ゴーレムのいる迷宮
「ハンマーといえばゴーレムでしょ!」
という訳で、ゴーレムいる迷宮に行ってみることにした。鉱石系の素材目当てでもある。
王都の迷宮にはゴーレムがいない。次に近い迷宮は虫の巣、その次に近い迷宮がゴーレムのいる迷宮だ。いつもの迷宮以外にも行きたいなというのが一番の理由で、私としては一番近い虫系の迷宮でもかまわない。まぁでも虫嫌いがいるのをわかってて虫の多い場所に行ってもね。明確な目的があるならともかく、そうじゃないんだし。
魔動車ではなく馬車を借りて、早朝に出発し昼前に到着した。
迷宮傍の街は鉱物の細工が盛んなところで、職人が多い。土産物屋には鉱石の細工が並んでいる。時間もないし今回は見ることが出来ないけど、いつか見てみたいな。安宿を確保して昼食を食べた後はさっそく迷宮に潜る。
入口で地図を買い初めての迷宮なので一階からスタート。
迷宮内透明感のある白色で、王都の迷宮と同じく階段で降りて行くタイプだ。
「うりゃ」
赤い色に黒の斑の入った蛇を踏み潰す。うわ、ブーツ汚れた。もっと踏み潰しやすいブーツが欲しいなぁ。爪先に鉄とか刃がついてるブーツもいいよね。
「蛇が多いね」
スケッチも私と同様に蛇を踏み潰す。
蛇は踏み潰すと簡単に殺せるが、素材が取れなくなる。しかし今回のメインはゴーレムで鉱石狙いなので、蛇の素材は捨てることにしたのだ。
一々綺麗に殺してたら面倒臭いしね。時間もないし。
虫が苦手なサオンだが蛇は平気らしい。平然と踏み潰している。虫も爬虫類も似たようなもんだと思うんだけどなぁ。何が違うのか。
三階に降りて、ようやくゴーレムが現れた。思っていたより小柄。身長は一メートルくらい、横はまぁ太いかな。がっしりした岩のロボットって感じ。
あまり弱い武器だと刃が潰れそうなので、対ゴーレムは私とスケッチが前衛で挑む。サオンは警戒と蛇担当、オネエは補助。動きは早くないが、頑丈。スケッチの相手にはいいかもなぁ。杖を打撃重視で選んでおいて良かった。
ゴーレムは身体の中心に魔石があると聞いたので、倒した後はそこを重点的に金槌で砕く。残った身体の素材も鉱石で出来ているので売買されている。持ち運びしやすい重量じゃないので、買い取り価格の高いものだけを持って帰る予定だ。よってこいつはいらん。
「さすがゴーレム、頑丈ですね」
「手が痺れた……」
一体目で手が痺れただと。今日は夕方ぎりぎりまで粘って五階層まで潜るつもりなんだけど、大丈夫か?ちょっと不安。
……うん、大丈夫じゃなかった。
まぁ回復魔法あるからいいんだけどね。今は前衛やってるとはいえ、一番先にバテるのって絶対にスケッチなんだよなぁ。もうちょっとがんばれよ男子。男子に括っていいのかわからないけど、オネエもあんまり体力ないんだよね。ただオネエは動きに無駄がないし、後衛だから耐えてるけど。
五階層到着までに十一体を倒し、うち二体の鉱物素材を確保。一日目の成果は上々。馬車代、宿代、食事代、地図代を余裕で回収出来た。
「ハンマーといえばびりびりハンマーでしょ!」
武器に魔法付与は浪漫。
スケッチが私を何言ってんだコイツ、みたいな目で見ている。スケッチの癖に生意気だ。オネエはスルー、サオンは苦笑い。えー、もうちょっとリアクションしてくれてもいいんじゃない?
とりあえず付与魔法で雷を纏わせればいいだけなので、魔法耐性のある武器なら可能である。私のハンマーは大丈夫なので、せっかくだし今日試してみようと思う。ただゴーレムに効果的かと聞かれても答えられないのであった。
「せいっ!」
ハンマーがゴーレムに当たった瞬間に光が弾ける。耳を劈く衝撃音。
うん。あれだね。
「ゴーレムには意味ない!」
見た目派手だしかっこいいし、光、衝撃、音とモンスターを怯ませる要素はあると思う。しかしゴーレムには効果なし。別に雷撃を食らわせて見たけど、それも効果なし。ゴーレムって魔法が効かないモンスターなのかも?
こういうことがあると、モンスター学は必要だと思う。迷宮みたいにある程度モンスターが固定されていれば危険はあまり感じないけど、迷宮外の森や山で予備知識なしだと危険なことがあるかもしれない。ただし基本的にパーティで戦うんだし、一人が覚えていればいいはずだ。たぶん。
「雷撃の有効なモンスターに使いたいですね」
確かに……。
「武器への付与魔法ってかっこいいね。風ならもう少し頑張れば覚えられるかな」
「頑張れば今年中に覚えられそうね」
付与魔法は補助魔法の一種なので、神聖魔法が必要となる。覚えたいなら神聖魔法を重点的に使ってもらおうかな。今は前衛だし攻撃魔法はそんなに必要ないからね。
二日目は午前中のみで、計十三体のゴーレムを倒し三体分の鉱石素材を確保した。せっかくの鉱石だし何か作りたいけど、オネエは石細工のスキルを持っていない。これから育てるにしても、寮で作業はやり難いし。家があればピザ窯とかね。あとはクリスタルのアクセサリーとか。とりあえず今は必要ないのですべて売る。欲しくなったらまた潜ればいいんだし。
「黒字ですね。ぜひまた来ましょう」
オネエがとても嬉しそうである。そんなに黒字だったか。
「スケッチを鍛えるのにちょうど良い迷宮です。三連休があればこちらの迷宮に潜りましょう。二連休だと少しもったいない気がするので」
「とても良いと思います!」
サオンも乗り気だ。虫が出ないからね。
「そうねぇ。もっと下まで潜ってみたいし、次の三連休はこっちに来ようか」
下に行けばもっと大きいゴーレムが出るらしいし。でかいゴーレムとか楽しいよね。
「あとね、採掘体験とかもあるらしいよ。ちょっとやってみたい」
迷宮とは別に鉱石を採掘出来る場所があるらしいのだ。観光客向けなのでアクセサリーに向いた鉱石が採れるようになっているそうだ。採掘した鉱石で装飾品を作るのが若い女の子の間で人気だそうで、ちょっと楽しそう。
「ではなおさら三連休ですね」
だね。二連休では採掘体験に割く時間がない。
「次の三連休っていつだっけ」
「来月の半ばですね」
三週先くらいか。
「よし。じゃあ三連休初日に採掘体験行って、一日半迷宮ね」
鉱石はパーツにしてもらって、他の素材も組み合わせて作るってのもいいな。シルバーが欲しい。スタッズとかラインストーンのついたベルトがかわいいかも。
うん、楽しみになって来たぞ。
「あ、宿のご飯微妙だったから、次回は外に食べに行こうね」
宿代安かったから仕方ないけど、次は名物の石焼き料理を食べてみたい。
馬車の返却後、スケッチを家まで送り届けてから寮に戻った。うっかり送らずに帰ったらスケッチは絶対絡まれると思う。




