魔法実技決定
魔法の実技は基礎を受講出来るようになったので、神聖、時空、火、風の四種類を選ぶことにした。これで合計五つ。週に十限あるので、一教科二限ずつ使える。
表向きには魔法実技で四つ、剣術、馬術、刀術、投擲で四つ。合計八つ。
つい癖で軽業を使ってしまうので、九つで残り一つ。武器愛好倶楽部で使う武器を厳選して、やっぱりハンマーかな。表向き、学園で使えるスキルはこれだけだ。
実際は観察や読書、礼儀作法等を設定してるので枠が足りてない。でもスキルって魔法や技を使わなければ、設定していることがばれないものも多いしね。なので私は実技の前に必要なものだけ設定している。かなり面倒だけど、そうした方が他のスキルに引っ張られて下がってしまうという事態を避けられる。
どうせなら自由設定は使いたいし。活用活用。
放課後は動く的が納品されたというので、ダーツ倶楽部に行くことになった。
「おぉ、動いてる……!」
「セリカ様、口調、口調!」
サオンが小声で慌てて忠告してくれた。
おっと失礼。ユーリー様がいるんだった。
ごめんね、サオン。気を付けるからそんなにびくびくしないで。
壁にレールが設置され、それに嵌め込まれたダーツの的が左右に動く。動きは規則的で、右から左、行き止まりになったら今度は左から右。速度は一定。単純だけど、まったく動かないより楽しいかな。
迷宮で使う投擲に比べるとどうしても簡単だけど、投擲スキルを反映しないから、普通の人には充分だと思う。サオンはちょっと規格外だから別だけど。
「立体的で不規則な動きが出れば、実際のモンスターのようでさらに面白いかもしれませんね」
端的に言えば改造したい。
左右のレールを曲線も取り入れて上下、ランダムに動けるようにしたら楽しいだろうなぁ。あ、天井からの吊り下げはどうだろう。奥行きの変化とか、的が裏表になったりとかも楽しそう。それならいっそ障害物も置いちゃう?
この部屋ってどこまで改造していいのかなぁ。
「しかしレメス・ベアートゥス氏の工房ではこれ以上の改良は難しいかもしれません」
「そうなのですか?」
「ええ。氏の工房では本来作られていないものですし……」
そういうものなのか。私はその辺りの事情に明るくないからなぁ。ユーリー様の従者さんが言うんだからそうなんだろう。有名な工房なんだし、変わった注文は嫌われそうだしね。
「残念ですが、仕方ありませんね」
魔道具制作の講師に改良案を聞いてみて、行けそうだったらやってみようかな。でもブランドへの冒涜とか言われるだろうか……。
「講師の方に聞いて、少し手を加えるのはどうかしら? 工房の方に悪いかしら?」
「いえ、それは大丈夫だと思います。工房に注文したものの整備を他の工房に頼むことはよくありますし」
そういうものか。
日本みたいに支店があったり、移動時間が短かったりしないので、わざわざ整備に呼ぶのは難しいのかもしれない。この工房は王都にあるみたいだし、他地方のお屋敷まで呼ぶなんて面倒だもんね。
「そうですか。では講師の方に聞いてみますね」
ユーリー様の上達に合わせて少しずつ改造していこうっと。
一頻遊んだ後、サオンは仕事の続きがあると寮に戻り、ユーリー様が剣術倶楽部に顔を出すというので、私も武器愛好倶楽部に行くことにした。
最近は迷宮でも倶楽部でも刀ばかり使っているので、パラメータの伸びもいい。目に見えて上がると意欲も増す。
今日はコジローがまだなので、カイ先輩に指導してもらうことになった。
「かなり上達しましたね」
「そうですか?」
褒められると嬉しいね。
パラメータの上昇は分かるけど、実際に上達しているかどうかはあんまりわからないしさ。
調子に乗って鍛錬していたら、コジローが来たことに気付けなかった。しかもじっと見られてるし。
「カイ先輩に上達したって褒められちゃった」
「そうか」
腕を組み、何かじっと考え込んでいるようだ。話し掛けても上の空。特に用事もないし、そっとしておこう。
解散の時間になったので、支度をして寮に戻ろうとすると、コジローに呼び止められた。
「……少し、良いか?」
「いいけど、何?」
何か考え込んでたし、悩み事相談か? 私、明らかに相談ごとに向かないんだけどよろしいか。
コジローの希望でカフェテリアに場所を移動した。二人とも珈琲を注文。
珈琲が運ばれて来たところで口を開く。
「それで? どうしたの?」
テーブルに肘をついて手を組んでいるので、コジローの口元は見えない。
「最近伸び悩んでいるんだ」
「あ、そうなの?」
自分より実力のない相手ならそれもわかるけど、さすがに格上が伸び悩んでいたとして、私が見てわかるわけないし。スランプ云々は初心者の私じゃなくてカイ先輩の方が相談役として適切だと思うんだけど。
「逆にお主は調子が良いだろう? 何かコツか何かあればご教授願いたい」
いやまぁ確かに調子はいいけど、あれだよね。元々資質が同等なら、システム上パラメータ低い時の方が伸びが良いのは当たり前だ。コジローの場合、私より刀術の資質は上だろうし、単純にパラメータが上がりすぎて低い時より伸びが悪いだけっていう。
というようなことを言ったら、それとは別らしい。うん、よくわからん。
「うーん……コツってわけじゃないけど、内緒にしておいてくれるなら」
「わかった。誓って他言はしない」
コジローならうっかり口を滑らせることもないだろうし、大丈夫だろう。
「私ハンターになって、週末は迷宮に潜ってる。倶楽部以外に実戦で使ってるから調子が良く見えるんだと思うわ」
「ハンター? 迷宮?」
コジローが不思議そうに呟いた。
「東ノ島にはないの? モンスター狩って素材売ったりしてる人のことなんだけど」
「狩人のことか。東ノ島にもいるな。迷宮は……聞いたことはあるが見たことはない」
「東ノ島は迷宮少ないの?」
「詳しくは知らないが、近くにはなかった。それで、ハンターになると上達するのか?」
「そうだねぇ。迷宮に行けばモンスターがいっぱいいるから、普通に鍛錬するより断然身に付くと思うけど。普段の鍛錬が対人戦っていうのならあんまり変わらないかもしれないけど」
「従者と手合わせはしているが、他の仕事もあるからな。そうかモンスターか……」
練習より実戦の方が伸びそう、っていうイメージもある。
ゲームでは実戦のないルートも存在したし、別にシステム上、実戦の方が身に付くようになっているわけではない。というか、そういう話は出て来ない。
コジローは少し躊躇いがちに切り出した。
「……ハンターには、どうしたらなれる?」
「ギルドで試験を受けて、合格したら講習を受ければなれるよ」
コジローなら試験を受ければすぐだと思う。コジローほど強ければ、私と一緒でパーティを組めとは言われないだろうし。
あとで絡まれても困るし、アカネにも教えておかないとなぁ。腕があるのなら推薦状を書いてもいいし。
そのあとギルドの場所や試験内容を詳しく聞かれ、翌日には推薦状を渡すこととなった。
決断早いな!




