4.厄災出現
「お前ら、また一緒にいるのか」
「パートナーだからね」
タゲリが私たちを見て顔をしかめた。
ほっとけばいいのに、ノスリが律儀に答えている。
だけど、私は無視。なぜならタゲリが嫌いだから。
私とタゲリはいわゆる幼馴染ってやつだけど、小さい頃から虐められた身としては、好きになれない。
私が言葉を話せるようになっても、大人たちが天才だって騒ぎだしてからも、タゲリは変わらなかった。
リーダー格のタゲリがその調子だから、男の子たちからは相変わらず馬鹿にされ続けたんだから。
しかも魔法学校に入学することになって、やっと離れることができると思ったのに、タゲリも入学を許可されてしまったんだよね。最悪。
「おい、コルリ」
「……」
「無視してんじゃねえよ! 大変なニュース持ってきてやったのに」
「何?」
「……シプスターの街辺りに厄災が現れたらしいぞ。確かお前のばあさんが――」
「嘘!? 大変! 私、帰る。ノスリ、またね!」
「おい!」
「気をつけて帰れよ!」
急いで鞄に荷物を詰めて、自習室の外へと駆けだす。
当然、タゲリがいない方のドアから。
家に帰ったからって、私に何かできるわけでもないけど、このニュースをお母さんが聞いたら心配して取り乱しているかもしれないから。
シプスターの街はお母さんの実家があって、おばあちゃんが一人で住んでいる。
お父さんは孤児だったから、私たち家族にとっては唯一の肉親。
前から一緒に住もうと誘っても、住み慣れた場所を離れるのは嫌だと、了解してくれなかったおばあちゃん。
ああ、こんなことならもっと強く誘えばよかった。
お母さんもきっとそう思っているはず。
家まで走っている間も、街中では厄災出現のニュースのせいか、そこかしこで人々が立ち止まって心配そうに話をしていた。
この世界ではニュースも魔法の通信網があって比較的早く伝わるから。
厄災とは、この魔法がある世界ならではの災害。
突如として現れる魔獣のことを呼ぶ。
魔獣といっても、たいていは王国お抱えの魔法使いや魔法騎士が倒してくれる。
そんな彼らでも歯が立たない――どころか、何もできずただやり過ごすことしかできない災害級の魔獣が厄災。
トロールやサイクロプスならどうにか撃退することができても、サラマンダーやバジリスク、そしてドラゴンには手も足も出せない。
ただ避難豪に入ってやり過ごすしかないのだ。
時には、その避難豪さえも破壊されてしまうこともあるけれど。
(おばあちゃん、大丈夫かな? 腰が悪いから、あんまり早く逃げられないだろうし……)
息を切らしながら、お店の裏側から駆け込むと、お母さんはキッチンでがっくり肩を落としてテーブルに肘をつき、顔を覆っていた。
周囲には誰もいないけど、たぶんお父さんと双子たちがお店を見ているんだ。
「お母さん、おばあちゃんは大丈夫だよ!」
「ええ……」
どうにか励まそうとしたけれど、お母さんの声にはやっぱり覇気がない。
気休めしか言えない自分がもどかしい。
私には何もできないけれど、お父さんならと、私は調理場を抜けてお店に出た。
「お父さん、ここは私が見るから」
そう言って、双子たちと店番をする。
夕方だから、もうパンを焼くことはないけれど、明日も朝早いし、何よりお母さんを励ましてほしいから。
五歳になった双子たちも、いつもは騒いでばかりなのに、異変を感じてかおとなしくお店でお絵描きをしている。
本当なら夕方のこの時間はお客さんもタイムサービス狙いで多いのに、今日はびっくりするほど少ない。
お店から見える通りもいつもと様子が違って、みんなが不安そうな顔になっている。
ノスリが言っていた通り、この国は本当に厄災の被害が少ないから、特に不安なのかもしれない。
今回はいったい何が現れたんだろう。
お兄ちゃんは水魔法が得意なので、王都の水管理の仕事に就いているから心配はいらないけれど、ひょっとして、シプスターの街の復旧にはかり出されるかもしれない。
さらには、私は火魔法が得意だから、将来的には軍に配属されるかもしれないんだよね。
まあ、女子だから後方支援部隊になる可能性は大だけど、お母さんは今から嘆いている。
こんな時、軍はどうしているんだろう。
結局、色々と考えてその日は眠れなかった。
卒業まであと二年。
そういえば、ノスリは卒業したらどうするのかな?
国へ帰るのかな? ノスリは留学生だから高い学費も払っているし、王国の命令に従う必要もないもんね。
翌日からは、徐々にシプスターの街の被害が明らかになってきていた。
驚くことに、超最悪級の厄災――ドラゴンが襲来したらしい。
だけど街の建物などは壊滅的だったけれど、幸いにして死者はでなかったそうで、みんなが安堵していた。
どうやらドラゴンは空を飛んできたらしく、しばらく街の上空を旋回してくれたお陰で、みんな避難豪に逃げることができたんだって。
街はちょうどお祭りの最中。
みんな外に出ていて、家の中にいた人はほとんどいなかったから避難も早かったらしい。
誰もいないことに腹を立てたのかはわからないけど、ドラゴンは炎を一度だけ吐いて、しばらくドスドスと街を歩き、また飛び立っていったとか。
何がしたかったんだろうね。
まあ、厄災の考えることなんて誰もわからないけれど。
嬉しいことに、おばあちゃんもご近所さんに助けられて避難豪に隠れることができたので、無事だった。
お母さんは泣いて喜び、家が壊れたこともあって、おばあちゃんは我が家で一緒に住むことになった。
うん、これでひと安心。
ちなみにお兄ちゃんは予想通り、街の復旧にかり出されてしまって家には当分帰れなくなるみたい。
みんなまた厄災の襲来を心配したけれど、それからドラゴンが現れることはなく、平穏な日々に戻った頃、魔法学校にとある生徒が編入してきた。
そして私の生活は一変したのだ。




