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3.魔法学校生活

 

 世の中とは無情なものである。

 うん。そんなに甘くないとは前世でもわかっていたけれど、やっぱりそうらしい。

 私は実は、正直に言えば、本当のところ、冷めたふりをしながらも、魔法学校に入学すれば、その才能をさらに開花して、ちやほやされながら、王族の方々の覚えもめでたく……なんて妄想をしていました。

 はい、すみません。


 でも、塾ではすごいすごいと言われた魔法の才能も、やはり全国から精鋭が集まってきた魔法学校では、上には上がいるもので。

 今の私の成績は中の上。いいところ、上の下である。

 さらに言うなら、絶世の美女に生まれたわけでもなく、顔は中の中。

 どうせなら、金髪碧眼の美少女に生まれたかった……。


 この世界では容姿も多様で遺伝子はどうなっているんだと神に問いたいくらいに家族でも多様なのだ。

 だからお父さんは茶色の髪に青い瞳、お母さんは赤毛に黒い瞳、お兄ちゃんは金髪に茶色の瞳をしていて、アトリとセッカはなんと薄い水色の髪に、緑色の瞳。それなのに私は黒髪にこげ茶色の瞳。なぜ私だけ普通。

 いや、この世界ではみんな普通なんだけど、せめて前世と違う何かがほしかった。

 というわけで、私は魔法学校ではすっかり埋もれた存在なのである。


「あー、美少女になりタい」

「は? 何、いきなり?」

「私、魔法少女なンダよね」

「は?」

「でも魔法少女って、回を重ねるごとに増えていって、そのうちもう誰が誰だか状態。その中でもセンターを取れることなく、フォーメーションの時だって一番後ろから一つ前で、膝をついたポーズになる。いわゆるモブなのよ」

「うん。さっぱり、意味がわからねえ」


 机に突っ伏して訴える私の愚痴に、律儀に答えてくれているのは、パートナーのノスリ。

 この学校ではパートナーが決められていて、授業の時などはお互い切磋琢磨し合って学ぶシステムなのだ。

 そのため、パートナーは実力が近い者同士が組むことになる。

 年一回の組み合わせ変更はあるけれど、ノスリとは十二歳で入学した時からずっとパートナーだから気心も知れているのだ。


 もちろん性格的に合わないとかもあって、一学期の間ならパートナー変更の申請もできる。

 ただその場合、先生の印象は悪くなるわけで……って、そもそも組み合わせを担任の先生が勝手に決めるのが問題な気もするけれど、それぞれの力量を知っているのも先生だから仕方ないのかも。

 ただ、これは先生の気まぐれによるところも大きい。

 私とノスリの場合は、入学試験時の成績が近かったというだけでなく、私の言葉の発音が悪く、たまに片言になってしまうことと、ノスリが留学生ということで決められてしまったのだ。


 ある意味差別だよね。まあ、この世界にそんな概念はほとんどないけど。

 この世界ははっきり言って実力主義。階級主義。理不尽なことはたくさんある。

 それでもみんな、それを当たり前だと思っている。

 まあ、内心では不満に思っている人もいるだろうけど。


「お前、そうわけわからねえことをぶつぶつ言ってるから、周囲から敬遠されてんだぞ。パートナーの俺の身にもなれ」

「えー、ノスリが敬遠されてるのハ、不愛想だからじゃナイ。せっかく作りはいいんだから、もっと笑いナよ」

「面白くもねえのに、笑えねえよ」

「くっ……このイケメンの余裕が憎い。敬遠されているんじゃナクて、近寄りがたイんだよ。ノスリに憧れている女子は多いんだから。私なんてよくノスリのこと訊かレるもん」

「……なんて答えてるんだよ?」

「えー、普通」

「普通って何だよ!?」

「だって、普通じゃん。無駄に綺麗なその顔ヲ除けば、人前でおならだってするシ、宿題はたまに答え丸写しにしたりするくせに、ちょっとだけ間違えたふりの小細工シたり、綺麗な女子を見れば目で追ってるし、甘いものが大好きなくせに、女子の前ではかっこつけて興味ないフリする、普通の男子じゃん」

「おまっ、それは言ってねえだろうな!?」

「言ってナイ、言ってナイ。普通の男子としか答えてナイよ。優しい。私、超優しい。女子の夢を壊さないであげているだよ」


 そうだよ。私は寛大なんだよ。

 留学生ってだけで謎めいているノスリは顔までいいから、女子の人気も高い。

 それなのに、常に一緒にいる私が邪魔らしく、一部の女子からはよく睨まれているというのに、私は三年間パートナーの組み換え申請をすることもなく、我慢しているんだから。

 ……まあ、ノスリと一緒にいると楽っていうのもあるけど。

 私の発音を笑わないで、聞き取りにくかったらちゃんともう一度訊いてくれる。

 提出物だって、わざわざ私のものに一度目を通して、綴りが間違っていないか、変な言い回しになっていないかチェックまでしてくれるんだから。


 とにかく私のことを面倒がってもいないみたいで、私も気を使わなくていい。

 ノスリも気を使ってないのがありありとわかるから……そもそも一応、私だって女子なのに、平気でおならするとか、そのあたりがもうね。

 よっぽどお兄ちゃんのほうが優しくて面倒見がよくて、紳士だったよ。


「あー、お兄ちゃんに会いたイ……」

「うるせえ、ブラコン」

「うるさい、シスコン」


 どうやらノスリには年の離れた妹がいるらしく、よく手紙を書いている。

 この魔法学校にわざわざ入学したのも、この国で魔法をきちんと基礎から学びたかったとか。

 女子たちはノスリが実はどこかの国の王子様なんじゃ? なんて夢見ているけど、違うと思う。

 私も詳しくは訊かないし、そもそも女子の前でおならをする王子様なんて認めない。


「ねえ、ノスリ」

「何だ?」

「今さらだけど、ノスリの国には魔法学校がナイの?」

「……あるぞ」

「そうナノ? それなのに、わざわざこの国にまで来るなんて……ひょっとして、ノスリって何か悪いことをして国にいられなくなタとか?」


 ほら、よくある若さゆえの過ち?

 煙草を吸ったり、ケンカ三昧だったとかで、国では悪名を馳せているとか。

 なんて考えながら、答えを待っていると、ノスリは大きな大きなため息を吐いた。

 あ、これはかなり呆れている時の仕草だ。


「この国が他の国に比べてかなり栄えているのは知っているな?」

「うん、それは授業で聞いた。なんでモ、厄災や魔獣の発生が驚くほど少ナイからだって」

「俺はその理由が知りたいんだ。俺の国では、厄災で数年前に村が一つ滅んだ。それからもたびたび厄災は襲ってくる。魔獣はもっとだ。魔法使いや軍は魔獣は倒すことができても、厄災を前にほとんど何もできない。せいぜい防御するしかできないんだ。せめて厄災が現れる前兆でもわかれば、近隣住民を避難させるなどの処置がとれるのに。だから、この国の魔法学校で学べば、何かわかるんじゃないかと思ったんだよ」

「そっか……。それは大変だったね。うん、ノスリは若いのに偉いよ。そんなことヲ考えているんだモン」

「若いって、お前も同い年だろうが」

「だって、入学しタ時はまだ十二歳だよ? それで親元を離れるなんて、スゴイよ。私は毎日家に帰れば家族に会えるかラ」

「さっき、兄さんに会いたいって呻いていたじゃねえか」

「それはだって、前は学校でもお兄ちゃんに会えたんだモン。それが今は、卒業して国のために働かないトいけナイから、週末しか会えナイんだよ?」

「ほんと、お前はブラコンだな」

「うん。だっテ、お兄ちゃん以上にかっこいい人に会ったことナイんだもん。あー、恋がしたい」

「はいはい。わかったから、宿題を進めろ」

「あー、お兄ちゃんに会いタイ」

「甘えるな。自分でやれ」


 くっ、このスパルタめ。

 今までは学校から帰ると、お兄ちゃんが宿題を手伝ってくれてたのに、一年前に卒業して家を出ないといけなくなったからそれもできず、こうして放課後にノスリと勉強することになったのだ。

 宿題は何段階かのレベルがあって、それぞれの実力に合わせて出されるので、成績がそれなりによくても、難しい。いやなシステムだ。


 それにしても、ノスリとパートナーを組んで三年。

 話に聞いているだけでも、あんなに可愛がっている妹さんと離れてまで、遠くのこの国に留学に来たのは、そういう理由があったのか。

 そう考えると、ノスリは本当にいいところのお坊ちゃんなのかもしれない。

 国のためを考えるなんて、一般庶民の私には無縁の話だったし、確か授業料も普通に払えば高いんだよね。

 まだまだ知らないことばかりだな。


 そんなことを考えていると、自習室前の廊下をバタバタと走る足音が聞こえた。

 誰よ、廊下は走らないでしょ。

 ノスリも何事かと課題から顔を上げて、廊下の方を見た。

 すりガラスなので、誰だか見えないけれど、そのシルエットが自習室のドアの前で止まったかと思ったら、ガラッと勢いよく開いた。

 そして顔を覗かせたのは……出たよ。私にとっての厄災が。

 開けたドアから私を見つけた厄災――同じ塾出身のタゲリはずんずんと向かってやってくる。

 ああ、もう。面倒くさいなあ。




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