20.いざ、王城へ
「うわー、ずいぶん可愛い小鳥になったねえ」
「いや、でもちょっと派手すぎねえか? 可愛いけど」
お兄ちゃんとノスリが小鳥になったミヤコちゃんを見下ろしながら感想を言う。
まあ、ちょっと派手かなとは思うけど、なんといってもフェニックスだし!
私の中では。
「いいノ。可愛いは正義! 派手でも、可愛いカラ、肩乗りサイズだし。――ミヤコちゃん、お兄ちゃんもノスリも可愛いって」
『うむ。これほどに小さくなると、視界もずいぶん違って面白いぞ。鳥とはこんなものなのか。どれ』
お兄ちゃんたちの感想を伝えると、ミヤコちゃんは満足そうに頷いて、ぱたぱたと羽ばたいた。
あ、上手上手。ちゃんと羽で飛んでる。――と、思った瞬間、天井にぶつかった。
「ミヤコちゃん!」
ひゅるひゅると落ちてくるミヤコちゃんをノスリが慌てて受け止める。
ナイスキャッチ! ノスリ、偉い。
心配したけれど、ミヤコちゃんはノスリの手のひらでぴょんと起き上がって、またぱたぱた羽ばたいて、私の肩に乗った。
うわー! 本当に肩乗りインコ――じゃなくて、肩乗りチビフェニックスだ!
まあ、本当はドラゴンだけど。
「ミヤコちゃん、大丈夫なの?」
『うむ。昨日も言ったが、我は鋼のように硬く丈夫なのだ』
「あ、そっか……」
そっと触ると、本当に羽毛がふわつやで、とても鋼のようには思えないけどね。
ノスリはまだミヤコちゃんを受け止めた手のひらを上に向けたまま、ちょっとだけ寂しそうにこちらを見ていた。
ああ、ごめん。でも役得。
「ミヤコちゃんは大丈夫ダヨ。感触はふわふわでも、ドラゴンの時のまま、本当は鋼よりも硬くて丈夫なんだって」
「……みたいだね」
そう答えたのはお兄ちゃん。
お兄ちゃんの視線を追えば、ミヤコちゃんがぶつかった天井がへこんでいた。
「とにかく、ミヤコちゃんは外に出る時は、その姿でいいと了解してくれたのか?」
「うん、大丈夫だっテ」
「よし、それじゃあ、きっちり話を合わせてまとめよう。その後、父さんたちにも伝えないとな。あと、コルリはこれから三日は療養する予定だから。それまでに、さらに詰めることは詰めよう」
「わかっタ」
三人でしっかり話し合って、詳細を詰める。
ひとまず三日は熱を出して私は家にこもることになったから、その間はミヤコちゃんとのんびり遊ぼう。
その中で、色々なことを教えることができればいいな。
それから最後に、ノスリがどうしても気になっていたらしいことを訊いてきたので、ミヤコちゃんに通訳した。
『我はこの世界では最高の種族であり、最強の力を有する。我の力が及ばぬは、この世界の理に反することぐらいであるな』
「この世界の理に反する……って、例えば?」
『ふむ。死んだものを生き返らせることや、時間を超えることはできぬ。あとは……何であろうな。今は思いつかぬ』
「それって……本当にミヤコちゃんはすごいんだねえ」
『うむ』
チビフェニックス姿で胸を張るミヤコちゃんがやっぱり可愛すぎてつらい。
ああ、そこの羽、絶対柔らかいよね。
って、そうじゃなくて、要するにミヤコちゃんにできないことなんてほとんどないってことだ。
そのことを伝えると、ノスリもお兄ちゃんもかなり驚いていた。というより、引いていた。
うん、気持ちはわかる。
ノスリは他にもドラゴンがいるのか知りたがったけど、それは私が勝手にNGにした。
だって、今までずっと一人だったのに、他にもドラゴンがいるか知ってる? なんて気安く訊けないよ。
ちなみに、ミヤコちゃんのチビフェニックス姿は家族にも大好評だった。
アトリとセッカにはすごく羨ましがられたけど、これは今まで言葉で苦労してきた私の特権だもんね。
でも言葉は通じなくても、ミヤコちゃんの人間の姿、チビフェニックスの姿で一緒に遊ぶことができたから、双子たちは満足していた。
学校は、体育館は当分使えないけど、校舎はそれほど被害がなかったということで、二日後には再開された。
ノスリは色々とみんなに訊かれたらしく、元イスカ様ファンクラブのみんなは私のことをすごく心配してくれていたみたい。
ごめん、本当はずる休みです。
そして、私の熱が下がったと報告したお兄ちゃんに、さっそく命令が下った。
翌日、私を連れて王城に登城するようにと。
容赦ないな! 病み上がりだよ! まあ、仮病だけど。
お偉方の庶民の扱いなんて、こんなものですね。
どきどき緊張しながらぐっすり眠った私は、朝になってまたどきどきしながら久しぶりに制服を着た。
学生の礼装は制服が一番。お兄ちゃんは官服を着ていて、かっこいい。
普段は作業着だからね。
「コルリ、大丈夫よ。あなたは何も悪いことをしていないんだから。心配いらないわ。ミヤコちゃんのことだけ黙っていればいいのよ」
「う、うん……」
お母さん、それが一番緊張するんだよ。
ミヤコちゃんはチビフェニックスになって、私の右肩にとまっている。
ちょっとしたゲーム感覚で、普通の小鳥のふりをしてくれているらしい。
ミヤコちゃん曰く、『小童に我の正体がばれるはずがない』だそうだ。
魔法長官は使い魔としてコボルトを縛っているらしい。
なんでも錬金術に魔法長官はのめり込んでいるとか。こわー。
しかもお兄ちゃんに聞いたところ、長官の年齢は七十歳に近いって。
がっかりだよ。どこかにイケメン魔法使いはいないのか。
そうこうしているうちに、ノスリが制服を着てやってきた。
ノスリも当事者として、呼ばれているんだよね。
お兄ちゃんもいて、パートナーのノスリがいて、すごく心強い。
「おはようございます。すみません、お待たせして」
「いや、ノスリ君もわざわざ学校を休ませてしまって、すまないね」
「いいえ、俺的には幸運ですよ。王城に上がれるなんて、一生に一度あるかないかですから」
お兄ちゃんとノスリの会話を聞きながら、私は椅子から立ち上がってカップを流しに持っていく。
すると、ノスリの声を聞きつけてか、お父さんがお店の方から顔を出した。
「三人とも、気をつけていってこいよ。心配するな。上手くいくさ」
「はい、ありがとうございます」
「ありがとう、お父さん。お母さん、おばあちゃん、行ってくるね! アトリ、セッカ、お城がどんなところだったか、あとでいっぱい聞かせてあげるからね」
「うん! 待ってる!」
「姉ちゃん、ボロ出すなよ!」
「うるさい、アトリ!」
「これこれ、コルリ。さっそくボロが出ているよ」
「え~、おばあちゃん今のは仕方ないよ」
「ほらほら、文句言っていないで、いってらっしゃい。ヒガラ、ノスリ君、コルリとミヤコちゃんをよろしくね」
「うん、わかったよ、母さん」
「じゃあ、いってきます!」
家族みんなの見送りを受けて、私とミヤコちゃん、そしてお兄ちゃんとノスリはお城に向けて歩き出した。
途中で、街の人たちに声をかけられて大変。
心配をしてくれたんだから、無碍にはできないしねえ。
やれやれ。呼び出しといてお迎えがないとか、ひどい話だよ。
 




