進級
運命のクラス替えの日。私は無事Aクラス残留となった。というか顔を覚えているAクラスの面々は全員揃っている気がする。きっとほとんど変わってないんだろう。まぁフェリシー様とユーリー様が一緒であれば何の問題もない。
初日はお決まりの学園長の話と講義内容の説明で終わった。講義内容が大分変っているようなので楽しみだ。用紙の提出は明日の入学式まで。何にしようかな。
翌日は入学式で、在校生はその後に魔力検査があった。去年の試験日時点では213だった。今年は426。ニ倍になっていてちょっとテンションが上がった。もしかして来年は852? いや期待しちゃだめだな……639の可能性もある。
その翌日から講義が始まった。
「うむ、やはりこのメンバーか! 今年度もよろしく頼む!」
基礎の時間なのだが、メンバーが変わっていない。少なくともドーリス様が加わってるだろうと思ってたんだけど……。
「そのことなんだけどね。実は基礎の講義の希望者が多すぎて段階を分けることになったんだ。他の魔法実技で最低でも色変えが出来た人から、このクラスに参加することになる」
ほー?
まぁレベル差があると面倒だもんね。初級中級と分けた方が効率が良い。
「君たちも他の魔法実技でわかると思うけど……今年は結構内容が充実してるからおもしろいと思うよ」
「あのスキルで覚えた魔法使うだけー、の内容ではないんですか?」
「うん。今年から色々変わってね。……対校戦で勝ちたいってのもあるんだけど」
へー。
何だか期待出来そうだ。対人戦もありそうだよね? 楽しみ! ユーリー様と違う選択になってたらいいなぁ。
「今年は両方に王族がいるからね。本人にその気はないみたいだけど」
両方? ナビールとサービオにってことよね。それは確かに気を遣いそうというかなんというか。ナビールにいるシルヴァン様はぼんやりしてるからね、競争意識もなさそうだ。
「少なくとも今月はこのメンバーのままだろうね。あとは来月、魔法院に見学に行く予定があるってことくらいかな。じゃ、始めようか」
今さらっと魔法院って言ったな。ドーリス様がこのクラスに来てからじゃないと面倒なことになりそうだ……。
一年の時は大きさや色、小さい動きをメインにやっていたが、今年はスキルに設定していない魔法を一から構築したい。それも属性魔法ではなく生活系のスキルの魔法を。魔力の視覚化と物理攻撃に魔力を使うっていうのもやってみたいけど、まずは一からだよね。基本が出来ないのにオリジナルに手を出すのは順番が違うっていうか。他の三人も最初の目標は同じ。まだ一つ二つしか使えないのでそれを増やしていくという算段だ。
去年と同じで騒がしい講義が終わり、次は実技。今年は弓術をとるつもりだったのだが、エフィムに貰った機械弓は実技にちょっと向かないので予定変更。リオンお兄様に剣を頂いているので剣術を取るべきか悩んだけど、去年が面白くなさすぎたのでやめ、結局馬術とその他を選んだ。
刀の指導が出来る人がいないとは聞いていたけど、無駄に過ごすよりは私が入ってコジローとガチバトル出来れば楽しいだろうと思ったのだ。
その他にはコジローとアカネ、意外なことにドーリス様もいる。
「ドーリス様もその他を選ばれたんですね。何の武器を……」
噴出さなかった私、えらい。
やばいよぴったりだよ最高だよ!
ドーリス様の手には黒い鞭がしっかりと握られている。
鞭だよ、鞭!!
「……鞭、お得意なんですか?」
「えぇ」
何で鞭を選んだのかものすごく聞きたいんですが! ドーリス様、素敵です! 私の好感度あげてどうするつもり!
「貴女と一緒なら楽しくなりそうだわ」
「私も楽しみですわ」
ドーリス様の鞭捌きが!
「その他を選んだのか。……Aクラスは二人だけだな」
「うん、コジローとアカネと試合したいなって。Aクラスは剣術と馬術に集中してるからね」
「騎士を目指す方はその二つが重要ですからね。貴男は騎士を目指しておりませんの?」
「卒業後は東ノ島に戻り魔法士になると決めている」
「あぁ、東ノ島の方でしたのね」
アカネがじっとドーリス様を睨んでいる。
やきもち焼いてないで一緒に話せばいいのに。かまくらで会っているので初対面ではないし、不自然じゃないと思うよ。
最初におじいちゃん先生の自己紹介と挨拶があった。御年八十九歳。この世界って定年退職ないの? 杖を突いてゆっくり歩いてるけど、棒を持った時だけ機敏。どういうこと?
「見ての通り棒術しか教えて頂けないのだが、自由に試合が出来るのは利点だ」
……それは良かった。
延々素振りは嫌だからね。互角に戦える人がいるから楽しく過ごせそうだ。
「今年は楽しくなりそうだ」
「指導がなくても試合出来るのは楽しいよね」
ケガをしても自分で治せるしアカネもいるし、わりと本気でやってもいいよね。
午後からは時空魔法の実技だ。今年から週に一回以上、好きな時間を選ぶという方式ではなくなったらしい。残念。あんまりサボる気はなかったけど、何かあったら調整出来るて良かったのに。
「メリルも時空取ったんだね」
「うん」
時空にいる顔見知りはメリルとドーリス様で去年と同じようだ。なぜか私を挟んで両隣に座る。
講師は去年と同じ。基礎もそうだったし、講師は一緒に持ち上がるのかな。
初日は前半が授業内容の説明で後半が理論、最後の五分だけが実技だった。要するに基礎、理論を学びそれを意識して実行する、というスタイルらしい。でも大半がうまく行ってない。大丈夫か? これ。
4コマ目は工作・芸術系の選択講義だ。去年は魔道具制作を選んでいたけど、今年は新たに増えたダンスを選んだ。魔道具制作が一年の時と同じ内容をするということでそそられず、ダンスの担当講師から声を掛けられたからだ。クリスマスパーティーの剣舞がお気に召したらしく、剣舞の出来る人全員に声を掛けているらしい。よってエフィムとアルベール様が一緒だ。他にもコジローとアカネがダンスを選んでいる。ダンスのパラメータが足りず剣舞はまだだが、剣舞を覚えたいそうだ。……アカネはコジローがいるからだろうけど。一年生にも今年からはダンスが加わって、見学者もやって来た。これを見られるのってちょっと恥ずかしいな。
翌日の午後は、新入生の見学が来るのでどの倶楽部も活動することになっている。私はもちろん武器愛好倶楽部は休み、ダーツ倶楽部に参加だ。
だけどダーツ倶楽部は表立って募集をかけていない。ユーリー様は倶楽部員を増やす気がないようだ。事前に案内にも載せないようにしたらしく、新入生が見学に来ることもなかった。
てっきりパーヴェルの妹が来ると思ったんだけど。もしかしてヤツが言うほどユーリー様と妹の仲は親密ではないのかもしれない。




