振替休日④
残っていた肉と野草を茹でさっぱりしたパスタで昼食を終え、引き続きエフィムの運転で王都方面へ向かう。
行きとは違う道を通りたいということで、少し細い道だ。旧街道ということでさらに閑散としており、事故率は低いだろう。ただちょっと道が悪いので酔いが心配なところだ。私は酔わないけどね。
ソフォス講師が仮眠しているので大人しく本を読む。メリルに借りた魔法書はまだ読んだことのない高度なもので、読書と火魔法のパラメータがぐんと上がった。
「肉? ……あ、違った」
生物の気配を察知したのに、食用に適さない動物だった。動物でもモンスターでもいいけど食用来いよ!
「なぜ、分かる?」
「気配察知のスキル設定してるからね。学園では必要ないけど便利だよ。……あ、いたいた」
魔動車の窓から機械弓を発射。
「よし、肉! スケッチ、回収お願い」
あの大きさなら一匹いれば充分だろう。ぎりぎりセーフっぽいトマトがあるし煮込みかな。
まだ明るいので回収後もそのまま走る。
「セリカ、すごい」
「え?」
「魔法も剣も弓も上手い。魔動車の運転も出来る」
「ありがとう? メリルも運転覚えたし、すぐ上達するよ」
魔動車の運転は魔力さえあればそんなに難しいものじゃないしね。ソフォス講師より安全な運転が出来ると思うよ。運転する機会がないのが難点かな。
夕食は予定通り、肉を潰したトマトと香草で煮込んだ。茹でたパスタも投入し、スープも作る。いよいよ野菜が少ないな。仕方ないけど。
「朝のスープも一緒の作り方だけど起こした方がいいの?」
「作ってみたい」
メリルはチャレンジ精神旺盛だなぁ。
片付けを済ませ、魔動車の寝袋で就寝。早寝早起きで健康的な生活だ。
目が覚めたので気配を殺して魔動車を出る。朝食づくりにはまだちょっと早いか?
「おはようございます。代わりますよ」
「今日はこのまま待とうかな。珈琲をもらえるかな?」
「はい。エフィムも飲む?」
「頂こう!」
三人分の珈琲を淹れる。
「セリカさんがいてくれて助かるね。魔動車の運転だけじゃなくて珈琲を淹れるのも上手い」
「うむ。魔法にも剣術にも長けていて素晴らしいな!」
……。
なぜあげてくる?
これは何かあるな。私は騙されない、というか流されないぞ。十中八九次の魔動車運転ツアーに違いない。
「朝食を作りますのでメリルを起してきますね」
逃げるが勝ち。
魔動車に入り、スケッチを起さないよう静かにメリルを起した。
「今日は芋入りのスープね。皮を剥いて小さく切って」
鍋に水を張り、玉ねぎを刻む。食材はもう尽きかけで、干し肉と香草しか入らないシンプルなスープだ。
普段なら町に寄って買い物するんだけどね。携帯食しか食べないパーティもいるらしいから、そんなにひどいメニューではないと思うんだけど。
「調味料は予め調合して瓶に入れてるの。何種類も持ってくると荷物になるし、こうしてると使い易いよ」
味付けも簡単だしね。微調整は出来ないけど外で食べるんだし細かいことは気にしない。
「料理スキル、便利?」
「便利だよ。でも魔法院じゃ使わないからメリルはいらないんじゃない? 家に使用人もいるでしょ?」
用意するのは深皿とスプーンだけでいいな。
「調味料は少しずつ入れてね。味見してちょうどいい感じになったら出来上がり」
「ちょうどいい」
「よし。じゃあスケッチ起して来る。メリルは深皿にスープを注いでてね」
朝食を取りつつ今日のコースの確認。
せっかくだし肉が欲しいな。メリルもスープ以外のものを作ってみたいだろうし。残りの食材がパスタしかないからアーリオ一択だけどね。トマトもクリームもない。
片付けを終え、私とメリルが御者席へ。問題なく進んでいたところにモンスターの気配を察知した。
これちょっと大きいな。どれくらいの強さかな?
「セリカさん! 大きい反応があるんだけど!?」
スケッチからも慌てた声で報告が上がった。
さてどうしよう。
「どうする? 突っ込む?」
「このメンバーで!?」
「いやいけるでしょ。余裕でしょ」
「そうじゃなくて……!」
私とスケッチが言い合ってる間に、メリルはそのモンスターの方へと向かっている。
あ、もう気付かれてるわこれ。先手は無理かなー。
この魔動車の防御ってどれくらい効いてるのかね? とりあえず防御しておこう。
「メリル止めて。ちょっと魔動車が心配だからモンスター引き離して来るね。……ソフォス講師! こっちはお願いしますね!」
「セリカさん、フォローは?」
「大丈夫でしょ。スケッチは待機で!」
ソフォス講師の実力知らないから、こっちの方が心配なんだよね。まぁ講師やってるくらいだし強いだろうとは思うけど。そうじゃなかったら引率しないだろうし。
魔動車から走り出して、水の弾を数発撃つ。魔動車から私に意識が向いたことを確認して立ち止まる。この位置なら攻撃を避けても魔動車に影響はないだろう。
いやぁしかし、私って強運だね。隠しステータスにラックあるんじゃない? 対峙しているモンスターはポケットのないカンガルーのような外見。色は濃い茶色。まさしく納品依頼の出ていたモンスター!
「内臓、頂きぃっ!」
内臓に傷つけたくないし、狙うは頭!
避けられた! 魔法で牽制、フェイント混ぜての、頭! よし来た!
勢い良すぎて頭が飛んでいった。
でも用があるのは胴体なんで。内臓なんで。
「おー! 綺麗に取れた!」
やったね! これでポイントが貯まった。次の週末はソロランク試験だな!
「セリカさん、袋」
「ありがと」
「頭はどうするの?」
「食べられるかな?」
「……要らないんじゃないかな。胴体の肉だけ持って帰る? 昼に食べてもいいし」
「そうしようか」
胴体の肉をブロックにして内臓とは別の袋に入れる。
「お待たせ! さ、進もうか」
「師匠」
「は?」
メリル、いきなり何を言い出すんだ。
「弟子入りする」
「は? いやいやいや」
弟子なんていりませんけど!? しかも貴族位が上の弟子とかないわ! 私に何のメリットがある!
「それはいい考えだね!」
「全然いい考えじゃねぇよ!」
結局諦めてもらうのに夕方まで掛かった。




