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14.家族団らん

 

「ヒガラさん、いいんですか!? ドラゴンですよ!? 超最悪級の厄災の!」

「まあまあ、そんなに深く考えなくてもいいんじゃないかな? 言葉は通じないけど、コルリとすっかり仲良くなったみたいだし」

「そうそう。ノスリ君には心配をかけてしまって、悪かったね。でも、ほら、家族は多いほうが楽しいしなあ」


 ノスリはお兄ちゃんに詰め寄ったけど、お兄ちゃんはのんびりと答えた。

 たとえ魔法学校を卒業して国の機関で働いてても、こののんびり気質はお父さん似なんだよね。

 お父さんもガハハと笑って、ミヤコちゃんを受け入れてくれているし、お母さんは「ノスリ君、お茶のお代わりはいるかしら?」なんて訊いている。

 そしてドタンバタンと二階で騒がしい音がして、ドタドタと階段を下りてくる音が聞こえた。

 ああ、アトリとセッカは、物置部屋をどれだけ散らかしたんだろう……。


「姉ちゃん! ミヤコの服持ってきたぜ!」

「選んだのはわたしなんだから!」

「見つけたのは俺だよ!」

「はいはい。二人ともご苦労様。素敵な服を持ってきたねえ」


 キッチンに駆けこんできたアトリとセッカが持っていた服は、私が十歳くらいの時に一度だけ着た一張羅だった。

 お隣の金物屋さんのお姉ちゃんの結婚式にお呼ばれした時のやつ。

 うん、なかなかいいのを持ってきたね。

 でも二人が引っ張って破れそうなのを、おばあちゃんが二人を褒めてさり気なく受け取った。ナイス、おばあちゃん。

 すると、お母さんが「そういえば下着もいるわね。この間のバーゲンで、セッカ用に少し早いけど買ったのがあったわ……」と呟きながらキッチンを出ていった。


『コルリ、皆が騒がしくて何が何だかわからんぞ。どうなっているんだ?』

「あのね、アトリとセッカがミヤコちゃん用の服を持ってきてくれたの。私が昔着ていたものだけど、いいかな?」

『ふむ。我は何でもよいぞ。このままでもよいが、皆の好意を無碍にはできぬからな。しかもコルリの着ていたものなのなら、大歓迎である』


 ノスリとお兄ちゃんの会話はとりあえず省いて説明した。

 だって、自分が邪魔者だとか思ってほしくないしね。

 まだノスリとお兄ちゃんとお父さんは何か話しているけど、そうこうしているうちにお母さんがキッチンに戻ってきた。

 笑っているけど、たぶん怒ってる。

 双子たちが散らかした物置のせいだな。でもノスリの手前、怒れないんだ。


「これなら、ミヤコちゃんに合うと思うんだけど……」

「ありがとう、お母さん。じゃあ、ちょトあっちの部屋で着替えてクルね。――ミヤコちゃん、こっちに来て。服を着替えよう」

『うむ。我はコルリについてどこへでも行くぞ』


 お父さんたち男性陣はまだ何か話していたけれど、私はお母さんと一緒にミヤコちゃんを別室に連れて行って着替えてもらうことにした。

 下着に慣れないからか、ミヤコちゃんはちょっとだけ気持ち悪そう。


「ミヤコちゃん、そのうち慣れるから我慢してね」

『うむ。大丈夫だ』

「まあ、本当にミヤコちゃんは綺麗ねえ。すごく似合うわ。ミヤコちゃんがうちの子になってくれて、嬉しいわねえ」

『むむ? コルリの母は何と言ったのだ?』

「ミヤコちゃんがとっても綺麗だって。それから、家族になってくれて嬉しいって」

『……そうか。我も嬉しいぞ』


 お母さんの言葉を訳すと、ミヤコちゃんの陶器のような白い肌がほんのり赤く染まった。

 ああ、喜んでる。しかも照れてる。

 アトリやセッカも可愛い弟妹だけど、ミヤコちゃんもまた違った可愛さがあって、大切にしたいって思う。


「残念なのは、ミヤコちゃんが何を話しているのかわからないってことよねえ。コルリの言葉も……そうねえ、五歳くらいまでコルリが口にしていた言葉と同じに聞こえるわ。コルリはドラゴン語を話していたのね」

「そっカ……。そうなのカモ……」


 しみじみと呟くお母さんの言葉に気付いた。

 私は今までどうして前世の記憶があるんだろうって思ってたけど、その理由がわかった気がする。

 もしこの世界に神様がいるのなら、ミヤコちゃんの孤独を見ていられなかったんじゃないかな。

 それで言葉が通じる〝私〟を転生させたとか……って、考えすぎか。

 まあ、いいや。


「ミヤコちゃんは、私の大切な友達だからね!」

『う、うむ。コルリも我の……大切な友達だ』


 ああ、可愛い。

 おかしい。私にそんな属性はなかったはずなのに、こんなにミヤコちゃんが可愛いなんて。

 まさか魅了の魔法でも使っているのかもって思うくらい。

 でもいいや。


「あら、何を話しているの? お母さんにも教えて」

「ミヤコちゃんと友情ヲ確かめ合っテたノ」

「ええ、ずるいわー。お母さんも入れてほしい。でも年齢という壁があるなら仕方ないわね。ミヤコちゃんのお友達にはなれなくても、お母さんにはなれるもの。だから、ミヤコちゃんに私のことはお母さんって思ってねって、伝えてくれる? みんなのことも家族だって」

「うん、わかっタ。——ミヤコちゃん。お母さんがね、ミヤコちゃんはもう家族だから、お母さんだと思ってねって。お父さんもおばあちゃんも、ミヤコちゃんの家族。もちろんお兄ちゃんはお兄ちゃんで、アトリは弟、セッカは妹だよ。言葉は通じなくても、そう思ってくれる?」

『我の……かぞく。……うむ、了解したぞ』


 家族って言葉をゆっくり口にして、それから笑ったミヤコちゃんは、それはもう可愛くて。

 あ、お母さんまできゅんきゅんしてる。


「ミヤコちゃん!」

「あ、お母さん、ずるい!」

『く……苦しいぞ……』


 たまらなくなったらしいお母さんがミヤコちゃんを抱きしめるから、私も一緒になって抱きしめる。

 そこにセッカが入ってきて、「あ!」と声を上げて、一緒になった。


「わたしもまぜて~」


 女同士できゃっきゃしてると、今度はおばあちゃんがやってきて、やれやれとため息を吐いた。


「セッカ、お前まで何をしているんだい? お母さんたちを呼んでおいでと言っただろう? ほら、コルリもミャーゴちゃんも。ご飯の用意ができたよ」

「あら、お母さん。ごめんなさい、お任せしちゃって」


 そう言いながら、お母さんが立ち上がった。

 そうか、晩御飯はまだだったんだ。

 確かに娘がドラゴンに攫われて、ご飯を食べる気にはなれないか。


「ごめんネ、セッカ。お腹すいたヨネ?」

「ううん、大丈夫。お姉ちゃんが無事に帰ってきたんだもん。それに、ミヤコちゃんを連れて帰ってくれるなんて、お姉ちゃん上出来!」


 ああ、なんだろう。この生意気さ。セッカも可愛いぞ。

 お母さんは抜けちゃったけど、さらにセッカとミヤコちゃんを一緒に抱きしめていたら、二人からきゃっきゃと悲鳴が上がった。


「こら、コルリ! いい加減にしなさい! みんな待ってるんだから!」

「はい、ごめんナさい」


 さっきまで一緒になって抱きしめていたお母さんに怒られた。

 でも待たせたのは本当だからね。みんな、ごめん。

 心の中で謝ると、なぜか私のお腹がグーとなって、返事をした。

 お前じゃないよ。




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