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41.使い魔について

 

「これ、人間。窮屈ではないか!」

「うん、そうだね。だけど、ちょっとだけ我慢しようか」


 シーツを巻き付けられた白澤が文句を言ったけど、お兄ちゃんは優しく答えてる。

 完全にアトリと同じ扱いになってるよ。


『白澤、まさか知らぬのか? 人間はこのように服を着るのだぞ? 裸でおるのは露出魔と言って、変態のすることなのだ』

『へ、変態?』


 ミヤコちゃんが私のおさがりのワンピースを自慢げに見せて言うと、白澤はショックを受けたようだった。

 誰だ、ミヤコちゃんに〝露出魔〟とか〝変態〟だなんて言葉を教えたのは。……きっとアトリだな。あとで叱っておこう。


「コルリ、僕はアトリの服を適当に持ってくるよ」

「あ、うん。わかっタ」


 お兄ちゃんが出ていくと、ノスリが大きく息を吐いて椅子に座った。

 そうだ。突然の白澤の登場で、大切な話が途中になってしまったもんね。

 気の毒になったけど、そこで気がついた。

 あれ? 私には風水とかよくわからないけど、白澤がいてくれるなら、わかるんじゃない?

 そのことをノスリに伝えようとした時、お兄ちゃんが戻ってきた。

 どうやらアトリの新品の服を見つけたらしい。


「ちょっと着替えるから、コルリとミヤコちゃんは少しだけコルリの部屋に戻っていてくれるかな?」

「うん。じゃあ、あとで呼んでネ」


 素直にお兄ちゃんに従って、ミヤコちゃんと私の部屋に戻る。

 するとミヤコちゃんは不満そうに唇を尖らせた。


『我のお兄ちゃんとノスリなのに……』


 ああ、この気持ちわかるよ。

 私も年が離れているとはいえ、アトリとセッカが生まれた時に少しだけ寂しかったもん。


「ミヤコちゃん、心配しなくてもお兄ちゃんはミヤコちゃんのお兄ちゃんで、ノスリは友達だよ。それはね、どんなに家族が増えても、友達が増えても変わらないの。減ったりしないよ。むしろ増えるんだから嬉しいことなんだよ」

『……そうなのか?』

「そうだよ。だって、お父さんやお母さんには私たち子供が四人いて、ミヤコちゃんが加わって五人になったんだから。二人ともすごく喜んでたよね? アトリとセッカもミヤコちゃんが家族になってすっごくはしゃいで大変なくらいだよね?」

『ふむ。確かに……』

「ね? だから、ミヤコちゃんには白澤さんっていう新しい友達ができて、私にもできて、嬉しいことなんだよ。これからいっぱい遊べるもんね」

『そう……だな。遊ぶのはたくさんいたほうが楽しいからな』

「うん」


 よかった。ミヤコちゃんが納得してくれて。

 だって、たぶん私やノスリ、お兄ちゃんたちはミヤコちゃんの時間の中で、あっという間にいなくなっちゃうから。

 その時に一緒にいてくれる友達がいれば、心強いよね。


 ひと安心したところで、隣の部屋の壁がノックされた。

 準備OKってことだな。

 お兄ちゃんの部屋に入ると、白澤がアトリの服を着て、さらには額の目を帽子で隠して待っていた。


「うわー! 似合うよ、白澤さん。人間みたいだねえ」

『ふん! 人間ごときの服は、余に似合って当然なのだ』


 せっかく褒めたのに生意気なことを言うので、ぺしっと肩を叩く。

 すると白澤はまた何か言いかけたので、その前に気になっていたことを私が訊いた。


「ところで、白澤さんの名前は?」

『余の名前? 当然、白澤である』

「うん、そうだね」


 このやり取り、またやるのか……。

 そう思いつつ訊ねても、やっぱり名前はないらしい。


『では、コルリに名前を付けてもらえばよいのだ。我はミヤコと名付けてもらったぞ。可愛いであろう』

『う、まあ、まあ……かな……』


 ダメダメじゃん、白澤。ミヤコちゃんがムッとしてるよ。

 好きな子には素直にならなきゃ。

 この辺りはまた別の機会にするとして、とりあえず名前ねえ……。


「ねえ、お兄ちゃん、ノスリ。今ネ、白澤さんの名前を決めようトしてるノ。何かいい名前があるカナ?」

「名前?」

「いや、僕たちが決めてもいいのかな? 名付けってかなり重要だよね? 僕たちが通常接する魔獣だと、たとえ言葉が通じなくても音でわかるらしく、名前を受け入れて応えるってことは、使い魔として縛られることを認めるってことなんだから」

「エ?」

「うん?」

「まさかコルリ……お前、知らなかったのか? というか、ミヤコちゃんの名前はお前がつけたのか?」

「う、ウン……」

「信じられねえ……」

「コ、コルリ……。こんな基本を知らなかったのかい?」

「だ、だっテ……使い魔って興味がなかっタし、むしろ嫌いだったカラ……」

「ま、まあでも実際は、コルリの力じゃミヤコちゃんを縛るなんて無理なんだから、意味がないって言えばないわけで……」

「確かにね」


 呆れた、とばかりにノスリはため息を吐いて、お兄ちゃんはがっくりと肩を落とした。

 まあとにかく、白澤に名付けても問題はないってことだよね?


「じゃあ、それはそれデ、名前何がイイ?」

「お前、反省してねえな」

「ごめんね、ノスリ君。苦労かけたよね、三年間」

「いいえ、もう今さらですし」


 うん、二人とも考えそうにないから私だけでも考えよう。

 白澤だし、白いし、モフモフだし、角があるし、偉そうだし、物知りらしいし……。


「よし、決めた! アウルだネ!」

「は?」

「アウル? どうして?」

「何となく!」

「……」


 いいんだ。別に二人から呆れられたように見られたって。

 前世で見た何とかフクロウを思い出したんだよね。

 威嚇する時は膨らむのに、怖いと細く細くなるフクロウ。

 名前は思い出せないけど、フクロウって確か物知り博士的な存在でよく童話にも出てきたし、だからアウル。


「ねえ、白澤さん。白澤さんの名前は〝アウル〟ってどうかな?」

『……アウル? そ、そんなありきたりの名は――』

『ふむ。なかなかいいのではないか?』

『よし、アウルでよいぞ』


 うん、あとでこの子には説教が必要だな。

 にっこり笑いながら帽子の上からわしわしと乱暴に撫でると、白澤は――アウルは『無礼ではないか!』なんて文句を言っていた。


「お兄ちゃん、ノスリ、白澤さんはアウルでイイって。ねえ、アウル?」

「ふ、ふん。余の名を呼ぶ栄誉をそなたらに与えよう」

「ああ、えっと……光栄です」

「アウル君、よろしくね?」


 ノスリは一応、偉そうなアウルにのって答えてあげてたけど、お兄ちゃんは変わらずだ。

 うん、これでよしと。


「じゃあ、お父さんたちにアウルを紹介スルのは、あとにしテ、ひとまずアウルから訊きたいコトがあるんだ」

「ほう、人間風情が余に知恵を求めるか」

「はいはい。よろしくお願いしマス」


 相変わらず偉そうなアウルに見せつけるように、ソファで私の隣に座ったミヤコちゃんをぎゅっと抱き寄せる。

 ミヤコちゃんは『これ、コルリ。くすぐったいであろう』なんて言いながら、くすくす笑ってる。

 それでも、私が人間の言葉で話している時にはおとなしく待っていてくれるんだから、ちゃんと空気を読めるし、可愛くてとっても素直でいい子だよね。

 人間の言葉で話すのは、ちゃんとノスリにも理解してもらうため。

 椅子に座ったノスリをちらりと見て、ベッドに座ったお兄ちゃんの隣に座るアウルに視線を戻す。


「えっとネ、アウルは地脈とか気とか、風水には詳しいノ? この大陸の東の果ての半島のことについテ、教えてほしいノ」




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