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53/110

53.原因

 

 翌朝早く、宿を発った私たちは、街に入ってきた門と反対側にある大門に向かった。

 そしてしばらく歩いていると、人もまばらな大通りの真ん中で、露出狂の友達――権兵衛が仁王立ちで待ち構えていた。


「出た……」


 思わず呟いたのはノスリだ。

 うん、気持ちはすごくわかるよ。

 でも今日は、この先とやらの話が聞けるからね。――権兵衛がもったいぶらなければ。

 ノスリの提げた鞄から顔を出すアウルをちらりと見て、その話はすぐには訳さないでねと、伝える。

 さすがというか当たり前というか、アウルは見かけは子供でも頭脳はお爺ちゃん。

 わかっておるとばかりに子犬の顔で片眉を上げた。

 まあ、眉っていうか数本の毛?


『やあ、おはよう、諸君。素晴らしい朝だな。今日は友達日和だと思わぬか?』

「……おはよう、権兵衛。友達日和が何かはわからないけど、お天気が良くてよかったね。一応の予定としてはしばらく歩いて街道を進むつもり。それから人影のない場所で街道を逸れて、またミヤコちゃんやアウルに乗せてもらってスクバの街へ行く計画だから」

『ふむ、そうか。だが、そのスクバの街とやらは、今は壊滅状態だぞ?』

「え……」

『先日、白虎と玄武が大喧嘩をしておったからな。その煽りを食ったのだ』

「白虎と玄武!?」


 まさかの名前に思わず私は声を上げた。

 その声にはさすがに先を歩いていたノスリやお兄ちゃんたちも振り返る。


「あ、ゴメン。ちょっト、驚いちゃったダケ。大丈夫……」


 笑えていたかどうかはわからないけれど、どうにか笑顔を作って手を振った。

 すると、みんな「そうか」と言って、また歩き始める。

 あれ? もう少し心配してくれてもいいんじゃないかな? 寂しいぞ。


『コルリの言動がおかしなのはいつものことであるからのお』

「え? アウル、ひどい」


 ノスリの鞄から後ろ向きに顔を出したアウルが私の心を勝手に読んだのか、そんなことを言う。

 アウルがひどい、とばかりに私の鞄を見下ろすと、ミヤコちゃんまで『うむ。その通りだな』と納得していた。

 なんてこと……。


『ところで、コルリ。そのゲンブとビャッコとやらは何だ? 東の国の魔獣か?』

「魔獣っていうか……私の前――いや、私が知っている玄武と白虎は聖獣とされてて、人間には崇められていたんだけど……」

『というよりも、やつらは余と一緒で人間に興味がないだけである。たまにじゃれついてくると可愛がってやろうかという気になるだけであろう』

「じゃれつくって……」


 ええ? 神様として崇拝していたり、それこそ平安京などの都は四聖獣で守りを固めて造ったりしてたのに。

 あれって、じゃれてただけに思われてたんだ。そうか、じゃれてくるのはいいけど、たまに鬱陶しい時とかあるよね?

 そういう時に、しっしって手で振り払ったりする感じが、いわゆる祟りとか?


「ねえ、権兵衛。ひょっとしてスクバの街の人たちは、何か玄武と白虎の怒りを買うようなことをしたの?」

『コルリ、お主はきちんと話を聞かぬか。先ほども申したが、あの辺りはただの喧嘩に巻き込まれただけだ』

「巻き込まれた?」

『まあ、そうであろうな。そもそも玄武も白虎も余の棲む東の大陸の獣。ここまで渡って来ておること自体が驚きである』

「そんな……。いったい何があって……」

『あの地は地脈が狂っておるからの。魔獣が引き寄せられてしまうのだ。しかし、余もそうであるように、ある程度の力ある者ならば、あの地は危険だと近寄らぬはずだがのお……』

『まあ、普通ならばそうだろうな』

「どういうこと?」

『知りたいのか?』

「知りたいに決まってるじゃない! もう! 権兵衛ったら友達でしょ!? ちゃんと教えて!」

『そ、そうだな。うむ。俺様は友には優しいのだ。よって教えてやらぬことも――』

『くどい! 先ほどから聞いておれば、ゴンベエ!』

『はい!』

『お主の言葉はくどすぎる! さっさと要点を述べよ!』

『はいっ!』


 相変わらずのらりくらりと話す権兵衛に、ミヤコちゃんがついにキレた。

 すごい。ミヤコちゃんでもキレるんだ。しかも、権兵衛……直立不動の、気をつけ! な姿勢になってるよ。

 さすがにミヤコちゃんの剣幕に驚いたのか、ノスリたちも振り向いた。


「コルリ、大丈夫かい?」

「あ、ウン。ちょっとミヤコちゃんが、ゴンベエにキレたダケ」

「そうか……」


 そう説明すると、またお兄ちゃんたちは納得したのか、歩き始めた。

 何だろう……。私と権兵衛って同じ扱いな気がする。


『よ、要するに、玄武と白虎は地脈の乱れに惑わされたのではなく、ただの代理戦争というか、巻き込まれただけだ』

「代理戦争? 何の?」

『そんなもの、答えは簡単であろう。水の王と土の王の争いだ』

「……え?」

『コルリ、このゴンベエが風の王のように、他にも水や土、火にもそれぞれ精霊の王はいる。ゴンベエの説明から察するに、どうやら水の王と土の王が争い、そのために川が氾濫し、土地が崩れ、地脈が乱れたのではないかの?』

『うむ。アウルの申す通りである』

「そんな……」


 じゃあ、ノスリの苦悩は、ノスリの国の人たちの苦しみは、全てその精霊の王様たちのせいだってこと?

 そのせいで土地が荒れ、地脈が乱れ、魔獣を呼び寄せ、人々が苦しめられているって……。


「……許せない」

『コルリ?』

『コルリ、落ち着くがよい』

「落ち着くなんて無理。絶対、無理! 許せない! 何なの、その王様たち!」

『精霊の王だな』

「ちょっと、権兵衛!」

『はいっ?』

「同じ精霊の王様として、何で放っておくの!」

『いや、俺様には関係ないかと――』

「冷たい! なんて冷たいの!? 見損なったよ、権兵衛!」

『いや、そうは申してもだな……』

「その精霊の王様がいる場所はわかる?」

『それはもちろん――』

「じゃあ、案内して」

『今すぐ行くつもりか?』

「当たり前でしょ! 仲直りは早いほうがいいの!」

『仲直りって……』

『ゴンベエ、コルリの言う通りである。そなたは水と土の王、それぞれの居場所に案内してくれるであろうな?』

『……案内はするが、仲直りなんて甘いと思うぞ? まあ、ミヤコ殿がいるのなら大丈夫だと――』

「ミヤコちゃんは関係ないの! この世に生きる者としての問題なの!」

『うむ。余もコルリの意見には賛成であるな』

『我は、コルリのしたいようにするべきだと思う』


 怒り心頭の私は、みんなの言葉を聞き流し、とにかく目立たない場所まで移動しないととばかりにドスドス歩いた。

 お兄ちゃんやノスリを追い越すくらいに。

 みんな驚いていたけど、とにかく善は急げ。みんなへの説明は後回し。

 まったく、精霊の王様ってろくな存在じゃないよ!




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