいないほうができる話もあるよね。


「心配するなよ、コルリ。アウルが一緒なんだから、すぐに戻ってくる」

「うん。気をつけテね」

「ノスリ君、こちらにはミヤコちゃんもいるから、ゆっくり戻ってくればいいよ」

「ありがとうございます、ヒガラさん。みんなを頼みます」

「アウルさん、ご飯はちゃんと残しておきますから」

「うむ。任せたぞ、ツグミ」

「みなさん、ありがとうございました。それでは、また後日」


 アウルの背に乗ったノスリと隊長さんを、私とお兄ちゃん、ツグミさんが見送る。

 ノスリが心配しながらもここを離れるのは、お兄ちゃんとミヤコちゃんだけでなく、一応ヒッキーもいるからかな。

 心配性だからね、ノスリは。


 ミヤコちゃんは発酵まで終わらせて保存していたエピが焼きあがるのを楽しそうに待ってる。

 ヒッキーは自分が作ったかまどを座ったままじいっと見てた。

 そして私はお兄ちゃんとツグミさんと、アウルの姿が見えなくなるまで手を振った。――あっという間だったけど。




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