使用人追加
朗報。
リェーンが素材袋を貸してくれることになった。
リェーンの手持ちの素材袋は異空間に繋がるタイプなのだ、羨ましい。貧乏生活してたわりには高級品持ってるなぁ。これを売れば生活がマシになったんじゃ?
この素材袋を作るには時空魔法で異空間の魔法を覚えるか、覚えている人を雇う形になるらしいが、異空間の魔法を使える人はかなり少ないので費用がすごく掛かる。そのためそれまでの繋ぎにとリェーンの私物を貸してくれるという話になったのだ。
正直すごく助かる。今までは素材袋がいっぱいになったらその都度戻っていたから、これがあれば戻る手間が省ける。無限に入るわけじゃないけど、よほど大きなモンスターでもない限り数日間分の素材を詰め込むくらいなら余裕だし。解体もとりあえずは素材袋の口に入る大きさにすればいいだけだし、今まで捨ててた分も持って帰れるしで結局のところ、収入が倍以上になった。リェーン様様だね。
製造計画表をリェーンに渡し、迷宮から戻ってその返信を確認。半分くらいがすぐには出来ないとの回答。魔法を覚えている人を雇う、というのが思っていた以上に難しいことのようだ。もしかして雇うより私が覚える方が早い?
とりあえず最優先の温泉石を使った浴槽の詳細を確認。……うん、物自体よりも輸送費が高い!!
「直接行って買った方が安上がり?」
「商人の伝手があれば……。ないなら注文した方が確実だと思います」
うーん……あ、コジローかアカネ、伝手とかないかな。っていうか出来れば帰省のついでにでも買って来て欲しい。ちょっと聞いてみよう。
「あるわよ」
「マジで? けっこうな量が欲しいんだけど、どうにかなる?」
「ちょうど今度の連休戻るわ」
「やったー! アカネマジ神だわ!」
「その代わり」
「その代わり?」
「……ちょっと温泉借りられたらなあって」
そんな恥ずかしそうにしなくても。コジロー関連以外では初めて見たな。
寮、シャワーだからね。今なら部屋も空いてるし、休憩室も作っておくよ……。
ゴールデンウィーク後は浴槽第一になるから、それまでに台所と休憩室という名の和室を整えておきたいよね。冬はここがこたつ部屋になる。
リェーンは冷蔵庫や窯などの台所設備と念願の肉焼き器、オネエにはリェーンの服と休憩室を頼んだ。サオンは掃除洗濯全般。
素材袋を借りられたおかげで、稼ぎがぐんと上がった。これなら使用人の数が増やせるだろうか。
「ねぇオネエ。使用人を増やそうかと思うんだけど、どう思う?」
「そうですね。庭師と料理人とメイドが各一人は欲しいですね」
「三人……はちょっときつくない?」
「では料理の出来るメイドと庭を弄れるメイドの二人でどうでしょう。新しく料理人と庭師を雇えるようになればメイドに専念、それまでは兼任という形で」
おぉ、それはいいかも。
「オネエがいたところに行ってみようか」
「そうですね……。この件はあたしに任せて頂けますか?」
「へ? うん、じゃあ任せた」
オネエなら金銭的にどうにかなるようにしてくれるしね。
そして翌日、メイドが二人やって来た。仕事早っ!
「銀髪がシシー、赤毛がプフです」
「セリカです、よろしくね」
銀髪の長い髪をお団子にした垂れ目の女の子と、くるくるした赤毛につり目がちの女の子。この二人は共に十四歳、教会横に併設されている孤児院の子供たちらしい。十五になるまで正式に働けないのでそれまではお試しというか何というか。
「神父と知り合いなので色々融通が利くんです」
オネエ、何者?
二人の教育はオネエが受け持ってくれるらしいが、ちょっとオーバーワークじゃない? 大丈夫?
「元々孤児院で料理も掃除もしていますし難しくないと思いますよ」
それはそうか。
今のところ貴族の訪問もないし家事さえ熟してもらえれば問題ないよね。
二人一部屋ということで使用人部屋を整え、メイド服はオネエに頼む。銀髪と赤髪かぁ……。せっかくだから次の使用人は緑とか青とかいないカラーがいいなぁ。メイド戦隊とかいいよね。戦うメイドさん、素敵。
合計で三人も増えたんだし、今週末辺りに歓迎会という名のバーベキューでもするか。もうそろそろリェーンの胃袋も元気になっていることだろうし。そうと決まれば美味しいモンスター肉を狩って来なければ。
週末は迷宮の十七階でたまに見掛ける猪に似たモンスターと、草原でたまに見掛ける鳥類の肉が欲しかったので二手に分かれて狩りをすることに。オネエと草原から戻るとすでに二人は戻っていて、解体も魚介の買い出しも終わっていた。
オネエに鳥の解体を担当してもらい、私はバーベキューの下準備に回る。野菜を切って肉と一緒に串刺しにするのだ。でかい肉の塊をそのまま焼いて切り分けるのもいいよね。あとはおにぎり、焼きうどんも用意。
さて焼き始めるか。今日も私は肉焼き係。
焼き上がる頃に乾杯して、自己紹介。スケッチはここに住むわけじゃないけど、顔を合わせる機会は多そうだし。
「そういえばスケッチ。あの二人組、あの後どんな様子? 大丈夫?」
「絡まれなくはなったんだけど……」
「だけど?」
「セリカさんに弟子にしてほしいって」
「は?」
「セリカさんがハンターやってること、ばれてた。僕んちに来たときに見掛けたみたいで……。一応メリルの時に嫌がってたし、弟子は難しいと思うよって言っておいたけど」
「弟子はちょっと。……苛められてたわりには仲良しね」
「う……まぁ、謝ってくれたし……それに小さいころとか、あの二人がいなかったら僕一人だっただろうし」
「スケッチ……友達少ないな」
「セリカさんには言われたくないかな」
違いない。
それにしても私の周りの人って友達少ない人多くないか?
アカネとかコジローとか。それとも貴族がそんなものなのか。
「あの二人は僕よりはるかに剣術も出来るけど、それでも騎士に絶対なれるかっていうとそうでもないんだって。学園に入る前にそう言われたらしくって、何というか、憂さ晴らしというか、ストレス解消というか、そういう感じで……」
いじめの原因は憂さ晴らし、ストレス解消ってのはよく聞く話ではあるが。
「まぁスケッチが許すんならそれでいいけど」
「セリカさん厳しいけどって言ったらむしろそれがいいって」
「……ドMか。あれだけ私に怯えてたのに」
「一人はむしろ下僕がいいって言ってた」
「本物!?」
私は弟子も下僕も募集していない!
「とりあえず断っといて……」
「うん」
「あー、スキルの伸びが悪くなったって話なら、草原にでも行ってモンスター狩ってみたらいいんじゃない? コジローもスランプでハンター始めたし」
「草原かぁ……うん、伝えてみる」
草原より迷宮の方が効率もいいんだけど、さすがにそんなに推薦してもねぇ……。パーティ組む羽目になりそうだし、面倒。さすがに誰でも彼でも秘密を明かすわけにはいかないし。スケッチが面倒をみるっていうなら別行動してもいいけど、スケッチはスケッチで行き詰っても困る。
「そろそろ焼うどん作ろうか」
やっぱり石板はいいなぁ。女の子が増えたし、今度パンケーキとかクレープを焼くのも楽しそうだよね。




