協力者
二日間は今まで通りに過ごし、三日後。ようやく狩りの日がやって来た!
前回と同じように長袖のハイネックにチェック柄のパンツ、革のブーツ。ポンチョはベージュ。それと今回は前回汚してしまったポンチョを鞄の中に入れて持って行く。解体する時に着替えようと思う。
前回と同じ馬を借りていざ出発。今日は雑木林の少し先にある山に行くらしい。山といっても緩やかな傾斜で、ある程度人の手も入っており、登山というほどではないようだ。
「肉食モンスターもいるんだよ。でも小型だし危なくないかな」
草食はあまり危険はなく、肉食は危険という認識なのかな。ということは、肉食は人間も食べるということか? ふはは逆に食ってやんよかかってこいやぁ!
気づかない内ににやにやしてたのか、ダーヴィトお兄様が何とも言えないような顔をしていた。ごめんて。
山の麓の休憩所に馬を置き、弓と短剣を持って山に登る。ポンチョは念の為、先に着替えておく。
「襲ってきたモンスターは好きに攻撃していいよ。俺がフォローするから」
スキルは短剣と体術、弓術、馬術、気配察知、ジャンプ、ステップ、ダッシュ、解体、料理にしてある。隠身はモンスターが寄って来ないかもしれないし、魔法系スキルは設定しててもどうせ使えない。
猪のようなモンスターが突進してきた。それを避けて短剣で切りつける。傷は浅い。もう一度、今度は心臓目掛けて短剣を突き刺した。でも心臓ってどこにあるの? おおよその場所はわかるけどさ。結局お兄様が長剣でトドメを刺した。
「これは草食モンスターなんだけど、攻撃性があるタイプだね。牙だけ取っておこうか」
短剣を回収して牙を抉りとった。専用の布で短剣を拭いておく。
「帰りに死体を食べている肉食にあえるかもね」
それは楽しみだ。
「町の猟師の狩場にもなっているから、道が出来てて登るのが楽だろ?」
「はい」
町か。教会の近くには建物がちらほら見えたし、あの辺りが町だろうか。行ってみたいな。
ふと気配を感じ、警戒態勢につく。地面を踏みしめる音と、唸り声。定番の野犬型モンスターが現れた。姿勢が低く素早そうなので戦いにくそうな相手だ。
向かってきた犬を避け、素早く切りつける。後ろ左足の付け根のあたりに、薄らと傷が出来た。着地した犬はすぐさま振り返り向かってくる。思ったんだけどこの短剣、殺傷能力低すぎなんじゃないだろうか。
向かってくる、避ける、切りつけるを何度か繰り返していると、犬が今までにない態勢をとった。犬から煙のようなものが出ている。
「さすがに危ないかな。セリカ、変わろう」
お兄様が剣を構える。犬の煙がさらに大きくなり、口から炎を吐いた。えぇー……。
迎え撃つお兄様は剣に風を纏わせて、その炎を振り払った。振り払われた炎は雲散し、怯んだ犬を剣で両断。
「戦闘が長引くと炎を吐いてくるんだ」
大きな牙と爪を抉り、回収する。
「牙とか爪とか、どうするんですか?」
「ギルドで売れるんだ。加工して矢尻とか、釣り針になったりするね。もう少し登ったら休憩にしようか。木の上に隠れてる鳥を射てみて」
「はい」
弓を構え、木の枝に止まっている鳥を射る。
「うん、やっぱり上手いね。短剣も悪くはないけど、弓の方が向いてる」
前衛希望なんだけど。短剣より弓の方がパラメータ上だし、仕方ないのかもしれないけど。
鳥を解体、今回は薄切りにして平たい石の上で焼く。山の中腹にあるこの休憩所には、野営用の小屋や調理用の石や湧水が置いてある。小さな山なので必要なさそうだが、夜行性のモンスターを狩る時用に用意したのだそうだ。
薄切りの肉に塩胡椒をたっぷりとかけ、レタスとハーブとともにパンに挟み込む。フランスパンほど固くない、さっくりとしたパンにシャキシャキのレタス、香ばしい肉がよく合う。カイワレのようなハーブの辛味が、良いアクセントとなっている。
もしゃもしゃと平らげ、二個目に突入。三個食べたところでご馳走様。
「はい、紅茶。美味しかった?」
「はい、とても! ありがとうございます」
熱い紅茶を飲んで一息。
料理スキルがあればもっと美味しいものが作れるというのだから、頑張らなくては。野営で携帯食料食べるのと熱々の美味しい料理を食べるのは雲泥の差だろう。
「それで本題に入るけど、君は誰? 君の目的は何かな?」
「え?」
喉元に突き付けられた長剣を凝視し、ぱちくりと瞬く。お兄様が何をおっしゃっているのかわかりません、というスタンスで。
「しらばっくれなくても良いよ。嫌いなはずのハーブを美味しいと言って平らげる? 我慢して食べるにしても三個は食べないだろ? それに何でスキルがある? まだ十三歳のはずなのに。セリカが死んだ日に入れ替わったんだろ?」
バレバレじゃないですか。っていうか何でスキルがあることがバレたんだ? 誰かの前で技や魔法は一切使ってないというのに。
「昨晩、隠身を使って何をしていた?」
「洗濯ですわ」
「は?」
そういや洗濯してたわー。でも隠身使ってたらわかるの? 隠身の意味なくない?
「私はセリカですわ、お兄様。目的は一つ、最強のハンターになること」
「本当のことを言え」
剣先が喉に食い込む。息し難いんですが。話し難いんですが。
「剣が邪魔でお話し為難いですわ」
剣を払い除け、すかさず紅茶をぶっ掛けた。ふはははは熱かろう! 怯んだ隙に背後に周り、首に腕を回し、地面に押さえ付けた。これくらいならスキルなんて必要ないわ! 伊達に親子喧嘩で鍛えてないぜ。
「調子にのんなよクソガキが。かわいい、かわいい、妹様に何してくれてんの? この美しい顔に傷でも付けたら捻り潰して使いもんにならなくした挙句、違う場所開発して売っぱらうぞ、あぁ?」
ドスを効かせて脅すと、お兄様の顔から血の気がひいた。
「ヘルプコール」
『はいはーい、お呼びですかー?』
「ねぇ、バレちゃった場合って何かペナルティあるの?」
『ないですよー。中には親しくなった人に教えたいって人もいますし』
「ふぅん。じゃあさ、ちょっとこっち来てこの人に説明してあげてくれない? そっちの方が手っ取り早そう」
『了解しましたー!』
天使降臨。淡く光ながら、金髪巻き毛の天使が舞い降りた。お兄様はぽかんと口を開けたまま、それに見とれている。
「はじめましてー、神の御使いのミツカですー」
未だ拘束されたままのお兄様に、ぺこりとお辞儀。
「実はですねー、ここにいるセリカさんは、体は貴方の妹のセリカさんですが、中身は神に選ばれし異世界の人間・セリカさんなのですー!」
何だこのわかりにくい説明は。
「え? わかりにくいですか? えっと、セリカさん死んじゃったんで中身入れ替えて復活させました! ……これでどうですか?」
「お兄様、理解出来ました?」
こくこくと頷くので、とりあえず解放した。
解放したというのに跪き、頭を垂れている。天使に対して。
「御使い様! どうかご無礼をお許し下さい!」
「かまいませんよー。その代わり、貴方に使命を与えます」
「はい、何なりと!」
えぇー……。なにコレちょっとひいた。
「これですよ、これ。御使いの扱いは本当はこうなんですよ、セリカさん! なのに日本の方ってどうもありがたみがないっていうか」
「はぁ」
ニヤケ顔でくねくねしてる天使を、さめた目で見つめる。
「では、ダーヴィト・フィーアト・アデュライトさん。貴方に使命を与えます。ここにいるセリカ・フィーアト・アデュライトさんの助けになってください」
「はい! えぇと、具体的にどういったことを?」
「セリカさんは最強のハンターになりたいそうなんです。そのためにスキルはもう与えています。最強はともかく、ハンターになるには試験もあるし、推薦も必要でしょう。そのあたりのフォローをお願いします。あとは、セリカさんの望みを良識の範囲内で叶えてあげてください」
「かしこまりました!」
「ふっふっふ。この世界で神聖魔法持ちってことは、大体信仰心の高い人なんですよ。つまりボクえらい!」
「いや意味わからないから」
そもそも偉いのって神様なんじゃ?
「ともかく協力者が出来て良かったですねー。では、ダーヴィト・フィーアト・アデュライトさん、セリカさんを頼みましたよ。お二人に神の祝福を!」
天使の手から光が溢れ、私とお兄様に降り注ぐ。お兄様は感極まって涙まで流している。無宗教な私にはよくわからないが、すごいありがたいことなんだろう。
「セリカ様!」
がしっと手を掴まれた。様って何だ。
「俺、頑張ります! 何でも言ってください!」
何でそんなに必死なの。怖い。っていうか近いですお兄様。
「ありがとうございます、お兄様。とりあえず手ぇ離せや」
お兄様はびくりと震え、慌てて手を離した。
「えぇっと……セリカ様?」
「セリカで結構です。周りの人に不審がられそうな態度は謹んでくださいね」
「はい!」
いや、はい、じゃないだろう……。
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