実技
一限目の魔法基礎が終わると、いよいよ初めての実技だ。私が選んだのは剣術と馬術で、どちらも人数が多いため、複数のグループに分けられている。
二限目は剣術で、私はBグループだ。Bグループは第二訓練場に集合となっている。制服から実技用の服に着替え、訓練場に向かった。
Bグループは女子と、ほんの少しの男子生徒だ。実技用の服は自由なので個性がある。上に着ける防具は貸し出しもあるが、革であれば持参しても良いことになっているので、猿革防具を持って来てある。しばらくは試合もないし、そもそも実技用の服はいい布を使っているので少々の無理は大丈夫なんだけどね。
お、スケッチ発見。他の男子と一緒にいるので、話し掛けるのは止めておこう。
しかし……あれだ。見事なくらい篩にかけられている感じがする。Bの男子生徒は明らかに剣術に向いていない。どうやって分けたんだろうか。看破スキルでも使ったのだろうか。プライバシーの侵害だと思う。
一応未経験者はいないということで、一列に並んで素振りを始めた。講師がそれを見ながら順番に指導する。
「うわぁ……」
これはひどい。初期の私より断然ひどい。
すごいへっぴり腰なんですが。向いてなさすぎだろ。
女子は剣術を選ぶだけあってそこそこだ。問題は男子の方。
入学が決まってから少し練習しただけ、という人もいるんだろう。一年間は授業があるし、このままってわけじゃないんだろうけど……。まぁね、剣で生活する人ばっかりじゃないし。一応魔法学園だから魔法がメインなわけだし。
剣術が終わり、今日も一人で食堂へ行く。牛丼を持って空いている席に行くと、今日はコジローが先にいた。
「実技はどうだった?」
「剣術Bはすごい。悪い意味で」
「そうか。その他もなかなかすごいぞ。悪い意味で」
その他の方は、まぁ、ね。講師一人で色んな種類を見るんだからしょうがないと思う。学園側がもっと講師を増やしてくれればいいんだろうけど。
「指導はもともと期待していない」
そりゃそうだ。刀術ならどう考えても東ノ島が本場だ。大陸ではマイナーな武器なので、指導者を探すのは難しいだろう。
「東ノ島には魔法学園はないの?」
「ないな」
ないんだ!
学校は各所にあるイメージなんだけど。
「コジローは魔法より刀って感じなんだけど、何で魔法を選んだの?」
「東ノ島には魔法士が少ないからな」
不足を補うわけか。
「お主は?」
「婚約者であるユーリー様のオマケ扱いね」
「成程。婦人は大変だな」
婚約者と同じ学園へ通う人は多い。
「魔法に興味があるからちょうど良かったわ」
もしユーリー様が騎士学園へ通うことになっていたら、私は学園に行けてなかったかもしれない。でも何でユーリー様はナビール魔法学園を選んだんだろう。騎士志望のはずなのに。今度騎士学園と魔法学園の違いを聞いてみよう。お兄様たちも通っていないので、騎士学園のことをほとんど知らないのだ。
「ということは、コジローは卒業したら故郷で魔法士になるのね」
「そうなる。こちらと東ノ島とでは組織が異なるが、近衛に近いな」
騎士団とか警邏とか近衛とか正直区別がつかない。何が違うんだ。
私がよくわかってないことに気付いたのか、ざっくりと説明してくれた。
国営が騎士団。その下に兵団。領営が警邏。王直属が近衛。本当にざっくりだ。
「騎士団は皆馬に乗るの?」
「そうだな。飼い馴らしたモンスターに乗ることもあるが、基本は馬だ。仕事の内容によって騎乗しないこともあるが」
ハンターから貴族になり、そのまま騎士になる人もいると聞いているが、私はハンターのまま貴族になりたい。ハンターから貴族になった人は、よほど大きな功績があれば別だが、王族の直属になることが多い。ある程度の自由があればどちらでもいいと思っている。幼い姫のお抱えハンターってのも魅力的だ。姫が欲しがる希少な素材を取りにいくとかね! 王族に幼い姫がいるかどうか知らないけど。
食堂を出るときに、また視線を感じた。今日の放課後、Dクラスを覗いてみよう。
午後も引き続き実技だ。今度は馬術でDグループ、第二乗馬場になる。
今度は女子生徒しかいない。フェリシー様も一緒だ。あの邪魔な赤髪はいない。
「フェリシー様は馬術ともう一つは何を?」
「杖術を選びました。セリカ様は?」
「私は剣術です」
「まぁ! ではお兄様たちと一緒ですのね」
「グループが違うので練習場所も違いますけどね」
ある程度の腕があれば女子と一緒にされてないだろう。ゲームでも二人は強かったしね。仮にも乙ゲーのヒーローが弱いとかないだろう。しかし主人公と全然合わないけど、ちゃんといるんだろうか。主人公以外にも攻略キャラ一人、セリカ以外のライバルキャラ四人とも接触ないけど。
ちなみにライバルキャラの一人はクラスメイトだ。私は話したことがないし、フェリシー様とも話しているところを見ないので、これまで接触なし。そもそも登場シーンが王子との好感度がかなり上がってからだったので、私には関係ないのである。
ライバルキャラは気にならないけど、主人公は気になるなぁ。どんな性格になって、誰のことを好きになるのか。
放課後、さりげなくDクラスの前を通ってみた。スケッチがいない。もう帰った後のようだ。二人組もいない。
「アルスケッチ・ファーマー様はもうお帰りかしら?」
「つい先ほど帰られましたよ」
「ありがとう」
倶楽部棟に向かう途中に、スケッチを見つけた。また絡まれてるし。
騎士の息子の癖に剣がB、女に助けられる軟弱、貴族位低いから言う事聞け。……おう、二番目私のせいじゃん。言われるだろうと思ってたけど。
「ごきげんよう」
「またお前っ」
「学園で貴族位って関係ないと思うのですけど。関係あるのでしたら私フィーアトですから、いう事聞いて下さるの? とりあえず焼きそばパン買って来てくれる?」
「は!?」
「ほら買って来いっつってんだろ」
売ってないけどな!
学園の購買に焼きそばパンはない。それどころかアンパンもメロンパンもない。ハード系のパンとサンドイッチがメインなのだ。
二人組の顔から血の気が引き、がたがたと震えだす。え、血の気が引くって本当に引くんだ! 初めて見た!
「わああ! もういいです! もういいですから!」
慌てたスケッチに止められた。その隙に二人組は走り去る。ちっ、逃したか。
私はスケッチに向き直り、頭を掴んだ。
「あのさ、こいつらも気に入らないけど、アンタもよ。何で言いなりなの? あいつらってそんなに偉いの?」
貴族位を振り翳し下位の人間をいびるという行為は、よほど位が上でないと難しい。一つしか位に差がないのに、たとえば親がクビになるとか、そういうことは出来ない筈だ。特に学園内で貴族位によって考慮されることはあっても、有利に働くことなどそんなにない。
「でも、貴族位が……」
「貴族位関係ないだろボケがぁ! 校則読んどけ!」
「ひっ!」
あ、泣いた。
「あー……アンタはそれでいいの? 悔しいとか、嫌だとか、ないの?」
「悔しいし、嫌だけど、あいつらが言ってることは間違ってない。父親も、ちっとも剣が上手くならない僕にがっかりしてる。兄がいれば、僕は要らないって思ってる……」
「じゃあ無理して騎士にならなくてもいいじゃん」
要らない子扱いでも、学園には通わせる。それなら自由に出来るって喜ぶべきところなんじゃ?
自分自身が親に期待されたこともないし、期待してほしいと思ったことがないからか、よくわからないけど。
「絵が好きなら絵で生計を立てるとか、騎士になるより好きなことすればいいじゃん」
「それは……」
そちらの方が現実的だけど、感情は別ってことかな。期待されたい、期待に応えたい、愛されたいっていう。
「せめてあいつらに言い返すくらいしたら? 剣はともかく、貴族位に関してはあいつらが偉いわけじゃないじゃん。見ててムカつく」
あ、さらに泣いた。
「君にはわからないよ……Aクラスの、優秀な人には」
「そこは関係ないと思うけど。私は私より優秀な人に難癖つけられても返り討ちにするし。出来なくてもしようとはするし、少なくとも黙って耐えることはない」
相手の弱点探したり、自分の土俵で勝負したりと卑怯なマネに出る可能性は否めないがな!
「まぁいいや。このまま三年間いじめられ続けてもいいけど、私の視界でやんないでね。邪魔したくなるから。返り討ちしたいから手伝って欲しいっていうなら手伝うけど」
「え?」
「スパルタだけどね。じゃ、私倶楽部あるから」
ようし、この鬱憤は倶楽部で解消しよう!
そしてようやく、刀術のパラメータが10を超えた。




