51.偶然の再会
大門には兵が二人ずつ左右に立っていて、さらには壁の上にも見張りらしき兵が何人もいた。
だからどきどきしながら門へと近づいたけど、私たちはあっさり通り抜けて街へと入ることができて拍子抜け。
「なんだか、簡単だっタね? もっと身元トカ調べられるノかと思ってた」
「それはないよ。この警備は魔獣の襲来に備えてだからな。敵襲についてはほとんどあり得ないから」
「そうナノ?」
「そりゃ、大した資源もなく、魔獣が頻繁に出現する土地を欲しがる人間なんていないだろ」
「……なルほど」
ノスリの説明に納得しながらも、それ以上は言葉にできなかった。
今までは遠くの国での出来事って何となく考えていたみたい。
実際、この大きな壁を目の当たりにして、街の人たちの表情にどこか悲壮感が漂っていて、この国の現実というものを少しだけ理解できた気がする。
それでも街には多くの人がいる。
「これからの旅に関しては、ノスリ君主導でお願いしていいかな?」
「もちろんです。この街には以前も来たことがあるので、その時に泊まった宿屋にまずは行ってみましょう」
「あ、ペット可の――動物モ大丈夫な所カナ?」
「いや、さすがにそれは無理だけど、ミヤコちゃんとアウル君は宿で手続きする時には隠れていられるだろう? 部屋が決まれば、出てくればいいんじゃないかな?」
「それモそうダネ」
人通りが多いので、ミヤコちゃんだけでなく、アウルも鞄の中に入って顔だけだしている。
ヤバイ。これ、すごく可愛いんですけど。写真を撮ってSNSに投稿すればワンコ愛好家は絶対『いいね』をくれるよ。
ちょっと前を行くノスリの鞄から顔を出しているアウルから、正面へ視線を向けた私は思わず足を止めた。
今の心境を言葉にするなら「げっ!」だよ。
もちろんノスリもお兄ちゃんもツグミさんも、目の前の存在に気付いて足を止めた。
「ねえ、みんな……私の目の錯覚じゃないヨネ? 風の王様が相変わらずノ半裸で往来に立っているんだケド。偉そうにふんぞり返っテ」
「大丈夫だ、コルリ。俺にも見える」
「うん、錯覚じゃないみたいだね」
「でも、皆さん見えていないみたいですね? 自然と避けているようですけど」
やっぱり幻じゃなかったんだ。
そう思っていると、アウルがため息交じりに教えてくれる。
「風の王は魔獣というより、精霊だからな。普通の人間には見えぬ。あれはわざわざ王がそなたたちにだけ姿が見えるように幻術を施しているのだ」
「あ、じゃあ、やっぱり幻なんダ。ソレじゃあ無視するに限るネ。それよりも、アウルが私たちの言葉を話しているのっテ、他の人に聞かれタラ驚くんじゃないカナ?」
「心配は無用である。余も幻術を施しておるので、コルリたち以外には犬の鳴き声にしか聞こえぬからな」
「それっテ、気をつけないと、私一人でぶつぶつ言っテることになるヨネ?」
「まあ、俺たちと一緒にいるんだから、よっぽどのことがないと大丈夫だろ?」
「うん、それにほら。たまにいるよね、動物に向かって話しかけている人。コルリもそう思われるだけだから大丈夫、大丈夫」
『――おい』
「ええ? 何で私限定ナノ? みんなだっテ、気をつけナイと」
『おい!』
「だって、ほら。コルリは子猫のミヤコちゃんとも話をするし、うっかりしてるからね」
「ええ? ミヤコちゃんはとモかく、うっかリは違うシ」
ノスリの言うことに納得していたら、お兄ちゃんがいらないフォローを入れてくれた。
うっかりとかしてないし。これでもしっかり者って言われて……なかったっけ?
うん、ないな。
『おい! いい加減にしろ! 俺様を無視するなど許さぬぞ!』
さっきから雑音が聞こえるけど、無視して進んでいたら、瞬間移動のように目の前に風の王様が立ち塞がった。
まさかの俺様キャラだよ。お約束すぎてちょっとねえ。
よいしょとどけて通ろうとしたら、王様がひょいとまた前に立つ。
見上げれば、すごいドヤ顔。
「コルリ、俺たちには何を言っているのかわからないし、相手してやれよ」
「ええ……めんどくサイんですケド。――アウル、この王様避けに何か方法ってない?」
『ふむ。風の者はどこにでも入り込むからのぉ。一度気に入られてしまえば、飽きるまでつきまとわれるのではないか?』
「ええ? 何、それ。まるでアレみたい」
『小娘、アレとは何だ?』
「ちょっと、アウル。この王様、盗み聞きしてるんですけど? しかも割り込んでくるとかずうずうしすぎない?」
『風の者は耳がよいからの。しかも口もよく回る』
「ええ? 井戸端会議のおばさんみたい」
『誰がおばさんだ! 俺様は風の王であるぞ!』
「うん、知ってる。ごきげんよう、王様。またここで会えるなんてすごい偶然ですね」
『うむ。まったくの偶然であるな』
さすが風の王様っていうか、さっきから歩いている私の周りを大きな体でふわふわしているから鬱陶しいったらない。
アウルに対策を訊いても飽きるまでなんて曖昧だし、仕方なく答えたら、すごく嬉しそうに浮いたままふんぞり返った。
嫌味を素直に受け取っているようで、それがちょっと可愛いとか思ってはダメだ。
「では、短い間でしたが、楽しかったです。もう二度と会うことがなければいいですね。さようなら」
『なぜ、もう別れねばならぬのだ! 偶然出会ったのだから、旧交を温めあうべきであろう』
いつ温めるべき交流があったんだ。
今朝、出会ったばかりなのに。
どうにかしてとノスリやお兄ちゃんたちを見れば、会話がわからないせいか、三人であれこれ街見物してるし!
ひどい、私も混ざりたい!
あそこの揚げ菓子が美味しいとかって、後で買ってみようとかって、今でもいいんじゃないの?
宿屋はまだ早いし空いてるんじゃないの?
『おい、聞いているのか!?』
「もう、うるさいなあ」
『な、なんだと……?』
『コルリは煩いと申しておる! そして、我もその意見に賛成であるぞ! お主は少し黙っておれ!』
『っな――っ!?』
ほらあ、あんまりうるさいから、寝ていたミヤコちゃんが起きちゃったじゃない。
しかもかなりご立腹。
ミヤコちゃんの怒りの声とともに、いきなりつむじ風が巻き起こり、風の王様が飛んでいっちゃった。
いや、風の王様だよね? 風に飛ばされていいの?
「……ミヤコちゃん、風も操れるんだ?」
『うむ。我にできぬことは少ない。これで静かになったな。では、もう少し眠るぞ』
「あ、うん。起こしてごめんね、ミヤコちゃん。おやすみ」
突然のつむじ風に街の人たちが右往左往する中、ミヤコちゃんはまたごそごそと鞄の中に入っていった。
アウルは楽しそうに笑ってる。
そして、ノスリとお兄ちゃん、そしてツグミさんは私を呆れたように見ていた。
え? 私のせいじゃないからね?




