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16.おやすみなさい

 

 しばらくはノスリの言葉の意味が呑み込めなくて、思考停止。

 だけど徐々に動き出した頭で理解すると、腹が立ってきて私は立ち上がった。


「ノスリ、ひどイ! 私が使い魔を嫌いナノ知ってるでしょ!? それなのニ、最低!」

『どうした、コルリ。またノスリが悪いことを言ったのか? 友達なのに?』

「あ、えっと……大丈夫だよ、ミヤコちゃん。ごめんね、驚かせて。ちょっと意見の食い違いがあっただけだから」

『ふむ、そうか。ならばよい。ケンカはよくないことだろう?』

「うん、そうだね」


 ミヤコちゃんが心配そうにするから、おとなしく座って笑顔を浮かべたけど、それでも私はノスリを一瞬睨みつけた。


「コルリ、そう怒らず最後までノスリ君の話を聞きなさい」

「だっテ、お父さん――」

「コルリ!」

「……はい」


 お父さんに厳しく窘められて、私はおとなしく従った。

 すると、ノスリが申し訳なさそうに鼻の頭を指先で軽く掻く。

 これ、気まずい時のノスリの癖。


「いや、俺の言い方も悪かったんです。コルリ、俺が言いたかったのは、ミヤコちゃんに使い魔のふりをしてもらうってことだよ」

「……フリ?」

「そう。ミヤコちゃんを魔法で縛ったりなんてしない。むしろそんなことできないだろ? ただ何か小さな魔獣に変化してもらって、いつも一緒にいれば、ミヤコちゃんも人間社会のことを知ることができるし、コルリも安心なんじゃないか?」

「確かニ……」


 考えてみれば、私がミヤコちゃんを縛るなんてできはしないんだから当然だ。

 しかも、学校でもずっとミヤコちゃんと一緒にいられるなんて、実に合理的。

 うん、いいかも。


「ごめんネ、ノスリ。ミヤコちゃんと私のことを考えて提案してくれタのに。それから、ありがトう」

「おう、気にすんな。コルリも色々あって、疲れてるんだろう? 明日はひとまず学校は休めばいいんじゃないか?」


 うう、ノスリは男らしい。

 イケメンだし、頼りになるし、これでノスリじゃなかったら、好きになってるんだけどなあ。


「うん、そうだね。二、三日は学校を休んで、ミヤコちゃんにも慣れてもらって、それから登校すればいいよ。明日、学校へは僕が連絡しておくから。それでいいよね、父さん、母さん?」

「ええ、もちろんよ。ねえ、あなた?」

「おう。ミヤコちゃんにもうちのことを知ってもらういい機会だ! ただ、店には出ない方がいいかもな。おそらく明日からは、ドラゴンに攫われて帰ってきたって、コルリの噂があっという間に広がるだろうから、見物客も増えるんじゃないか?」

「ああ、そうだね。みんな物好きだからねえ」


 お兄ちゃんもノスリの言葉に同意してくれて、お母さんもおっとりと、お父さんは頼もしくずる休みを了承してくれた。

 でも、お父さんの予想にちょっと怖くなる。

 お兄ちゃんも言っているように、この通りの人たちって噂好きだし、物好きだし。

 私はともかく、ミヤコちゃんのことはばれないように気をつけないと。


「あなたたち、お風呂の用意ができたわよ。ノスリさん、お先にどうぞ」


 話し合いがひと段落ついたところで、タイミングよくおばあちゃんが戻ってきた。

 双子たちを寝かしつけたあとに、お風呂の用意をしてくれたんだ。


「いえ、僕はあとでかまいません。コルリが疲れているだろうし……」

「何言ってルの! ノスリはお客様なんだから、先に入ってヨ。私は大丈夫だし、ミヤコちゃんトあとで入るカラ。ねー?」

『むむ? 何かわからんが、了解したぞ』


 それまでおとなしくしていたミヤコちゃんが、いきなり私に話を振られて驚きながらも頷いた。

 だから、わからないのに了承しちゃダメだって。

 やっぱり気をつけないといけないな。


「いや、でも俺のあとにコルリが入るのは……」


 なんかノスリがもごもご言っていたけど、笑顔のお兄ちゃんに「コルリのあとに入るのは許さないよ?」と言われて連れられて行った。

 うん、お客様に一番に入ってもらわないとね。

 そのあとは申し訳ないけど、私が入らせてもらおう。

 ちょっと、いや、かなり疲れているのは本当だし、なんとなく体も気持ち悪い。


 ノスリがお風呂に入っている間に、お兄ちゃんがぱぱっと水魔法と風魔法でノスリの服を洗濯したみたい。

 これは年頃のノスリにお母さんがするのは恥ずかしいだろうというお兄ちゃんの配慮。

 なるほど。年頃男子も色々あるんだ。


 お風呂上がりのほんのり赤くなったノスリは、お兄ちゃんのパジャマを着て出てきた。

 それから詳しい話はまた明日、ノスリには放課後に話すということで、お兄ちゃんの部屋に案内されていった。

 あんまり広い家じゃないから、お兄ちゃんと同じ部屋で寝てもらうことになる。

 つくづく、ごめんねだ。


 ノスリがお兄ちゃんと二階に行った後に、私とミヤコちゃんはお風呂に入ることにした。

 脱衣所で服を脱ぐ時には、ミヤコちゃんにボタンの外し方などを説明しながら服を脱ぐ。


「ミヤコちゃんのはワンピースだから、簡単に脱げるよ。うん、上手上手。慣れてきたら、また違う服も着ようね。あと下着はね、こうして……」

『ふむ、なるほど。なかなか人間の指というのは器用なものだな。しかし、コルリ。我にはその白いものがないぞ』

「ああ、これはね、ブラ……うん。ミヤコちゃんにはまだ必要ないから、なくていいんだよ」

『そうか。我とコルリは全て同じではないのだな……』

「だ、大丈夫だよ! ほら、私の家族だって、みんなそれぞれ違ったでしょう? ミヤコちゃんが少しくらい違うのは、ミヤコちゃんだけの特別だから。みんなそれぞれ特別なんだよ!」

『我だけの特別? ふむ、そうか……』


 ちょっと寂しそうに言うミヤコちゃんに慌てたけど、そのあと「特別」って言葉が嬉しかったみたいで、ミヤコちゃんはほんのりと笑った。

 ああ、可愛い。何なの、この純粋培養は!

 思わず裸のミヤコちゃんを抱きしめる。


『これ、コルリ! くすぐったいであろう!』

「ごめん、ごめん」


 真っ赤になったミヤコちゃんから離れながら、ふと思う。

 抱きしめたミヤコちゃんはやっぱり柔らかくて、ドラゴンの時の硬さは全然なかった。

 裸足で地面を走るのも、私が抱きしめるのも、ミヤコちゃんにとっては同じ感覚なのかな?

 うーん、謎。

 でもまあ、いつまでも裸でいるわけにはいかないから、お風呂に入るとミヤコちゃんは嬉しそうに声を上げた。


『コルリ! ここは、我の住処のように煙が上がっておるな!』

「これは湯気だよ。溶岩ほど熱くはないけど、お湯が温かいからね。お風呂につかる前にはまず、お湯を浴びるんだよ」


 説明しながら桶でお湯をすくってミヤコちゃんにそっとかけると、きゃっきゃと楽しそうに笑った。

 うん、こっちまで楽しくなるね。

 それからゆっくりお湯につかると、ミヤコちゃんはちょっとだけ眉を寄せた。


『溶岩よりかなりぬるいな』

「うん、そうだね」


 溶岩には普通はつからないからね。

 体をスポンジで洗ってあげる時もミヤコちゃんはくすぐったかったらしくて、ちょっと大変だった。

 お風呂から上がると、今日に限っては私の大冒険もあって、もったいないけど一度お湯を抜く。

 その間に、体を拭いてあげていると、またミヤコちゃんは喜んでいた。


 何もかもを嬉しそうに体験しているミヤコちゃんは本当に無垢で、何だか責任重大な気がする。

 水魔法と火魔法でまたお湯を張り直し、お風呂から出た私たちは、お父さんたちにお休みの挨拶をして私の部屋へと入った。

 ミヤコちゃんのパジャマは私のおさがり。


『我は眠らない。だから、このままじっとしていればいいのだな』

「それはいいけど……眠くないの?」

『つい最近まで長いこと昼寝をしていたからな。でもコルリは眠るがよい。我はコルリの隣にいるだけで十分なのだ』

「……そっか。うん……じゃあ、お言葉に甘えて寝るね。今日は疲れちゃって……。明日またいっぱいお話しようね」

『うむ、楽しみにしておる』

「おやすみ、ミヤコちゃん」

『……おやすみ? コルリ』


 一緒のベッドに横になって、ミヤコちゃんの言葉に改めて驚きながらも、私はもう頭が回らなかった。

 だからそのまま目を閉じると、あっという間に眠りに落ちてしまったみたい。

 ごめんね、ミヤコちゃん。

 でもこの先、ミヤコちゃんがもう〝厄災〟なんて呼ばれて忌避されないように、寂しい思いをしないように、明日からいっぱい楽しもうね。




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