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52.最強の存在

 

 突然のつむじ風で倒れた看板を立て直したり、土埃で汚れた商品を綺麗にしたり、体についた土埃を払ったり、めくれたスカートの中を見たとか見なかったとかのやり取りが起こっている。

 それでも超局地的つむじ風だったから、周囲もそこまでの被害はなかったみたい。

 よかった。


「コルリ、お前……街の人の迷惑も考えろよ。王様に何言って、こんな風を起こさせたんだ?」

「違うっテ! 今のはミヤコちゃんが王様をふっ飛ばしたノ! ちょっと皆さんニは迷惑をかけちゃったケド、すっきりしたヨネ?」

「ミヤコちゃんが、この風を?」

「ウン。じゃないと、おかしいデしょ? 風の王様ナノに、自分の起こしたつむじ風で飛ばされるナンテ」

「……確かに」


 ノスリが呆れたように言うから反論したら、みんな驚いたようだった。

 そうだよね。

 私もなんとなくミヤコちゃんは火属性のドラゴンだと思ってたから、風の王様を吹き飛ばせるほどの風を起こせるなんて思ってもみなかった。

 これはあとで詳しく訊こう。


 それからしばらく歩いて、ノスリが以前泊まった宿屋に到着。

 ミヤコちゃんはぐっすり眠っているし、アウルも鞄の中でおとなしくしてくれているから、無事に部屋も確保。

 部屋は二つ。

 私とツグミさんとミヤコちゃん。お兄ちゃんとノスリとアウル。

 うん。男女別で正しい部屋分け。

 そんなに治安の悪い街ではないけど、女の子だけで部屋をとるのは本来危ないらしい。

 でもツグミさんの魔法があれば護身には十分だし、ミヤコちゃんがいるので問題ないって結論。

 一応、私も魔法が使えるんだけどな……。


 みんなでご飯を一つの部屋に運んでもらって、アウルとミヤコちゃんも人間の姿になって一緒に食べる。

 二人とも本当はご飯を食べなくても平気らしいけど、気分ということで、私とツグミさんの分を取り分けてあげる。

 スプーンとフォークはこんなこともあろうかと――というより、万が一野宿なんてことになった時用に持参。

 明日からの計画を話し合ったところで、話題もひと段落して、私はそういえばとミヤコちゃんに話しかけた。


「ミヤコちゃんは風魔法も風の王様よりも使えるの? すごいよね?」

『いや、あれは不意打ちだったゆえにできたのだ。さすがに風の王に風魔法では敵わぬ』

「ええっと、じゃあ他の魔法も使えば勝てるってこと?」

『当然である』

『コルリ、ドラゴンは余の知る限り、この世で一番尊い生き物であり、最強であるのだ。ドラゴンの扱えぬ魔法など、この世にはない』

「マ、マジですか……」


 改めてミヤコちゃんのすごさを知ってしまったよ。

 私ってば気楽にミヤコちゃんと友達になろうって言ったけど、すごくずうずうしいことだったのかな。

 うーん、でも……。


「ミヤコちゃんは私の大切な友達だからね? お願いすることはあっても、無理なら無理ってはっきり断ってくれていいんだからね?」

『我に無理なことなどない。だが、コルリの気持ちは嬉しいぞ』

「ミヤコちゃん……」

『よ、余もおるぞ! 余だって役に立つぞ!』

「うん、わかってるよ。アウルもいつも生意気可愛くてありがとうね」

『何か違う……』


 アウルはぶつぶつ言っていて、それがまた可愛い。

 本当に本当は、いつも私たちの会話をちゃんとお兄ちゃんたちに訳してくれたり、何だかんだで助けてくれているから、すごく感謝しているんだよ。

 みんなでほんわかしていると、そこに嫌な声が割り込んだ。


『ふっ……。まさか、最凶のドラゴンがお友達ごっことはな。くだらない』


 ああ、めんどくさい。

 みんなの気持ちが一つになった気がするけど、仕方なく声の方へと向くと、案の定というか風の王様が窓枠に偉そうに足も腕も組んで座っていた。

 ってか、その微妙な体勢……見えないよね? ちゃんとパンツはいてるよね?


『またお主か。我らと友達になりたいなら、素直になるがよい』

『べ、別に! と、友になりたいとか思っておらぬ!』


 うわー、図星か。てか、風の王様もぼっちか。

 精霊さんたちも、こんなに偉そうにされていれば、あんまり近寄りたくないしねえ。

 でもまあ、寂しいのかもしれないな。

 気まぐれとはいえ、あっちへふらふらこっちへふらふらで帰る場所がないのかも。


『ねえ、風の王様。私もさっきはちょっと言い過ぎたと思う。ごめんね。だから、よかったら友達にならない?』

『お、俺様はべ、別に……どうしてもお前が友になってほしいと申すのなら、なってやってもよいが?』


 もー素直じゃないなあ。

 さすがにミヤコちゃんもアウルも呆れているよ。

 でも、もう本当に面倒くさいから、ここは私が折れよう。大人だ私。


「うん。どうしてもってわけじゃないけど、友達になろう? ね?」


 あ、ちょっと本音が出てしまった。

 まあ、いいか。


『ふっ……。そこまで申すなら、友になってやってもよいぞ。そこまで申すならな』

「あー、うん。よろしくね」

『コルリ、あまり甘やかさないほうがよいぞ。図に乗る』

「でも、もう手遅れだと思う」

『確かに』

『コルリの言う通りであるな』


 というわけで、風の王様とも友達になりました。

 でも、だからって何かあるわけじゃないしなあ。


「えっと、じゃあまた何かあったら遊びにきてね?」

『何だと? 俺様とは友になったのだろう?』

「あ、うん。でももう遅いし。私たちは明日に備えて寝るから」

『待て待て待て! 友になったら、名前をくれるのだろう?』

「え? でも名前は縛ることになるんでしょ? 嫌でしょ?」


 だって、普通は名前をつけるって、使い魔になるようなものなんだよね?

 魔力に差があるから、ミヤコちゃんたちは自由も同然らしいけど、それでも私が名前を呼ぶことで繋がりがあるらしい。

 これはアウルから聞いた話。

 それを気まぐれな風の王様に名前をつけるなんて、めんど……じゃなくて、無理があるんじゃ?


「ふっ……。友の願いを叶えてやるのが友というものだろう? さあ、名前を俺様につけるがよい!」

「…………権兵衛」

『ゴ、ゴンベエ?』

「うん。権兵衛がいいと思う」

『そ、そうか?』

「うん。ミヤコちゃんはどう思う?」

『ふむ。初めて聞いた音だがよいのではないか? 似合っているぞ』

『そ、そうか。ドラゴンがそう申すならよいのかもしれぬな。ふははは! 俺様はゴンベエなるぞ!』


 イラッとして、つい言ってしまったけど、ミヤコちゃんが認めたことで本人も気に入ったみたいだし、いいか。

 面倒くさいからウィンドでいいかとも思ったけど。

 アウルは私のほうを呆れたように見て、風の王様もとい、権兵衛を見てため息を吐いた。

 ひょっとして、権兵衛って知ってるのかな?

 さすが、博識の白澤。


 あとは、みんなに改めて権兵衛を紹介すると、もう驚くこともなく受け入れてくれた。

 うん。慣れって怖いね。

 その後は朝が早いからお引き取り願おうとしたら、この先のことを知りたくないのかと訊かれた。


「そりゃ、もちろん知りたいに決まってるじゃない!」

『では、また今度教えてやろう』

「はあ? 何ふざけてんの?」

『あ、いや。では明日だ。明日教えてやるから、そう凄むな』

「……わかった。絶対に明日ね。じゃなかったら、絶交だから」

『う、うむ。ではさらばだ、友よ!』


 またもったいぶるから腹が立って詰め寄ると、権兵衛は窓枠に立ち上がり及び腰になった。

 こっちだって友達ごっこがしたくて、ここまで来たわけじゃないんだから。

 そのまま、権兵衛は逃げるように去っていったので、ぴしゃりと窓を閉めた。

 すきま風とか入らないよね?

 鍵をしっかりかけてチェックする。


 そんな私をお兄ちゃんやノスリ、ツグミさんはただ黙って見ていた。

 アウルは、権兵衛の最後の言葉――この先云々については訳さなかったようで、私と権兵衛のケンカだと思ってるらしい。

 ええ? そりゃ、ノスリに期待させたくないから、アウルは正解だけど、私の名誉はどうなるの?

 嘆く私を慰めるように、ミヤコちゃんが小さな手で、ポンと私の肩を叩いた。

 うう。わかってくれて嬉しいよ。


「ミヤコちゃん、大好き!」

『うむ。我もコルリが好きだぞ。あのやかましい風の王にさえ、優しくしてやるのだからな』


 久しぶりにミヤコちゃんと友情を確かめ合ってたら、ノスリたちは食器を片付けて、部屋から出ていってしまった。

 食堂に戻すのなら手伝うと言ったけど、夜は酔っ払いも多いから女の子は部屋から出ないほうがいいらしい。

 そうか。ツグミさんは美人だから危険だよね。

 余計なトラブルは避けるべし。


 そんなわけで、旅初日は無事に目的地に着いて、宿に泊まれることになって、終了。

 まあ、面倒くさい友達もできたけど、上出来だよね。




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