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2.この世界の魔法事情

 

 今までずっと心に引っかかっていた違和感の正体に気付いた私は、なるほどと全てのことに納得がいった。

 おそらく前世の記憶があるせいで、言葉をなかなか呑み込めなかったのだと思う。

 幼い子供のうちなら簡単に覚えられるはずなのに、もうすでに私の脳は前世の言語で出来上がっていたのじゃないかなと。

 詳しいことはわからないけれど、大人になって英会話教室に通ってもなかなか習得できなかったことは覚えている。

 それ以外にも色々と覚えてはいるけれど、〝私〟が何者で、最期はどうだったかなんてことはわからない。

 まあ、今生きることに必要ない情報だしね。


 半ば悟りを開いた状態で、私は私らしく、この世界で生きていくことにした。

 そして前世を思い出すきっかけになった魔法を、お兄ちゃんと一緒に習うことになったのだ。

 この世界では、簡単な水魔法と火魔法が扱えないと、不便である。

 そのために、十歳頃から子供たちは街にいくつかある塾に通って習う。

 だから本当なら、七歳の私にはまだ早いけれど、また危険な火魔法を使ってしまわないようにと、お兄ちゃんと一緒に塾に通うことになった。


 塾といっても、実は十二歳から入学を許されている魔法学校の高学年の生徒がバイト代わりに先生を務めてくれている簡単なものだ。

 そこで私は才能を発揮した。

 まず初めに覚えなければいけない水魔法を簡単に使いこなせるようになり、七歳の子供が扱うには難しい火魔法までも扱えるようになったのだ。


 魔法を扱うには生まれながらの能力の差がものをいうようで、たいていは貴族たち偉い人が強い能力を持っているらしい。

 そうそう、この国は王制で階級社会である。

 だから時々、偉い人の馬車が通る時は道を譲らなければいけないし、目の前に立ったなら頭を下げないといけない。

 面倒くさいけど、それが社会というものだ。


 話は逸れてしまったけれど、私のように一般人でも、魔法の才能を開花させる者もそれなりにいるため、魔法学校なるものがこの国にはある。

 たぶん、他の国にも。


 魔法学校に入学を許可されるのは、ある程度の能力を持っている者で、学費はタダ。

 将来、国のために働けというようなものだが、みんな入学を許可されるとそれはもう喜び、街ではちょっとした英雄扱いになる。


 お兄ちゃんも魔法の才能があったようで、私よりも三年早く魔法学校へ入学することになったのだが、私の入学も確実視されていたために、両親はがっかりしていた。

 なぜなら家業のパン屋を継ぐものがいなくなるから。

 幸い、我が家は王都にあるので、寮に入ることなく、明日からお兄ちゃんは学校に通うことになる。

 ということは、お手伝いの大半は私がやらなければならないのだ。

 学校なんて、嫌いだ。


 だから今夜は、いつもよりご馳走が夕食に並んでいる。

 何だかんだで名誉なことだからね。

 そんなおめでたい席で、お父さんは「いっそのこと、もう一人、二人頑張るか!」なんて言いだした。

 それを窘めることなく、お母さんは「でもその子たちも魔法の才能があったら、また国に取られてしまうわ」なんてため息を吐く。

 そんな夫婦の会話を聞きながら、私とお兄ちゃんは黙って食事を続けていた。


 お父さん、お母さん、大人が思っているよりもずっと、子供は物事をわかっているんだよ。

 そして優しいお兄ちゃんは、家族計画を話し合う両親に居たたまれなくなったのか、可愛い妹が色々とすでに理解していることを知ってか知らずか、話題を変えようとしてくれた。


「そんなに心配することないよ。僕はコルリほどの才能はないから。むしろ先生はコルリの才能を見越して、僕にも才能が隠れているんじゃないかと思っているんだよ。ちょっとばかりみんなよりは魔法を上手く扱えるけど、五年の卒業を待たずに僕は中退して帰ってくることになるんじゃないかな? でも、コルリが入学した時に寂しい思いをしないように、それまでは頑張って進級するからね」

「お兄ちゃん……」


 もう今、十分に寂しいよ。

 お兄ちゃんの言う通り、魔法学校は入学も難しいけれど、卒業はもっと難しいのだ。

 成績が悪ければ落第。そのうち才能がないと判断されれば退学を余儀なくされる。

 そうなると、国家のために働くことはできないのだが、魔法学校に入学したという実績だけでも、街では十分に尊敬されるので、みんな塾で必死に魔法を勉強していた。

 なんだか日本の大学受験の構図を見ているようで、ちょっとだけ引いてしまっているのは内緒。

 そんなどうでもいいことは、たまに思い出すんだから不思議だよね。

 それとも前世の記憶なんて、そんなものなのかな?


「でも、新しい家族ができるのは嬉しいな。コルリがこんなに可愛いんだから、弟でも妹でも僕は大歓迎だよ」

「お兄ちゃん……」


 話題を変えてくれたんじゃないんだね。

 でも、可愛いって兄馬鹿発言をしてくれたからいいや。

 私もお兄ちゃんはかっこよくて、大好き。


「おう! まかせとけ、ヒガラ! お父さん、頑張るからな!」

「まあ、あなたったら」


 いや、うん。もう何も考えないでおこう。

 家族が増えるのはいいことだからね。


 ……なんて、思っていた十ヶ月後、お母さんは双子を産んだ。

 母子ともに健康で何よりだけど、頑張りすぎだよ、お父さん。

 お母さんも、大きなお腹で本当に頑張ったと思う。お疲れ様。

 これからはもっともっと家のことを手伝って、可愛い弟と妹の面倒もみるからね。

 うん、こういう時には魔法って便利。


 そして、可愛い弟と妹——アトリとセッカが二歳になって、少し子育ても落ち着いてきた頃――いや、逆にやんちゃが過ぎて目が離せなくなってきた頃。

 私はいよいよ魔法学校へと入学することになった。




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