22.イケメンはどこだ
ああ、うう……。
この世に神様なんていないんだ。そうに決まっている。
私は、国王陛下を前にして、深く深く頭を下げながら、そう思った。
わかってはいた。わかってはいたんだよ。
国王陛下は御年五十七歳。その治世は二十年以上で、安定した国政を行ってくれていて、尊敬すべき方だって。
だからいい。それはいい。
だけど、王太子殿下に第二王子殿下。御年二十八歳と二十四歳。妻子持ち。
それでも期待せずにはいられなかった。
そうだ。日本でも写真という忠実なものがありながら、修正などもあった世の中だ。
宮廷画家が描いた肖像画が美化されないわけがないんだ……。
頭を下げながら、直接目を合わせることはなくても、そのご尊顔をちらりと見ることくらいはできた。
そして出た結論。
イケメン王子様なんていなかった。残念。
とはいえ、王妃様も妃殿下方もとても綺麗だ。
うん、次の世代に期待しよう。
確か王太子殿下の御子様の王子殿下は十歳と七歳。第二王子殿下の御子様は王女殿下お二人だけど、まだまだ頑張れ、妃殿下方。
特に遺伝子頑張れ!
そう、年齢なんて関係ないのだ。イケメンは見ているだけで幸せになれるから。
だからイスカ様に夢中になってしまったんだよね。
見た目だけはイケメン王子様だったから。
当然、魔法長官もおじいちゃんだった。
どこかにイケメンはいないのか……。
まあ、謁見の間にいる騎士さんたちはかっこいいけど、好みじゃない。
もっとこう、ごついのじゃなくて、キラキラしたのがいいんだよ、私は。
結局、心配していた謁見は二、三の質問をされただけで終わった。
マジでただの珍獣見たさだった感じ。
でもまあ、本当に無事に終わってよかった。
一度だけ、ひやりとした場面があったから。
御年十七歳の王女殿下が、ミヤコちゃんに目をつけたのだ。
綺麗だからね。
そして欲しい、飼いたい、と言いだしたから、「この子は森から抜け出る時に巣から落ちていたのヲ助けたのデス。この子がいたから私は頑張って家へと帰ることができました。それに野鳥のこの子は私を親鳥と勘違いしているため、私以外には懐かないのデス」と情に訴えたのに引かなかった。
でも、野鳥と聞いた侍従が慌てて「野鳥は多くの雑菌を保有しております。あの者は雑菌にも慣れており大丈夫ですが、姫様のような繊細な方には毒にしかなりません」と止めに入ったので諦めてくれた。
すごく失礼な話だけど、まあ許す。
お陰様でややこしいことにならなかったし。
しかも、これである意味お墨付きをもらったようなものだ。
ちなみに、王女殿下はこの国の豊かさを象徴するような方だった。
……私、今すごくいい感じに言った。
肖像画とは似ても似つかなかったけど、これからは誰かに訊かれたらそう答えよう。
「ああ、緊張しター」
控室に戻るなり、ソファに腰かけた私に、お兄ちゃんが困ったように笑う。
ノスリは新たに用意されていたお茶を淹れてくれる。
おおう、気が利かない女子ですみません。
「コルリ、疲れているところを悪いけど、これからが本番だよ」
「ヘ?」
「まあ、そうですよね。今のはただ見世物になっただけだし。長官とは何の会話もなかったですからね」
「うん、ノスリ君はやっぱり気付いていたか」
「それはまあ……」
「ああ、そういえバ、そうだね。うう、難関を乗り切ったと思タのに」
あの場に長官はいたけど、思えば何も発言しなかった。
なんなんだ、このお役所仕事的なめんどくささは。
いや、お役所どころか、王城なんだけど。
「長官は抜け目のない方と評判だからね。ミヤコちゃんのことは気をつけないと。魔力は発していないんだよね?」
「うん。そう言ってタヨ。今は小鳥に変身しているから、忠実に小鳥でしかないって」
体は鋼以上に硬いけどね。
だから気をつけないと、猛禽類とかに狙われるかもしれないって。
それを聞いて心配した私に、危険を察知したらすぐに変身を解くから大丈夫だってミヤコちゃんは言ってたけど、やっぱり心配。
さらには別の意味でも心配。
だって、変身を解くってことはドラゴンになるってこと……だよね?
うん、屋外では猛禽類だけじゃなくて、猫とかにも気をつけないと。
「ほら、コルリ」
「あ、ありがトウ」
「ミヤコちゃんは、何か食べるかな? クッキーもあるぞ?」
「うん、そうダね。――ミヤコちゃん、喉渇いていない? お水かお茶飲む? クッキーもあるよ?」
『そうだな。では、そのカラフルな菓子を頂こうか。あとはその香りのよい茶も頼む』
「うん、わかった」
ノスリはお茶を渡してくれたあと、ミヤコちゃんのことも気にしてくれた。
もう自然にミヤコちゃんを受け入れてくれているのが嬉しい。
ミヤコちゃんは興味深げにひと通り用意されたお茶やお菓子を見てから、食べることにしたみたい。
予備のカップにお茶を注いで、ソーサーにマカロンを並べてテーブルに置く。
するとミヤコちゃんは私の肩からテーブルに移り、お茶にくちばしをつけ、そのあとマカロンを突きだした。
不思議。普通はいくら小鳥とはいえ、ずっと肩に乗っていたら凝りそうなのに、全然それがない。
これもやっぱり魔法なのかな。
そんなことを考えていると、ドアにまたノックの音。
ああ、今度こそ長官からの呼び出しね。
そう思って立ち上がると、応対したお兄ちゃんが大きくドアを開けて、当の長官が入ってきた。
しかも、後ろには実体化したコボルトがついて来てる!
「ああ、気にせず座っておくれ。挨拶は先ほどしたから省略でよいな」
私もノスリも立ち上がっていたから、その姿を見て長官は人懐っこく笑った。
しかも、その顔は後ろのコボルトとよく似ている。あれか、夫婦が似てくるのと同じようなものかな。
いや、コボルトは男性型だけど。
ミヤコちゃんは、長官が入って来た瞬間に私の肩に移動していた。――飛んだっていうより、瞬間移動に近かった気がするのは見なかったことにしよう。
「ああ、これは儂の使い魔でコボルトのハクセという。ハクセは鉱脈を見つけて掘るよりも、探求心が強く、儂の研究の手伝いをよくしてくれるのじゃ。それで、そなたたちにも会いたいと申すでな、このように姿を見せておるが気にしないでくれ」
なるほど。研究熱心なコボルトか。
ノートとペンを持って聴き取る気満々な姿はちょっと可愛い。
だけど心なしか、その視線はずっと私の肩に――ミヤコちゃんに向いている。
えっと……魔力は隠れてて、普通の小鳥にしっかり変身できてるんだよね?
なんとなく微妙な空気が漂う中で、長官からの聴取は始まった。




