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43.引越し先

 

「ちょっと待ってもらっていいかな? 今のコルリの話からすると、ノスリ君の国に、コルリも行くってことだよね?」

「うん、そうだケド……」

「ノスリ君とコルリ、それにミヤコちゃんとアウル君で旅をするってことなら、僕は賛成できないな」

「お兄ちゃん!?」


 ここにきてお兄ちゃんの信じられない発言に、私は思わず立ち上がった。

 だけど、そんな私を押さえるようにノスリが私の手を握る。

 途端にお兄ちゃんの顔が不機嫌になった。

 何なのよ、もう!


「それは……確かに、ヒガラさんが心配するのはわかります。その……俺たちはまだ子供だし……」

「うん、そうだね。だから僕も一緒に行くよ」

「お兄ちゃんモ!?」


 今度のお兄ちゃんの言葉には、驚きながらもちょっとだけ安心したのは内緒。

 本音を言えば、不安はあったんだよね。

 だけど、それでいいのかな? 


「まあ、見知らぬ土地に引っ越す父さんたちを手伝えないのは心苦しいけど、事情が事情だしね。父さんたちも納得してくれるだろう。ただその場合、出発には少し待ってもらわなければならなくなる。やはり父さんたちがちゃんと引っ越しを終えてからでないと。長官の弟子の魔法使いにも僕から挨拶をしておきたいしね」


 私のはっきりしなかった不安の一つをお兄ちゃんが口にしてくれる。

 そうだ。お父さんたちだ。

 どこに引っ越すかもまだ決まってないし、荷物を運んでの移動も時間がかかるよね。


「まあ、住む街さえ決めてしまえばひとまずは借り家で暮らして、お店を開く場所を決めればいいと思うんだ。それだけの援助を長官はしてくれているからね」

「でも長官は何でそこまで……」


 言いかけてわかった。

 あれほどに何度もこの国を見捨てないでほしいと言っていたわけ。


「長官はミヤコちゃんが、旅立つコトを知ってタんだ……」

「それを言うなら、お前のこともだろ」

「え? 私?」

「ああ。お前がいなかったら、ミヤコちゃんとも出会えることがなかったんだ。だが、本当にいいのか? 俺の国は、たとえミヤコちゃんがいたとしても大変だと思う。それでも――」

「ノスリは馬鹿だヨ」


 真っ直ぐに私を見つめるノスリの顔はとても真剣で、言いたいこともわかった。

 だけど、本当にノスリは馬鹿だよ。


「友達なんだカラ、助けるのは当たり前でしょ。ノスリだって今までいっぱい私を助けテくれた。もちろん恩返しとかそんなんじゃないヨ。ただノスリは私の友達。ミヤコちゃんの友達。だから助けたいノ。ねえ、お兄ちゃん?」

「うん、そうだね。僕たちの――この国の平和はミヤコちゃんがいてこそだ。それがどれだけ有り難いことか、今まで気付かなかったけどね。だから次は、友達のノスリ君のために、ノスリ君の国の困っている人たちのために、少しでも力になれるのならなりたいんだ」

「ヒガラさん……」

「よ……余も友達なのだ! 余を忘れるでないのだ!」


 私たちの言葉がわかるアウルが突然口を挟んできた。

 そんな涙目にならなくても忘れてないよ。

 ミヤコちゃんは相変わらずおとなしくしてくれている。


「もちろんだよ、アウル君。まだ会ったばかりだけど、アウル君とはもう友達だよね。しかもアウル君は友達のノスリ君のために、危険なのに力になってくれようとしているんだから。本当にすごいよ」

「う、うむ。それほどでもあるのだ」

「ありがとう、アウル君」

「ノスリは余の友達である。だから余は頑張るのだ。よって、まずは早くノスリの国に行くのだ」

「そうだね。でも僕たちの家族で引越ししなければならないんだ。だから少し時間がかかるかな?」


 ちゃんとアウルをフォローしてくれるお兄ちゃんに感謝。

 ノスリも改めてアウルにお礼を言うと、アウルは重々しく頷いたけど、そわそわしてるよ。

 早く行動に移したいんだね。

 そんなアウルをお兄ちゃんが優しく宥める。

 でもアウルは首を傾け、何を言ってるんだとお兄ちゃんを見た。


「別に時間はかからぬであろう。場所さえ決まれば、余が一瞬で運んでやる」

「え? あ、空間魔法で荷物を送ってくれるノ? それは助かるカモ。ありがとう、アウル! でも私たちは馬車で移動しないとダメだから、やっぱり少し時間はかかるカナ?」

「なぜだ? そなたたちも送ってやるぞ?」

「い、いや。それは遠慮しとく。なんか怖いカラ……」


 やっぱり荷物と違って生ものはご遠慮くださいだよ。

 さすがに私の意見にお兄ちゃんも賛成なのか、うんうんと頷いている。


「ふむ。コルリは怖がりなのだな。まあ、よい。では、荷物は空間魔法で送るとして、そなたたちは、余が直接運んでやろう」

「え?」

「直接?」

『のお、ミヤコ。コルリたちは引越しを――住処を変えるそうだが、そなたも移動の際にコルリたちをその背に乗せるに何の抵抗もないであろう?』

『うむ、当然である。我はコルリやお兄ちゃん、お父さんにお母さん、おばあちゃんとアトリとセッカを引越しさせるぞ』


 引越しのことは前から話題にのぼっていたからか、ミヤコちゃんはすんなりアウルの言葉に頷いた。

 えっと、要するに荷物は空間魔法で運んでくれて、私たちはミヤコちゃんやアウルが背中に乗せて連れて行ってくれるってことかな?

 しかもアウルは小さいのに?


「ありがとう、ミヤコちゃん、アウル。それだと引越しも簡単だね!」

『我にできることは何でもするのだ』

『コルリ、なぜ余のことは呼び捨てなのだ?』

「え? アウル、ちょっと細かい」

『むむ? おかしい。扱いが違う気がする……』


 ぶつぶつ言っているアウルは放っておいて、お兄ちゃんたちに詳しく説明する。

 するとお兄ちゃんは「僕、高いところ苦手なんだよな……」なんて言ってた。

 お兄ちゃんの意外な弱点を知ってしまったけど、とにかくこれで一つ問題解決だ。


「じゃあサ、いっそのこと東の地方はどうカナ? そうしたら、そのままノスリの国に向かえるカラ、便利じゃナイ?」

「コルリ、便利ってだけで、ご家族の皆さんが住む場所を決めてもダメだろ」

「いや、いいと思うよ。父さんたちに特にこだわりはないみたいだから。まあ、この街を離れるのは少し寂しいみたいだけど、基本的に父さんも母さんも双子も、新しいことが大好きだからね。おばあさんも納得してくれるよ。むしろ選択肢が少なくなって助かる」


 私の提案にノスリは渋い顔をしたけど、お兄ちゃんがあっさり肯定してくれた。

 そうなんだよね。選択肢が多いとなかなか決められないんだよ。

 うん。あとは住む家だけど、それは長官の紹介してくれた魔法使いさんにいい所がないかお兄ちゃんに連絡を取ってもらって……と、そこまで考えてふと気付いた。


「ねえ、アウル。協力してくれるのは、すごく有り難いんだけど、アウルの故郷は大丈夫かな? アウルがいなくなってることで、えっと、魔力の圧力? がなくなって、他の魔獣が暴れて人間たちが困ったりしてない?」


 長官がここまで協力してくれるのは、ミヤコちゃんの力が必要だから。

 それはひとまずミヤコちゃんの余っている力を具現化することによって、クリアできているけど、同じようにアウルの国でも魔獣が暴れ出したんじゃないかと心配になった。

 だけど、アウルはふんっと鼻で笑う。

 生意気だな、もう。


『余がおらぬでも、あの地は心配いらぬ。麒麟がおるでな』

「え? 麒麟と一緒に住んでたの?」

『一緒に住んでいたわけではない! あやつは一人の人間に入れ込んでおるのだ。それが麒麟の性というべきものだがな。よって、その人間が国を治めておる限りは、麒麟があの地を離れることはないので心配いらぬ』

「へ~、そうなんだ。さすが物知りだねえ」

『これくらいは常識である』

「そうかそうか。それは東の大陸の常識だね」


 やっぱり、あとでアウルは説教だ。

 とりあえずノスリやお兄ちゃんが東の大陸のことを心配するといけないので、そのことを説明すると、二人とも安心したみたいだった。

 ミヤコちゃんは麒麟と聞いて、嫌そうに顔をしかめていたけど。


「では、そういうことで、そろそろ晩御飯だから……ノスリ君、今日も泊まっていくといいよ。寮には連絡しておくから」

「すみません。お願いします」


 素直にノスリが受け入れたのは、まだまだ詰めたい話があるからだな、なんて思っていると、階段を上る足音が聞こえて、ドアがノックされた。

 そして顔を覗かせたのはお母さん。


「ノスリ君、今日も晩御飯食べていくでしょう?」

「あ、はい。いつもすみません」

「あら、いいのよ。そんな他人行儀な……」


 笑いながら片手を振っていたお母さんは、ふとアウルに目を止めて口を閉ざした。

 あ、紹介しないと――。


「まあ、もう一人お友達がいるのね? じゃあ、もう一人分食器を用意しないと。でもすぐにできるから、もう下りていらっしゃいね」

「うん、わかったよ。母さん、ありがとう」

「どういたしましてー」


 お兄ちゃんの言葉にまた片手を振りながら、お母さんはドアを閉めてしまった。

 あのー。いくら何でも、もう少し反応しようよ。

 我が母ながら、恐るべし。




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