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62.対策

 

「コルリ、大丈夫か? 顔色が悪いが、無理はしないでくれ」

「ノスリ……」

「そうだぞ、コルリ。ただの付き添いのつもりで、この旅に同行したわけじゃないんだ。みんなにできることなら、遠慮せずに相談するんだぞ」

「お兄ちゃん……」

「私も、力になれるかはわからないけれど、話くらいは聞けるわ。そうすれば、何かいい案も思い浮かぶかもしれない。だからコルリさん、一人で抱えないでね?」

「ツグミさん……。うん。ありがトウ、みんな」


 ノスリやお兄ちゃん、ツグミさんに声をかけられて、私は一人で悩んでいたことに気付いた。

 そうだよ。一人で抱える必要はないんだ。

 隊長さんは何を言えばいいのかわからないらしく、気まずそうに頭をかいていた。

 そして、ミヤコちゃんとアウルは蝶々を追いかけることをやめて、私たちのほうに走って戻ってくる。

 ああ、その姿が可愛い。癒される。

 それだけで、気持ちが落ち着いてきた。


「あのネ、ヒッキーから聞いた話ではね……」


 そう切り出して、今のヒッキーの話をみんなに聞いてもらった。

 ミヤコちゃんにはアウルが通訳してくれる。

 そこになぜか、ヒッキーまで『ふむふむ』なんて頷いて聞いているけど、突っ込みたい。

 全部知っている話だよね?

 何だかんだで仲間に加わりたいんだな。


「ではやはり、俺たち人間が――この国の人たちが無作為に山を掘り、木々を伐採したことが事の発端なんだな……」

「あー、ウン。そうなんだケド、それはもう後悔しても遅い気がスル。それヨリも、これからどうスルかダヨ」

「これからどうするか……」

「ウン」

「コルリには何かいい案があるのか?」

「いい案かどかハ、わからナイけど……」


 ノスリに気にしないでと言っても無理なので、そこはさっさと流して気持ちを切り替えるように促した。

 私もさっきは驚いてパニック状態だったけど、みんなに説明しているうちに落ち着いてきて、何となくだけど解決方法が見つかったような気がするんだよね。

 するとお兄ちゃんが私に名案があるのかと訊いてくる。

 まあ、名案というか、正直に言えば私は何もしない案だからちょっと気が引けるけど。


「えっと、要すルにこの土地に魔獣がたくさん現れるノは、アウルが言った通リに気脈が乱れテいるからだヨネ? だから気脈を直せバ、いいんだヨネ?」

「うむ。その通りだな。だが、地脈は土の王にお願いできても、水脈は乱れたままでは難しいぞ。地脈だけで正常に戻すこともできないことはないが、かなりの手間がかかる。水の王を風の王が見つけて連れてくればよいのだがのお……」


 私の質問にアウルは答えてくれた後、ミヤコちゃんとヒッキーにも説明してくれた。

 ノスリやお兄ちゃんたちは水の王と聞いて、がっかりしているみたい。

 だけど、私はちょっと思うところがある。

 ある意味、賭けではあるけど……。


「あのネ、ここハひとまずヒッキーに地脈だけを元に戻しテもらえばいいと思うンだ。水脈は後で修正すればいいんだよ。それなら、そんなに手間じゃナイかな? アウルできル?」

「水脈も修正するとなれば、余にとっては簡単なことなのだ」

「じゃあ、お願いしテいい?」

「当然だ。ただ、水の王はどうやって連れてくるのだ?」

「ソレは後で話すヨ。それで水の王様がきたら、申し訳ナイけど、ミヤコちゃんに脅しテもらってでも修正しテもらうカラ」

「だが、あの風の王がきちんと見つけるとは思えぬがな……。もちろん、ミヤコの力があれば水脈も修正することは不可能ではないが、やはり微妙な調整を必要とするからのお……」


 ああ、そうか。

 ミヤコちゃんにできないことはないのなら、水の王様の代わりに水脈を変えることだってできるんだ。

 でもアウルの言い方だと、微妙な調整が必要で……うん。確かにミヤコちゃんには難しいかもね。

 力加減がたまに――いや、わりとよく間違っちゃうから。


「大丈夫。きっト、水の王様は現れるカラ。たぶん」

「コルリ、どうしてそんなふうに思うんだ? ゴンベエさんが何か言ってたのかい?」

「ううン。権兵衛は当てにしてナイ。当てにしテるのは、ヒッキーだよ」

「土の王様を?」

『――うむ。私の助けが必要か? 聖なる乙女の頼みなら引き受けよう』


 私の言葉にお兄ちゃんは不思議に思ったみたい。

 でも、権兵衛はまったく関係ない。――とも言い切れないけど、精霊の王様たちは変わっているっぽいから、たぶん水の王様もそんな気がするだけ。

 私の言葉をアウルはミヤコちゃんとヒッキーに訳してくれていて、ヒッキーはほんの少し嬉しそうに了承してくれた。

 よかった。


「ありがとう、ヒッキー。あのね、アウルが言うにはこの土地の気脈――地脈が乱れているんだって。だから修復してくれるかな?」

『うむ。土いじりは得意であるゆえ、任せてくれ』

「う、うん……」


 何だろう。この複雑な気持ち。

 土いじりか……。ヒッキー自身には似合っているんだけど、土の精霊の王様のセリフじゃないよね。

 しかも精霊の王様なのに、地脈とかはわからないのかな?

 そう思っていると、アウルが子犬姿のままふわりと浮き上がった。


『では、余は気脈を詳しく調べてくるゆえ、しばらく待っておるのだ』

「あ、ありがとう、アウル。お願いね!」


 どれくらい時間がかかるのかはわからないけど、ノスリやお兄ちゃんたちにアウルが気脈を調べに行ってくれたことを説明する。

 さて、その間に何して待とうかということになって、隊長さんから今までのこの国の詳しい情勢を聞くことになった。

 ミヤコちゃんは新しい蝶を見つけて追いかけ始め、ヒッキーは膝を抱えて座ったまま、じっとミヤコちゃんを眺めてる。

 一見して長閑な風景な気がするけど、隊長さんから聞かされた話はやはりシビアなものだった。


 ノスリはあれこれと詳しく地名などを出して訊いていたけれど、私やお兄ちゃんたちにはさすがにさっぱりで、ただ黙っているしかない。

 それでもわかったことは、一番に酷い魔獣の被害はこの土地だけれど、沿岸部でも魔獣の被害が多くて海に面した街は漁に出ることもできなくなって、ほとんど人が住まなくなってしまったとか。

 話に聞いたにょろにょろと長い脚がいっぱいのぬるぬるした魔獣って、ひょっとしてクラーケン?

 国外に移住してしまう人も多くて、人口も減ってしまったみたい。


 高位の魔獣――ミヤコちゃんがいてくれたおかげで私たちの国は平和だったんだなって、つくづく実感した。

 ノルデン王国にはグリフォンがいて、白澤の住んでた東の大陸では麒麟までいたから、魔獣の出没が極端に少なかったんだなあ。

 それでもこの国――チャムラカ王国の人たちは頑張ってる。本当にすごいよ。


 時間にして一時間ちょっと経った頃になって、アウルが白澤の姿で戻ってきた。

 どうやら子犬姿では効率が悪いことに気付いたらしい。

 まあ、そうだよね。

 みんなで労ってから、私が代表してアウルに質問する。


「それで、どんな感じだった?」

『水脈を修正することも考慮すれば、やはりさほど難しいことではなかったぞ』

「そうなの!?」

『うむ。地脈を修正するには山を一つ崩して、その隣に新たな山を造り、湖を一つ埋めてそこにもう一つ山を造ればよいのだ』

「え……」


 それって、土いじりのレベルなのかな?

 思わずぽかんとしてしまった私の視界に、楽しそうに水面を眺めるミヤコちゃんの姿が映った。

 うん、やっぱりミヤコちゃんは可愛いなあ。




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