補助系スキルと生活系スキル
天使とのコールが切れてから、すぐに人の気配があった。神父さんだ。連れは金髪の若い男が二人に、黒髪眼鏡の若い男が一人。
「おめでとう、セリカ。心配したよ」
金髪のイケメンに抱きしめられた。父親にしては若いから兄かな?
「父上と母上は屋敷で待ってる。早く帰ろう」
「はい」
中身が変わってるから、ぼろを出さないか内心ドキドキなんだけど。
別の金髪イケメンが上着を掛けてくれた。いや別に寒くないけど。顔立ちがよく似てるからどっちも兄なんだろうけど、名前がわからない。
教会の表に出ると馬車が待機していた。四人で乗り込んでも広々としている。クッションも分厚いし、多少揺れても痛くなさそう。ガタゴト揺られながら家に向かう。乗り物には強いから全然平気だけど、弱い人は酔いそうだ。
馬車の中で当たり障りのない会話をしながら情報を拾う。家族構成は大体把握した。黒髪眼鏡は使用人で、どうも名前はセバスチャンというらしい。ベタすぎる。何となく見たことあるなと思ったけど、たぶんセリカルートで出てくる執事だ。無表情で冷徹な執事。
最初に接触した金髪がアデュライト家の次期当主の長男・デュー。上着を掛けてくれた方が次男・リオン。長男が穏やかで優しそうな感じで、次男がちょっと筋肉質で強そう。ちょっとぼんやりしてる感じがする。
兄がもう一人と姉が二人いて、名前は判明している。あとは顔を覚えるだけだ。特に姉はどっちがどっちか要確認。
教会から屋敷まではたぶん十分ちょっとくらい。時計を見たわけじゃないから実際のとことはわからないけど。
一応貴族で住み込みの使用人もけっこういるみたいだし、かなり大きな屋敷だ。日本で住んでいたアパートの何倍あるかわからないくらい。庭もかなり広いし、よく手入れされている。雑草も落ち葉もない。
「ただいま戻りました」
革張りのソファに、両親が仲良く座っていた。金髪に顎髭のチョイ悪オヤジ風美中年とほっそりとした金髪のき妖艶系美女。兄二人は父親に似たようだ。そっくり。
「セリカ、おめでとう。よく戻って来てくれた。あまり心配をかけさせないでおくれ」
父親の抱擁を受け入れる。おめでとうって何か違和感がある。神の奇跡で生き返ったからって理屈はわかるんだけど。
「疲れているだろう? 食事の時間までゆっくりお休み」
「はい」
自殺から生き返ったにしてはあっさりだな。そして母親は一言もなし、と。無表情だし、何を考えているのか。
セバスチャンに二階の自室まで付き添ってもらい、少し横になると退室を促した。昼食前に迎えが来るというので、それまでひたすら取説を読もう。
しかしこの部屋は居心地が悪い。薔薇の彫られた家具のシリーズも、天蓋付きのベッドも、高さそうな調度品の数々も、何というかわざとらしい。ちょっと昔のヨーロッパ貴族ってきっとこんなのだよね! って臭がぷんぷんする。もっと丁寧な仕事しろよ。
ともかく取説だ。あ、他にもおもしろそな本がたくさんある。あとで読むか。
はじめにこの世界はゲームではなく――、から始まってこの世界の常識と言える設定、パラメータの見方、魔法の説明、近辺で見られるモンスターの説明など。さらっと斜め読み。よしスキルだ。何はともあれスキル。
「なにこれどういうこと」
スキル設定の枠は十。現在選べるスキル、三。
何で三つしかないの? 高スペックなんじゃないの? しかも読書、観察、神聖魔法って戦闘技能が一つもない。バトルアックスかハンマーか大剣くれよ。
確かに誰もがすべてのスキルを取得出来るわけではないって書かれてるけどさ。一応高スペックな体なんでしょ? それとも中身が私だからダメってか!?
「あーもーちょっと休憩っ!」
柔らかいベッドにダイブ。気持ちいいなー羽毛かな。埋もれている間に寝てしまっていたらしい。メイドさんに起こされた。
「さ、着替えましょう」
メイドだ。本物のメイドさんだ。
濃紺のシックなエプロンドレス。銀縁の眼鏡をかけていて凛々しい目元が何だか賢そうだ。右横で三つ編みにした長い髪を、頭頂にぐるりとまわしている。王女編みって言うんだっけ。前はボブだったから出来なかったけど、今の長さなら出来るな。今度やってみよう。
ピンクベージュのワンピースドレスに着替えさせられた。後ろにボタンがたくさんあるタイプで、一人では着れないであろう造りになっている。不便。
今は鏡台の前で髪の毛を結い上げられている。さすが本職、手馴れてるなぁ。
こうしてみると、私は父親に似たんだな。兄二人共よく似ている。うっかり見蕩れそうになるほどの美人だ。このままだとナルシスト街道驀進してしまいそう。
そうだ、どうせ暇だし気になることを聞いてみよう。
「あなたはスキルをいくつ持ってるの?」
「スキルでございますか? 十ですね。私は十六歳なので」
「年齢が関係あるの?」
「スキル取得の十五歳から一年以上経ってますからね。さすがに十は揃いますよ。お嬢様もあと一年と少し待てば、スキルが頂けますから」
ん? スキルって十五歳からなの? 一年と少しって私今十三歳ってことか? この体で? このぼんきゅっぼんで? 前の私って何なの? 二十三歳であれだぞ?
「お嬢様は神の奇跡を頂いているので、きっと神聖魔法を使えるようになりますね」
神の奇跡=神聖魔法か。
そんなこと取説に書いてなかった気がするけど。
仕上げに花飾りを付けられた。ルームシューズも揃いのものに変えるらしい。細かいな。普段からこういう感じだと衣装数すごそうだ。
付き添いはメイドではなく、セバスチャンだった。食堂には男女合わせて五人が着席している。兄姉たちか。両親はいない。
「セリカ、気分はどうだい?」
「もう大丈夫です」
頷いて席に着くと長兄のデューが胸の前で手を組み、目を瞑った。
「神の恵みに感謝を」
短い挨拶を他の全員で復唱して食事が始まる。取説の常識のページにあった行動だ。
料理はトマトクリームの具沢山スープに薄くスライスされたフランスパン、茹でた肉に茶色っぽいソースがかかったもの。変な食べ方をしても困るので、斜め前にいた姉の真似をして食べた。美味しい。
「お父様とお母様はジャーヴォロノク家に行っているわ」
「え」
なにそれジャーボロック? 誰それ……。
「大丈夫よ、ミハイル様との婚約はきっと解消されるわ」
よくわからんがセリカはミハイル様との婚約が嫌で自殺したのかな?
食事の手を止め、少し俯く。こんな時どんな表情をしたら良いのかわからないの。笑えばいいのか泣けばいいのか、そもそもミハイル様って誰ですか。
「ジャーヴォロノク家との結びつきを強くしたいのなら、ユーリー様の方が年齢的にも良いのにね。ミハイル様は確かに素敵な方だけど、三十近い年齢差だなんて。しかも三回目のご結婚!」
「アンジュ、やめないか」
「でもお兄様……」
金髪ウェーブのかわいい系がアンジュお姉様か。結構友好的?
しかしユーリー様で思い出した。ユーリー・ジャーヴォロノク。セリカ・アデュライトの婚約者。ゲームのグラフィックでは水色の髪をしたクールなタイプのイケメンだ。ちなみに私の好みではない。
「お父様とお母様が帰って来ればわかることよ。それよりもセリカ、もうこんなことはよして頂戴。私にでもアンジュお姉さまでも相談してくれれば良かったのに」
「……ごめんなさい。もうしないわ」
金髪ストレートの美人系がエリザーベトお姉様か。父親似だな。兄弟仲は悪くないようで何より。
「気分転換したくなったら、いつでも馬に乗せてやるぞ?」
「ふむ……気分転換に剣の」
「リオン、セリカは女の子なんだから剣はやめてちょうだいね」
おぉ皆好意的だ。しかし個人的には剣が魅力的なんだけど。女だと剣持てないとかないよね。ゲームではしっかり持ってたし。馬は止められなかったから今度頼んでみよう。迎えに来てなかった兄だから、三男のダーヴィトお兄様だ。
食事を終えて、食後のお茶を頂いたあと、セバスチャンに付き添われ部屋に戻る。これ毎回付き添われるわけじゃないよね? 他の人は一人で戻ってたし、体を心配されてるんだよね?
不安を残しつつ、スキル設定の続きに戻る。
「増えてる!」
思わず歓喜の声をあげた。ジャンプと礼儀作法が増えている。どっちも戦闘系じゃないけど、希望が見えた。
これで五つか。とりあえず全部設定。取説の残りのページを読む。
残りのページには特典が書いてあった。
「かなり反則よね……」
自然と口角が吊り上がる。十五歳からのはずのスキルがすでに使えるのは、特典のひとつのようだ。注意事項として特典の存在を他者に知られないようにと記されている。
他の特典を大雑把に言うとスキル自由変更、外傷では死なない、服毒自殺によるサービス特典で毒無効、ついでに毒の種類が解析出来る、だ。
「ククッ……これは最強のハンターいける……ッ!」
読書2
観察1
神聖魔法1
ジャンプ1
礼儀作法1