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ゲーム風異世界でハンターライフ  作者: クドウ
兼業ハンター生活一年目
39/110

工作




 魔道具制作初日。

 最初はどういったものがあるか、というところから始まった。魔道具を使っていない家はないので、身近に見られるものを例にあげて教えてくれた。

 初日は初歩の初歩ということで、あらかじめ魔法を込められた魔石を型に嵌め込むだけの、簡単な魔道具作り。壁掛け時計の部品を配布され、それを組み立てるだけ。ホームセンターに売ってそうな簡素なもので、電池のかわりに魔石がついている。この魔石に込められた魔法の作用で半永久的に針は動き、ずれることもない。

 文字盤は自分たちで工夫する。絵を描いたりレース編みを貼り付けたりと、それぞれ楽しそうにしている。

 あ、スケッチに魔糸蜘蛛クラウド描いてもらいたかったな。どうせ飾るなら上手な絵の方がいいし。でもこの先スケッチと話すこともないだろうし、仕方なく自分で描くことにする。絵は得意ではないけど、何の絵かわからないほど下手でもない。無難に花の絵にでもしておこう。

 残った時間で魔石に魔法を込める方法を教えてもらえた。実際魔法を込めるのは魔法実技が始まってからなのでまだまだ先だが、以前買った魔石がまだ残っている。

 意外と簡単そうだし、ちょっとやってみようかな。





「セリカ・アデュライト!」

「ん?」


 廊下で呼び止められたので振り返る。赤紫色の髪の毛をお団子にした女子生徒に睨まれている。耳の横からぴょいんと毛が飛び出ているのが特徴的。すごく見覚えがある。


「アカネ・ナントカだ」

「アカネ・アマミヤよっ!」


 あぁアマミヤだったか。

 アカネ・アマミヤはライバルキャラの一人で、コジローと少し仲良くなったらすぐに現れる、コジローと同郷のストーカーだ。ちなみに婚約者ではなく、ただの追っかけ。


「はいはい、そのアカネ・アマミヤさんが何の用?」

「コジロー様に付き纏うのはやめなさいっ!」


 な、なんだってー。

 立ち位置が主人公じゃなくても現れるんだ。

 

「付き纏ってない。偶然よ」

「嘘よっ! 入学してから毎日一緒にお昼食べてるじゃないっ! 羨ましいっ!」

「別に約束はしてないわよ。羨ましいならアンタもくればいいじゃん」

「なっ! そんなこと出来るわけないでしょ! 恐れ多い!!」


 何で恐れ多いんだ。意味がわからん。別に主従関係じゃなかったよね? 東ノ島の独特な文化でもあるのかもしれないが、その辺りはゲームに出て来ない。


「それにコジロー様の目の前で食事するなんて、そんなっ! ああっ恥ずかしいっ!」


 何かくねくねし始めた。

 ゲーム内ではギャグ担当だと思ってたけど……リアルで見ると痛々しいな! 仲間と思われたくない。

 さりげなく距離を取った。


「待ちなさい! 逃げるなんて卑怯よ!」

「逃げるっていうかちょっと距離取っただけ」

「一緒よ! とにかくコジロー様に付き纏うのはやめなさい!」

「じゃあコジローから話し掛けられたらアカネに付き纏うなって言われたのでごめんなさいって言っとくわ」

「ひぃっ! アンタ性格悪いって言われるでしょ!」

「それが何か? 今すぐ引くなら今回はチクらないけど」

「お、覚えてなさいよー!」


 あ、逃げた。

 あれだな、食堂の視線は二人組じゃなくてこっちだったんだな。



 

 動く的以外の的が揃ったので、今日からダーツ倶楽部が開始されることになった。一旦寮に戻り、サオンと一緒に倶楽部棟に向かった。

 お茶の道具も揃っているので、ユーリー様が来るまでお茶を飲みながら待つ。


「セリカ様、ハンターのこと、秘密なんですよね」

「そうね」

「ずっと秘密にするんですか?」

「いつかはばれると思うけど」


 剣術でさえ反対されてハンターに反対されないわけがない。ユーリー様経由でお母様の耳に入ったら、確実に止めるように言われるだろう。武器愛好倶楽部も秘密にしておかないと。


「ばれた時は仕方ないから口止めするけど」


 言わないでいてくれる保障はないけど、性格的に言わない気がする。そういう言い付けるようなことをするタイプじゃないというか。


「いざとなったらダーヴィトお兄様とモナさん抱き込んで家出かな。サオンのことはどうにかする」


 連れて行くか、置いていくにしてもお詫びはしないとね。私のせいで迷惑かけるんだし。

 今はまだ誰にも会ってないが、いつかギルドで学園の生徒に会うこともあるだろう。迷宮に行く途中にすれ違う事もあるかもしれない。それがユーリー様にさえ伝わらなければ、お母様の耳には入らない……と思う。

 婚約破棄も、出来るだけ穏便に済ませたいしなぁ……。


 ユーリー様が来てから、的の調整をし、一勝負することになった。

 そして当然のごとくサオンに勝てず悔しがる。私も悔しいけど、最近諦め気味。それほど圧倒的だ。サオンはサオンでこれしかないですから、と頑張ってるし、追いつける気がしない。

 ダーツ倶楽部の活動日は、ユーリー様が他の倶楽部に行かない日になった。ダーツ倶楽部がない日は武器愛好倶楽部に行くことにしよう。



 翌日の朝のHRが終わった後、フェリシー様に話しかけられた。意を決したように、声を掛けるまでによし、と小さく呟いたのがものすごくかわいかった。


「食堂に連れて行ってくださいませんか……?」


 私のローブの端を掴み、フェリシー様が恥ずかしそうに言う。何だこのかわいい生き物は。私が男だったら一発で落ちてるわ。

 

「当たり前だが俺も行く」


 当たり前なのかよ。アルベール様はちょっと過保護なんじゃないか。フェリシー様にはフェリシー様のお供の人がいるのに。

 そうなるともちろんシルヴァン様も一緒なわけで、四人で食堂に行くことになった。嫌じゃないんだけど、この三人と一緒だとすごく目立つ。

 視線がちらちらと投げかけられ、令嬢のきゃあきゃあとかわいらしい黄色い声が聞こえてくる。

 一番注目されてるのは、やはりシルヴァン様だ。王になることはないけど王子だし。セットでタイプの違う美形がいるにも騒がれる原因だよなぁ。黙っていれば目の保養になる……人もいるんだろう。

 私もフェリシー様がいなかったら目の保養だと思っていたかもしれない。三人並ぶとフェリシー様がダントツすぎて二人が霞む。お前らなんぞフェリシー様の引き立て役だ。


「何かお前失礼なこと考えてないか?」

「気のせいでは?」




 さすがに食券の購入と配膳はお供の人がするようで、席に座って待つ。私の分も用意してくれるというので、お言葉に甘えた。何となく三人だけで食堂のテーブルにいるというシチュエーションが怖くて。

 日本食プッシュしたわけじゃないけど、男二人は定食を選んだ。私も定食だ。


 シルヴァン様が味噌汁を飲んで、ぽつりと呟いた。


「不思議な味がする」


 微妙な顔で食べているので、たぶんあんまり好きじゃなかったんだろう。なんていうか、お椀がとてつもなく似合わない。


「一度食べてみたかったのです」


 フェリシー様はシーフードドリアを食べている。

 グラタンやドリアは西方の料理で、中央では珍しいのだそうだ。いやけっこう店のメニューで見掛けますが……。


「旨い」


 アルベール様は育ちが良いはずなのに、言葉遣いが良くない。ゲームでもそうだったけど、現実になったのに綺麗になってないってどうなんだ。まぁそれが許されてるから私がちょっと言葉遣いを間違えても、誰も何も言わないんだと思うけど。



 神学の授業はフェリシー様たちも受講するようだ。昼食後、そのまま講義室に移動した。席順は決まっていないので、いつものようにフェリシー様の右横を確保する。

 フェリシー様の左横はもちろん赤髪で私を見張っている。いい加減信用してくれてもいいのに。

 前の方に座っている生徒と目があった。目があったというか、ガン見されてる。なぜ。

 オレンジの髪を後ろで三つ編みにして、丸眼鏡をかけている。主人公に攻略キャラの好感度を教えてくれるサポートキャラだ。

 サポートキャラはライバルにならず、本が好きで図書室に篭もっており、ヒント機能も兼ねていたので情報通。現実でも攻略キャラの出現場所とか知ってたら怖いな。知ってそうだけど。

 その彼女になぜこんなにガン見されているのか。情報でも探られてるの? ストーカーキャラはそんなにいりませんけど。


 講義は他の座学に比べて楽しい。

 この世界に神はゼストしかいない。ゼストは一人ではなく集団、しかし個人で区別されていないので、多神教なのか一神教なのか分類に困るところだ。まぁこの世界にそういう単語はないので、分類なんて関係ないんだけど。

 最初に神について学んだ。神の在り方、その偉業などだ。要するにこの世界を作ったのは神で、その秩序を守るのも神だということ。

 神については制作エピソードやこぼれ話の類がそのまま神話扱いになっている。個人で区別されてないので、神はまるで多重人格のようだ。

 神は嫌煙家で長年喫煙してたけど禁煙する、でもどうせすぐ失敗する。神は甘党で、珈琲には砂糖とミルクを入れないと飲めないが、毎日ブラックコーヒーを飲み、フレッシュミルクは欠かせないそうだ。

 どう考えても混ざってる。意味わからんわ。

 よくわからないながらも、聖職者は喫煙を禁じられているし、珈琲は聖なる飲み物だそうだ。

 こういう話が多いので、その背景を考えるとちょっと楽しい。私はこの世界で知られていないゼストのスタッフ情報を知っているので、おもしろさ倍増。ついでに神聖魔法もちょっと上がってお得感。

 

「今日はこれで終わりですね」


 今日の講義はこれで終わりだ。魔法が属性別に分かれるまでは、一年生全員が一限早く終わる日が存在する。


「フェリシー様は倶楽部ですか?」

「今日は帰ろうと思います」


 フェリシー様はレース編みの倶楽部と音楽の倶楽部に入ったそうだ。今度こっそり覗きに行こう。

 三限までなのは一年だけなので、今行っても先輩はいない。そのため、早く終わる日は倶楽部を休む人が多い。

 ダーツ倶楽部は一年しかいないので、その辺り関係ない。

 ユーリー様が今日は行くというので、サオンを呼ぶため寮に戻った。


 

 夜はいつも読書をしたり、クラウドと戯れたりするんだけど、今日は手紙が来ている。二番目の姉、エリザーベトお姉さまが、どうやら結婚するらしい。北方の貴族の家に嫁ぐそうだ。私は結婚式に参加はしないが、知らないままでは困るので知らせて来たらしい。

 姉妹で未婚は私だけになった。これはいよいよ卒業後が危ない。お兄様達は揃って未婚だけど、上の兄二人は遠くない未来、結婚するだろうと思う。

 ダーヴィトお兄様はハンターという安定していない職につくことが許されているので、政略結婚からは逃れられるのかもしれない。

 前から思ってたんだけど、戦争とか政治云々の意味が薄い世界なのに、政略結婚ってどんな意味があるんだろうか。



 


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