食堂にて
「セリカ」
「メリル、どうしたの?」
時空魔法の実技の時間にメリルに声を掛けられた。
基礎の時間以外で話し掛けられるのは初めてだ。
「隣、良い?」
「いいけど……」
この時間はフェリシー様もスケッチもいないので、私は一人で座っている。メリルがいることは知ってたけど、元々ひとりが好きなキャラなわけだし、声はかけずにいたのだ。
「良かった」
メリルが笑顔で私の隣の席に座った。笑顔! 初めて見た! かわいい!
軽く感動していると、視線が集中していることに気が付いた。何かものすごく見られてる。メリルが私に話しかけたことが珍しかったからかもしれない。しかも笑顔つき!
私とメリルはそれなりに親しいと思うが、接触するのは主に基礎の時間なので他の人は知らないのだ。それなりに話す私でさえ初めて見る笑顔だ。ひとりを好み無表情で無口なメリルしか知らない人たちは確かに驚くだろう。いやぁ皆、いいもの見たね!
もう一度見たいのか、視線を感じながら魔法実技を終えた。メリルの笑顔は一回きりだったけどね!
「セリカ、この後は?」
「私は食堂に行くけど」
「わたしもいく」
……これは一緒に行こうってことか? 一緒に食べるんだったらちょっとまずいかも。一応口止めしてるしハンターのことは言わないでくれると思うんだけど……。
どうやら一緒に食べるという意味だったらしく、メリルは私の隣に座った。すぐにコジローとアカネも到着。コジローは私の隣に座るメリルを見て、軽く頷いた。ん? 大丈夫ってことか?
「何だ、二人は友人だったか」
「あれ? メリルのこと知ってるの?」
「同じクラスだ」
あ、そうか、三人ともBクラスだったっけ。クラスの話とかしないから忘れてた。
「話したことはないがな」
「セリカと親しいとは思わなかったわ」
メリルはいつでも一人でいるだろうしね。静かに魔法書を読んでいるイメージ。
「どういう、知り合い?」
「二人とも倶楽部が一緒なの」
嘘ではない。知り合ったきっかけは別だけどね。
ハンターに関する話題、つまり迷宮のことも話せないので、当たり障りのないナビール祭の話になった。コジローはずっと剣術大会を観戦していたようで、細かく解説してくれたので実力者の名前を粗方覚えてしまった。やっぱりアルベール様は強いそうだ。
「サービオ学園との対戦もあるし、楽しみだな」
コジローは自分が戦うだけでなく、人の戦うところを見るのも好きなのね。私は自分が戦うのは好きだけど、観戦はあんまり好きじゃない。見てると参加したくなるし。
「サービオの勝ちが続いてるって聞いたけど、今年はどうなの?」
「今年もサービオだ」
そんな断言するくらい実力差があるのか。
皆サービオって言ってるし、そうなんだろうね。
「だが来年は勝ちに行く」
「コジローは出るつもりなの?」
「勿論。個人戦の代表を目指す」
まぁコジローは一年の中で強い方だし、貴族位も高い方だろうし間違いなさそうだよね。
しかし似たような会話をつい最近したような気が……。
「わたしも出たい」
「メリルも? 意外」
メリルはあんまり活動的なイメージがないから出ないかと思った。試合より研究が好きそうなイメージ。
「セリカと団体戦に出たい」
しかも団体戦かぁ。どっちかっていうと個人戦っぽいけど、魔法以外の実技が苦手だから団体戦の方が向いてるかもね。私もちょっと興味はあるけど……やっぱり無理だね。
「……私はちょっと出られないかなぁ」
「セリカなら実力も充分でしょ?」
アカネにナチュラルに褒められた? 最近色んな人にあげられてる感じがして、ちょっと怖い。何かのフラグのような気がしてならないから止めて欲しいんだけど。
「剣術選択してるのもぎりぎりなんだよね。家は私にあんまりそういうことしてほしくないみたいで。最悪学園を辞めさせられるかもしれないし、自重」
今ここでユーリー様の名前出すのはちょっとね。誰が聞いてるかわかんないし。
「残念」
「家の方針なら仕方ないわね」
「残念だ」
まぁ私の代わりに皆が頑張ってくれればいいよ。自分が出なくてもやっぱり勝つと嬉しいし。
魔道具制作で地道に頑張っていたレールが一本完成したので、それを持ってダーツ倶楽部に向かった。設置して、試運転して……うん、問題なし。
しっかしこれを後何個作らないといけないの?
丸型と縦横はまだ増やしたいし、スピードアップもさせたい。もっとランダムに動いて欲しいし……。
かなり面倒だ。やはり専門家に頼むべき?
リェーン・パウペルに連絡取ってまとめて作ってもらって、帰省した時かダーヴィトお兄様がこっちに来るときに持って来てもらえば……どうなのかな?
両方に手紙を書いて可能なら見積もりをお願いしてみよう。
「最近パーヴェルから君の話をよく聞くよ」
「え?」
あ! シスコンか! 誰のことかと思ったわ。
あれから妹自慢をしたいのか、パーヴェル・ストラーウスによく話し掛けられるようになったのだが、心の中でシスコンと呼んでいたからちょっと名前を忘れてた。ユーリー様と仲がいいんだったね。
私の話をよく聞くって言うけど、私の話はしてないし。妹自慢をひたすら聞き流してるだけで。何? 忍耐強いとかそういう話か?
「そうなのですか。パーヴェル様からはシャルロッタ様のお話をよく伺っていますわ」
むしろそれしか話してない。おかげでどんどん詳しくなっている。生まれた時の話から始まるからね。でも当時一歳なんだから覚えてないと思うんだけど。
「私は末っ子ですから、妹がいて羨ましいですわ」
フェリシー様みたいな妹が欲しい。綺麗で華麗でお姉様と慕ってくれたらものすごくかわいいと思うのだ。あ、私もシスコンになりそうだわ。
「そう……」
ユーリー様はそれっきり黙ってしまった。正直ユーリー様と話すのが一番しんどい。何考えてるかわからないんだよね。婚約者だからこそ下手なこと言えない気がしてイマイチ踏み込めない感じだ。何かあったら実家に筒抜けになりそうなところが怖い。
とりあえずサオンと勝負しよう。考えてもわからないことは気にしないのが一番だよね。




