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ゲーム風異世界でハンターライフ  作者: クドウ
兼業ハンター生活一年目
41/110

閑話 サルヴァサオン・フ

主人公の視点ではありません

苦手な方はスルー推奨

本編を読むにあたり支障ありません


 



 東方の森深く、フ一族の小さな集落でわたしは生まれた。

 男は狩猟、女は畑仕事。その収穫物とたまに来る商人から買う食料で、質素だけど飢えはなく、慎ましやかに暮らしていた。

 商人が来るようになったのは、大婆の子供時代でのお話で、族長が生まれる前。当然わたしは生まれてなくて、詳しいことは何も知らない。

 知っているのは商人が来るようになって、病人が減って、死ぬ人が減ったこと。そのおかげで集落の人口が増えたこと。だけどそのせいで、お金が必要なこと。それで出稼ぎに行こうという話が出たこと。

 わたしは成人と同時に、商人の娘が嫁いだという、アデュライト家に行くことになった。

 一族しかいない集落で育ち、ヒトは商人しか知らなかったわたしは、ヒトばかりの場所に行くことが不安で、怖かった。

 だけど、がんばらないと。わたし、おねえちゃんだもん。

 そう思ってたけど、やっぱりアデュライト家のお仕事は大変だった。

 大変というか、わたし、向いてないんだと思う。

 ちゃんと持ってるつもりなのに、カップが落ちる。茶葉の瓶を開けようとしたら蓋が飛ぶ。

 まともに出来るようになったのはマッサージくらいで、それも獣人だから出番はとても少なくて。わたしじゃない人が出稼ぎに来た方が良かったんじゃないかな、とすごく落ち込んだ。

 わたしと同じ年で出稼ぎに出たのは、女の子がもう一人の二人だけ。集落にはまだ残ってる人がいたのに、わたしが選ばれた。せっかく選ばれたのに、何の役にも立ててない。

 毎日失敗して、怒られて、それでもどうにかがんばって。住み込みだから生活費もほとんど要らないし、出来るだけ仕送りに回して。

 わたしの弟妹の数は、すごく多い。集落が出来て今が一番人口が多いらしくって、お金がたくさんいるのだ。

 食べていくだけならお金がなくてもいいけど、布とかお薬とか石鹸とか食べ物じゃないものも必要だから。

 わたしががんばらないと、皆が困る。わたしが足を引っ張っちゃだめなんだ。


 働き始めて初めての秋。担当場所が変わることになった。

 そこで今の主である、セリカ様に出会ったのだ。

 セリカ様に出会えたことが、本当に運が良い、奇跡のようなことだと思う。

 大袈裟だって思われるかもしれないけど、間違いない。だって仕事の大変さが半分になって、怒られることもなくなって、甘いものもらえて、お給金もすごく増えた!

 え? すごいよね? すごいことだよね?? セリカ様すごくいいあるじ!!! 

 


「美味しい?」

「おいひいれふっ!」


 まふぃん、おいしい。





 

 ふぅ……。

 セリカ様は、お茶を淹れるのがとても上手。

 わたし、メイドなのに、セリカ様の方が上手。

 セリカ様はカップを落としたり、茶葉をばらまいたりしない。落ち込んでいたら、得手不得手があるからね、と言われた。正論、だけど、わたし、メイドなのに……。

 でもわたし、得意なことが一つ出来た。

 ダーツ、投擲だ。

 セリカ様が買って来たダーツゲームのお相手をしたら、すごく上手に出来た。セリカ様が喜んでくれたから、嬉しかった。わたしでも役に立てる!

 セリカ様とこっそりダーツゲームをするのは楽しい。だけど、ユーリー様のお相手は、苦手。

 セリカ様は怒らないけど、ユーリー様は怒るかもしれない。本当は、勝負に勝っちゃだめで、何か失敗してもいけないのだ。それくらい、わたしでも知ってる。

 セリカ様に言われてわざと負けることはしてないけど、本当に良いのかなぁ……。 

 

 失敗ばかりしてるのに、獣人なのに、専属メイドにしてもらえた。すごい。

 学園にも連れて行ってもらえて、部屋ももらえるなんて、すごい。一人部屋、初めて!

 

 セリカ様がハンターになれたのに、パーティが組めないと困っていた時は、どうしようかと思った。わたしが行けば、と思って提案してみたけど、試験があるって。試験……受かるわけないよね……。

 残念だったけど、新しい人が入ることになった。

 オネエさんは女の人に見えるけど、男の人なんだそうだ。よくわからないけど、セリカ様はオネエはオネエだから大丈夫、と言ったけど、よく意味がわからない。ヒトって不思議。女の人に見える男の人がいるなんて。獣人は見ればわかるもん。


 そして試練の時がやって来た!

 今までセリカ様に甘えてたから罰が当たったんだ! 蜘蛛こわい!!

 でも、害はないっていうし、セリカ様はかわいいって言ってるし、飼いたいって言ってる。本当は嫌だけど、こわいけど、がんばって慣れる。わたしがんばる……。

 蜘蛛の世話はセリカ様がしてくれるっていうし、留守中は籠の中に入ってるし、きっと大丈夫……。大丈夫ったら大丈夫なんだ……。


 オネエさんが来たけど、結局わたしも迷宮に行くことになった。

 得意な投擲が活かせるって聞いたから、ちょっとお役に立てそうな気がする! 新しいメイド服ももらえたし、うれしいな。すごく丈夫らしいから、破いて怒られたりしなくなるかもしれない!

 迷宮自体は、難しくないし、大きな失敗はないし、気が楽。だけど、虫。虫はいや。虫こわい。虫除けを買ってから虫が寄って来なくなって、すごくうれしい。

 

「次はどんな服がいいかなぁ」

「あたしとサオンの服ばかりではありませんか? セリカ様の服を仕立てた方が」

「私の服、海月素材が手に入ってからの方が都合がいいんだよね。ビスチェもホットパンツも露出がさぁ」


 オネエさんとセリカ様のお洋服のお話にはついていけない。

 集落の服の種類はすごく少なかった上に、お二人のお話はちょっと変わったデザインのことが多い。ビスチェもホットパンツも、どういうデザインの服かわからない。

 わからないけど、色んなデザインのかわいいお洋服をたくさんもらった。全部丈夫で、破れにくいんだって! オネエさんすごい!

 いいのかな。お給金も増えて、お洋服までもらって。

 しかも、迷宮に潜るようになってから、外で甘いものを食べることも多くなった。お店で食べる甘いものと、持って帰られる甘いものは種類が違う。どっちもおいしくてどっちも好き。特にパフェはおいしい。でもきっとすごく高い。

 それなのにこうして、食べに連れて来てくれる。しあわせ。


「あ、あの人の耳丸い。色んな耳の形があるのね」


 セリカ様が店の前を通った獣人を見て呟いた。

 わたしと違うって、あの人、種族違いますもん。えっと、わたしと一緒って、その人も種族違いますけど……。えっとあの、わたし、自己紹介でフ一族って名乗りましたよ? はっ、もしかしてフ一族をご存じないかも! 違います、違います、わたし犬じゃないです、狐です、あの人犬です。


「ひはいまふお」


 ああっ、口の中にぱふぇがあるから説明できないっ!

 セリカ様は時々、皆が知っているようなことを知らなかったりする。

 もごもごしているわたしを見て、セリカ様がにっこり笑った。


「美味しい?」

「おいひいれふっ!」


 ぱふぇ、おいしい。

 ずっと、セリカ様があるじだといいな……。



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