ダンスの練習
いつも通りこっそり一人で迷宮に潜って帰宅した平日。それは起こった。
「かわいい……」
手狭になったのか何なのか、魔糸蜘蛛のクラウドとレインが親子亀のように重なっている。何これかわいい。そしてなんと! もう一匹増えて、レインの上にちょこんと乗っているのだ。
「やっぱり生んだのかなぁ」
謎すぎる。魔糸蜘蛛。
「はいはい、セリカ様。いつまでも見てないで早く試着してください」
「はーい」
オネエに急かされ、二着のドレスを試着する。
クリスマス用のドレスはワインレッドにゴールドの刺繍が入っている。
「派手じゃない?」
「いいえ、全然。完璧です」
「……ありがと。次はスケッチのか。間に合う?」
オネエはもともと派手なものを好むから、ちょっと疑わしい。
「もうすぐ仮縫いが終わりますから余裕ですよ」
おー、さすが。仕事早い。
つい数日前に採寸したばっかりなのにね。
「あ、おちびの名前はスノウしよう」
「……そんな気がしてました」
バレてたか。
「とりあえず日曜日は迷宮に行く前にスケッチに試着出来るか、土曜日に訊ねてみましょう」
「仮縫い……家はちょっと……」
どうやら先週は大変だったらしい。ご家族からすれば家に来た初の女友達になり、しかも中位の貴族とあって大騒ぎ。
「まさかあんなに騒がれると思ってなくて……」
うんざりといった風に溜息を吐いた。
「んー、じゃあ明後日の基礎が始まる前にぱぱっとやっちゃう? 休憩時間の間にさ」
基礎なら人数が少ないし、事情を話せば少しの間講義室を空けることなんて簡単だ。
「そうしてくれると助かる……」
「んじゃそうしよ。オネエもそれでいいよね?」
「はい。準備しておきますね」
「よし、そうと決まれば迷宮行こう! 地図買わなきゃ、地図!」
予想通り二十五階まで潜れるようになってる! 地図高っ!
迷宮の地図は進めば進むほど高価になっていくのだ。だけど買わないという選択肢はない。迷子は嫌だしマッピングは面倒だし。ランクがもっと上がったら考える。
「よしよし罠はないね」
罠解除も上げていきたいけど、罠がない方が順調に進めるからね。
初回なので二十階まで転移して、二十五階まで隈なく探索しながら下りて行くことにした。踏破済なので罠や宝箱があるわけじゃないんだけどね。気分だ気分。
二十一階、二十二階とニ十階と特に変わりなく進む。二十三階まで下りてようやく変化が訪れた。
「初めて見るモンスターだ!」
薄い橙色の針鼠に見える。針が立ってるけど、あれもしかして飛んでくる?
わくわくしながら観察していると、オネエに邪魔された。
「観察は無理ですよ、雷撃が来ます」
「雷撃? 針は飛んで来ない?」
「あれは飛びませんよ……」
「えぇ……黄色じゃないくせに」
残念。
「セリカさん、やっぱり来年モンスター学取った方が良いと思う……」
「えぇ……」
他にも新しいモンスターと多く対峙した。
ニ十階以下、やっぱり楽しい!
「スケッチ避けて! いけぇっ!」
「うわあっ!?」
前にいたスケッチが私の打ち返した水球を避ける。そのまま水球はモンスターに当たり、壁に押し潰した。よし、ストライク!
「危ないっ! セリカさん危ない!」
「スケッチなら避けてくれるって信じてたよ。よっ、回避王!」
魔法を打ち返すのって楽しい。
細工なしで武器を魔法に当てると、大抵魔法が勝つ。が、武器に魔力をコーティングするとあら不思議! 武器が勝ってしまうのです!
「これやばいわ。スケッチもやろうよ、楽しいよ?」
「せめて練習してから……。セリカさんはいきなり遣り過ぎだと思う……」
別にいきなり思い立って即行動ってわけじゃない。勝手にそうなっただけだし。偶然の産物だ。わざとじゃないし。
充実した二日間を過ごし、オネエの初学内である。別に特別何かあるってわけじゃないけど。
基礎の講義が始まる前に、ささっと試着。私は気にしないけどスケッチが嫌がるので廊下で待機。着替えが終わってから中に入った。
「おー! いいじゃーん!」
背は低いが、すらっとしてるからね。チェック地をちょこちょこ入れてみたけど、やっぱり正解。スケッチはチェック似合うね。
「あ、あとこれもつけてみて!」
魔石を使ったループタイだ。
毎日魔石に祈りを捧げ、けっこうな魔力を注ぎ込んだ代物である。
「ふふーん、自信作なんだー!」
見た目はそれなりだけど性能はなかなかだ。
一回だけしか使えないけど、防御と回復を自動発動。ただし着用者の状態次第ってやつで、要するにピンチの時に発動する切り札的存在……!
「そんな派手じゃないし、パーティー以外にも使ってね!」
ローブの下ならそんなに目立たないし、そもそもシャツならつけててもおかしくないし。
「あ、ありがとう……」
「お、似合う似合う!」
満足満足!
「これであとはダンスでポイントを稼いで彼女ゲットだ!」
「ダンスはちょっと……」
「ダンスって必須じゃないの?」
「うーん……下位はあんまり踊らないと思うし」
「よし、特訓だ!」
ん? 私まだ何も言ってない。
振り向くといつのまにかエフィムが立っていた。
「任せたまえ! ダンスは得意だからな!」
「え……」
スケッチは逃げられない!
「まぁまぁ、私も付き合うよ。ちょうど育てたいスキルがあったんだよね」
付け焼刃だけど、ないよりマシでしょ。パーティーで使えるか微妙だけど、私もやれるだけやってみようっと。




