君が生まれてきてくれて
「誕生日おめでとう」
家に戻って、第一声がそれだった。ヴィーヴァスは瞳をぱちくりとまたたいた。そのきょとんとした顔に微笑みながら、ジュノーはもう一度先程の言葉を紡ぐ。
「今日はヴィヴの誕生日だったね。おめでとう!」
「え…?オレ…?」
まだ何事か理解していない様子の彼に、キッチンからセツナが出てきた。腰にエプロンを着けて、両手に湯気のたつ料理の載った大皿を持って。
「そーよー。今日はあんたの誕生日だっていうじゃない。あたしたち奮発しちゃったわよ」
「へ?え?」
ね、とジュノーはにっこりと笑った。
ここで暮らし始めて何年経っただろう。すっかり背も伸びて青年らしくなったヴィーヴァスは、初めて出会った頃のような少年の顔で首を傾げた。
「もう、誕生日なんて忘れちまったけど…」
その言葉に同じくキッチンから出てきたナギがふうん、と返した。
「人間って、自分の生まれた日を忘れるの?」
「ん、んなわけねーだろ!!」
ただ、ここには日にちを記すものが無くて、毎日日が昇って沈んでを繰り返すうちに数えるのをやめてしまっただけだ。いつも正確に覚えているのは、共に住む彼ら三人のアンドロイドだけだ。モゴモゴと口の中で言い訳をしているヴィーヴァスに、ジュノーは笑みを深くした。
「何歳になった?ヴィヴ」
「え…」
そういえば、いくつになったんだろう。砂漠だらけの世界もようやく緑に溢れて、四季も少しずつはっきりとしてきた。けれど、それもごく最近の事のように思えるし、ずっと昔の事のようにも思える。
「バカね、分かるわけないじゃない」
「あて」
無言になってしまったヴィーヴァスを見て、セツナはため息をつきながらジュノーを小突いた。それもそうか、とジュノーはへらっと笑う。
「君は二十歳になったんだよ」
おめでとう、と再度繰り返した。
「へ?オレ?」
「そーよー?やっと酒飲み仲間が増えたわね」
「やっと大人ね」
セツナはにかっと笑い、ナギも微かではあったが微笑んでいた。
「長年の計画がやっと果たせたわ」
ふう、とセツナは額をぬぐう仕草をする。
「そうそう。ヴィヴを驚かそうって」
「カレンダーまで取っ払って、お姉ちゃん」
いつのまにか日にちが分からなくなっていたのは彼らの仕業だったのか。変に脱力感を感じ、ヴィーヴァスは力なく笑った。
「あー、もー。なんなんだよー」
「成功、ってね!」
にかっと笑ってブイサインをするセツナ。ちらりとナギを見ると、彼女もほのかな笑みをたたえていた。
「誕生パーティー、やるわよーー!!」
ほら、お酒!とセツナは諸手を上げた。ジュノーは苦笑いをしてキッチンへと酒を取りに引っ込む。ナギも無言でシャンパングラスを4つ取り出した。
例え血が繋がっていなくとも大切な家族だから。
君が生まれてきて、僕らに出逢って。こんな奇跡みたいな偶然、誰にお礼を言えばいいのだろう?
でも。生まれてきてくれてありがとう。
もう一度。おめでとう。
誕生日を迎えた貴方も、まだこれからの貴方も。
貴方が生まれてきて、世界が広がった人が必ずいるはず。その人はもう出逢ったかもしれないし、まだこれからかもしれない。
ほんの少しの事象が積み重なってできた事象を、奇跡と呼ばずして何とするか。
生まれたことを嘆く勿れ。そんな貴方に贈りたい。